第26話 王女ルナの恋 ㉕

 リールイは、この堅牢な軍事施設と秘密の研究所を、ずっと護り続けてきた大尉を甘く見ていた。

 それほどの学歴もなく、それほどの野心もない人物だから、長年ここにくすぶっていられると思っていた。

 実はその逆だった。

 大尉は学歴もそれなりの教養もある、軍人としては珍しい人物だった。

 望めば、この施設勤務を足がかりに、いくらでもエリートコースを歩めたのだが、彼は望んでここに残っていた。


 両親と引き離され、たったひとりでこの施設へ送られてきた少年は、まだ6才だった。目に涙をため、必死に泣くのをこらえている姿は、やはり見ていて心が痛んだ。

 重罪人だというが、どこが重罪人なのだろう・・・、と大尉でも思った。

 しかし月日が経つにつれ、だんだん考えが変わっていった。

 そしてある日、不意に、『この子は毒だ!』、と強く思うようになったのだった。

 

 この子は、存在そのものが毒だと思った。

 少年は、驚くほど不思議な美しさに満ちていて、見ているだけで引きつけられる何かがあった。

 マルクスは、「宗教は民衆のアヘンだ」と云ったのだが、まさしく少年はアヘンそのものだった。それは女性に感じる欲望とは、また違うのものだったのだが、少年はいつの間にか心に侵入し、渇きにも似た感情を心にもたらしていた。

 大尉はいつしか、この少年から離れられなくなっていた。

 この少年には、誰も触れさせたくない、と云うのが本心だった。

 だから治療で少年に平気で触れる主治医は大嫌いだった。




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