エレベーターピッチ!
奥田啓
エレベーターピッチ!
○ビルド&クライム社
エントランスホール
沙優は秘書を携えてエレベーターロビーへと歩く
黒髪を歩きながらうねらせる
現在4階から20階の社長室へ向かおうとする
エレベーターホールで一人の社員が沙優に話しかける
男社員「社長!新規事業についておはなしいいですか!」
沙優は慣れたように口を開く
沙優「いいよ。話を聞こうか。ただし20階につく30秒間だけだ」
そう言うとエレーベーターが口を開く
周りの社員がざわつく
社員A「エレベーターピッチが始まるな」
社員B「先輩、エレベータピッチってなんですか?」
社員A「おまえはしらねえのか。社長はただでさえ時間がない。だけどその中で社長と唯一時間を共にできるのがエレーベーターが動いている数十秒間だ。そこで新規事業などの提案をする。それをエレベーターピッチと呼ぶ」
社員B「そんな時間でできるるんすか?」
社員A「無駄を省いてすぐに伝わるようコンパクトで濃縮された言葉で伝えなければいけない。しかも超短時間でやるから大体の人は話長すぎたりみじかくても中身が伴ってなかったりという失敗が多い。そしてこれはおれの知る限りだれも成功していない」
社員B「やばいですね・・・
社員は緊張した面持ちでエレベーターの中に入る
自分のビジネスプランを話し終わると沙優はつまらなそうに言う
沙優「そうちの資金頼みすぎだし回収もふわっとしすぎる。なにより君のプランは心が動かない」
男社員「うっ・・・」
沙優「それをやる必要性が見当たらない。聞いていてなんの感情も動かなかったよ」
20階につきそのまま沙優は秘書と一緒にでていく
その社員はうなだれたままだった。
宗介はその姿をみつめていた
沙優「今月は10人か。少ないな」
秘書「今日も心動きませんでしたか」
パンツスーツをきてピシっとしたメガネ姿の女性の秘書は呆れ気味で話す
社長室に入ると沙優はゆったりと厳かな椅子に座る。
沙優「うん。なんにもだね」
秘書「うちであたった事業はすべて社長によるもの
そして24歳の時に上場という最年少上場記録をビジネス会の寵児が唸る新規事業なんてだれも考えられませんよ」
沙優「まあ簡単にはでてこないだろうな。通らなくとも面白い奴が来るのを期待しているよ」
社長室に入り厳かな椅子に座る
秘書「…しばらくはでなさそうですね。」
沙優「いつか私を心躍らせる誰かが出てきてほしいな。ふふ。」
窓の外の高層ビルが立ち並ぶ景色を見て言う。
沙優「ところで昨日はじまったドラマみたか?」
秘書「いえ」
沙優「みろやばいぞ!ちょーキュンキュンするぞ!1話目から展開やばすぎて・・・最後のふいうちキスがほんとやばくて・・・」
沙優は興奮してしゃべりだす。
秘書「(社員の前でいる時とキャラ変わりすぎだろ・・・・)」
秘書は冷めた目で見る
秘書「ほんとお好きですね」
沙優「ほんと最高だぞ!キュン死にしちゃうよ!」
沙優はきゃっきゃしている
秘書「そんなのばっかみてないで生身で恋愛してみてはどうですか?」
沙優「…」
秘書「会社も成功してるけど女性としての幸せもそろそろ考えてもいいのでは?」
沙優「うるさいうるさい!わたしにできるわけないんだよ!だれもいいよってくれないし」
秘書「自分待ちじゃなくて自分から行くとか・・・」
沙優「自分で行ってふられたらどうすんだ!そんなのたえられない!秘書なんだから紹介しろ!」
秘書「お断りします。めんどくさそうだし」
沙優「ガーン!ひどいよお」
○朝 会社前
黒塗りの車を会社前につけ
その車から沙優がでてくる。
エントランスからエレベーターホールに向かう。
エレベーターに乗ろうとすると沙優に声をかけるものがいる
宗介「あっあの!
