第29話 王女ルナの恋 <エピローグ>運命のメロディー

 暗闇の向こうから、ふいに口笛が聞こえてきた。

 ニマには聞き覚えのあるメロディーだった。

 

「ニマ、私だ」

と、その声は云った。


 ドアを叩き、ドアの向こうから聞こえるその声は・・・

 ニマには、聞き覚えのある声だった。



「あの人だ!」

と、ニマは思った。


 会いたかったけれど、ずっと会えなかった人。

 両親と引き離され、たった一人でここへ送られてきたニマは、とて悲しかったし、心ぼそかった。しかしそのニマに、たったひとりだけ、優しく接してくれた青年がいたのだ。


 それは若き日の大尉だった。

 一時期、大尉は6才のニマにとって、肉親のように思えるとても優しいお兄さんだった。しかしニマが成長するにつれて、その青年とはなぜだか、だんだん会えなくなっていった。


 実際は、ニマと大尉は毎日ではないが会っていた。

 しかしそれは、ニマが別の人間の記憶を埋め込まれ、別の人間になっているときだった。だからニマには、青年との記憶が、ある時期から、全く無いのだった。


 ニマにとって、若き日の大尉は、誰よりも大切な人だったのだ。

 だからその声をドアの向こうに聞いたとき、躊躇なく、ニマは走って行ってドアを開けた。

 ニマは子供の頃のように、大尉に抱きつき、そして子供のように泣いて大尉に言った。


「どうして会いにきてくれなかったのですか?

 とても寂しかった。

 いつも泣きながら、あなたが来てくれるのを、待っていたのに・・・」

と言って、大粒の涙を流した。


 少年は成長しても、とても愛らしかった。

 そして哀しくなるほど、美しかった。

 大尉は長い間、ずっと心を殺し、少年を避けてきた。

 しかし少年の放つ輝きは、成長とともに輝きを増し、もはや魔力のように、見る者の心をとらえて離さない。


 少年はそのことにまったく気づいていないが、彼は知らないうちに、その瞳で、その唇で、見る者の心を誘惑するのだった。


「この子は、本当に毒だ」

と思いながらも、心は我慢の限界を超え、もはやその誘惑に抗うことは、不可能だった。


 大尉はその甘美な毒をついに飲み干す決断をした。 

 大尉は躊躇なく、ニマを引き寄せ、片手でニマを抱きしめながら、隠しもっていた注射の針を後ろから、ニマに刺した。







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「聖なる者」王女ルナの恋 来夢来人 @yumeoribitoginga

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