沙優「ん?なにかな」
宗介「お話があり」
沙優「いいよ聞こう。上に着くまでだけど」
エレベーターの中に入り箱は上昇していく
宗介は黙ったままでいる。
沙優「・・・・どうした?緊張してるのか?」
黙っていた男が口を開く
宗介「好きですつきあってください!」
その場が静かになった
沙優「は?何を言っている?」
宗介「あなたがかわいすぎて一目惚れしてしまいました…付き合ってください」
沙優はフリーズしている
宗介「こんな可愛い人いるんだとおもって・・・・ビビっときたんです!好きです!!」
沙優「かわっ・・・すっ・・・」
秘書「ちょっと・・・この人がだれかわかって言って・・・」
宗介は沙優の手を取る
沙優「ぎゃっ!」
宗介「部署はどこですか!ランチとかいってもらえませんか!」
エレベーターが20階につき扉が開く
沙優はそのままでていってしまう
宗介「あっちょっと」
宗介の言葉をさえぎるようにエレベーターの扉は閉まる
沙優は急いで社長室へと駆け込む
沙優「なんなんだあいつは!!」
秘書「びっくりしましたね・・・」
沙優「突然へんなこといって・・・手を握ってきて・・・変態か!」
秘書「社長のこと社長だと認識してなかったですねあれは。普通にナンパみたいな」
沙優「私を社長と認識してないってどういうことなんだ・・・」
秘書「結構若かったですけど・・・新入社員ですかね」
沙優「無礼な奴だなクビにしろクビに」
秘書「でもすごいあわててましたね。顔赤くしてへんなこえだしてました」
沙優「だ、だっていきなりあんなことするからびっくりするだろ。とにかく次は代わりに対応してくれ」
秘書「かしこまりました」
○次の日の朝
エレベーターホール
沙優が秘書と一緒にエレベーター乗っていると昨日の男がのってくる
沙優「げっ」
宗介は沙優の顔を見るなりぱーっと明るくなる
宗介「好きです!!」
沙優の手をつかもうとしたら秘書ががっちりガードした
秘書「やめてくださいさわるのは」
宗介「あっすいません・・・ついに思いがたかぶり」
宗介はペコっと謝る
宗介「あなたが好きでどうしてもそういう衝動にかられて」
沙優「すっ・・・・」
沙優はまたうまくしゃべれずにいた
秘書「この人がだれかわかってやっているんですか?」
キッと秘書は宗介を睨む
宗介「わからないので教えて欲しいです!」
秘書はあきれ答える
秘書「あのですね・・・この方はこの会社の社長ですよ」
宗介「え!!!!」
宗介はひどく驚く
宗介「そうなんですか・・・・・・」
秘書「なのでこういうことはやめていただきたいのです」
宗介は少し考える
宗介「あのー」
秘書「はい?」
宗介「彼女が社長なのと僕が好きって伝えるのってなにか関係あるんでしょうか?」
宗介はまっすぐな目をして答える。
沙優はその言葉にハッとする。
秘書は困っている。
沙優は少し笑う
そして宗介の方へ一歩出た
沙優「わかった。それならチャンスをやろう」
秘書「ちょ・・・社長?」
沙優「エレベーターピッチだ。」
宗介「え?」
沙優「毎朝1階から社長室がある20階へいくエレベーターをのる数十秒間だけ時間がある。
その時間君の時間を割くから私を口説いてみせろ」
宗介は息を飲む。
そしてぴしゃりとそれを告げる様をみとれていた
宗介「わかりました」
エレベーターに入ると沙優は試すように宗介を見る
宗介「めちゃかわいい社長まじかわいいっすほんとかわいいまじでずっとみてます」
沙優は照れてたじろぐ
沙優「ぜ、全然語彙無いじゃ無いか。だめだ」
エレベーターが目的階につく
沙優「0点だな。でなおしてこい」
宗介「そんなあ・・」
エレベータをでて沙優はため息をつく
社長室へのみちをあるきながら
沙優「あいつやる気あんのかな・・・あきれるよ」
秘書「あほですね気持ちを伝える語彙が皆無でした」
○別の日
エレベーター内
宗介「えー・・・冷たいようで優しい顔もする君が好きです」
沙優「へ?」
宗介「えーっと・・・」
宗介はブックカバーのついた本を取り出し見る
沙優は怪訝そうに見る
沙優「何を見ている?」
宗介「えっいや・・・」
沙優「見せてみろ」
その本をパッと取り、ブックカバーを外す
素敵な告白集とかかれたタイトルが出る
沙優「おいなんだこれ」
宗介「語彙力がなくて・・・これを参考にしようかと」
沙優「こんなの見てささるやつがどこにいるんだバカ出直してこい」
沙優は目的階に着くとプリプリしながら出て行く
宗介「ああーまってください」
エレベーターのドアが閉まる。
○またある日
エレベーター内
宗介がずんずんと社長に近く
沙優は退く
壁ドンをする宗介
沙優「へ?!」
宗介「君が好きだ!付き合ってくれ」
沙優「ひええええ・・・」
宗介「なあいいだろ?」
沙優の顎をくいっとする宗介
沙優「さわるなやめろきもい!」
宗介の腹をどんと押す
宗介はエレベーターの端まで突き飛ばされ壁にぶつかる
宗介「ぐえ!」
沙優「ばかかおまえは」
エレベーターがあき
ずんずんとでていく
宗介「ああ〜まってください」
エレベーターのドアが閉まる
○社長室
沙優「毎日毎日変なアプローチばっかり」
秘書「アホですねほんと」
沙優「へんなのいわなきゃよかった」
秘書「なんでこんなことやらせてるんですか?」
沙優は長い髪を人差し指でくるくると絡ませながいう
沙優「いやべつにおもしろそうだったから」
秘書「社長も女性ですからドキドキしたかったんですね」
沙優「ち、ちがう!ばかなこというな」
秘書「へー」
沙優「なんだそれやめろ!」
秘書に電話がかかってくる
秘書は電話をでると驚きそして神妙な面持ちで
電話の向こうの人間に返事をする
電話を切る
沙優「どうした?」
秘書「最近ちょっと社内で噂になっていて恋愛にうつつを抜かしているとタレ込まれていて
週刊誌に乗るそうです」
沙優「そうか、まいったな」
女性社員「週刊誌見た?やばいね。社長がすごい男遊びしているらしいよしかもうちの会社の男と」
男性社員「遊んでる感じは士気にかかわるよなあ。社長いっても若いし遊びたいお年頃かあ」
テレビニュースでは沙優の会社についてコメンテーターが
罵詈雑言を投げていた
宗介はなにか考え事をしていた
○次の日
エレベーターホール
エレベーターがくるので乗り込む沙優と秘書
宗介がやってきて中に入る
宗介「社長!」
グッと近寄ると沙優は冷たくいう
宗介「すみませんおれのせいで・・・」
沙優「大丈夫私がやれっていったんだ君の責任じゃ無い」
宗介「でも・・・」
沙優「まあ会社として顔もあるのでね。私がうかれてる姿を見せ続けるのは会社全体の士気にかかわるから。もうおわりだね。君はちゃんと大人しくしてる方がいいよ」
沙優は笑う
宗介は何か言いたそうに沙優をみつめる
途中階でひとがやってくる
ライバル会社のスタンドアローン株式会社社長
小見川奏がやってくる。
小見川「あらっ海原社長じゃないですか」
沙優「小見川社長・・・」
小見川「お邪魔しております。いやー大変ですね。でも海原社長も一人の女性恋愛くらいしたいですよねえ。どんな人とそんな関係にとおもっていましたがでもまさか年下好きだったんですねえ」
沙優「・・・・」
小見川「天下取ったらもう余裕って感じですかね。やっぱ女ってどんな地位についても結局恋愛に溺れる愚かものだなあ」
小見川は高笑いする
沙優はグッと何も言わずにいる
宗介「あの。すみません」
小見川「はい?」
宗介「どうも社長にアプローチしていた菅原宗介です」
小見川「えっ君?まじで!?海原社長と関係を持っていた?」
宗介「俺が一方的にアプローチしてただけなので悪く言わないでくださいよ」
小見川「君も社長いくかね普通。あたまやばいでしょ」
宗介「かわいいから気持ち伝えただけですよ。なにがわるいんですか?」
小見川「いやだからって社長って・・・」
宗介「すきなんだからいいでしょ。社長は僕の中でど真ん中だったんです。社長だからこの気持ち伝えるのやめようとかおかしいですよ。いうのは罪なんですか?そういう法律あるんですか?僕は自分の気持ちに正直にいきたいんです」
沙優は驚いてみている
自分の体が少しほてっていた。
小見川「会社で恋愛ごっこって・・・もうこの会社も落ちるのも時間のもんだいだな」
小見川は捨て台詞を吐き、そのままでていった
エレベーターの扉がしまりまた動き出す。
宗介「すみませんで過ぎた真似を・・・・」
沙優「いや、ありがとう。」
沙優はふふと笑う
沙優「一番よいエレベーターピッチだったな」
宗介「えっ・・・」
沙優「だれであろうと好きになったら想いを伝える・・・君のまっすぐさは
私に刺さったよ」
宗介「ま、まさか・・・それじゃあ」
沙優「ん?・・・・あっいやそういうんじゃない!」
宗介「えっじゃあどういう」
沙優「褒めただけだ!調子にのるな!」
宗介「なんだ…」
沙優「まあもっと私に刺さる言葉をかけるんだな」
宗介「それって・・・・またチャンスをもらえるってことですか?」
沙優「まあきいてやらなくもない」
宗介「やった!がんばります!」
沙優「はいはい」
社長室の階につき沙優はおりる
閉じるまで宗介はお辞儀をしていた
秘書「青春ですね」
沙優「うるさいな。それより今日の予定をきかせてくれ」
秘書「はいはい。今日はですね・・・」
エレベーターピッチ! 奥田啓 @iiniku70
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