第8話 王女ルナの恋 ⑦



「ダメです。事前予約無しでは、社長には会えません」

 

 外で秘書と誰かが揉めているようだった。

 しかしこの鉄壁の警備を誇る人材派遣会社に、

『どうやって事前予約無しに入ってこれたのか?』

と、ニーナは訝かしんだ。


「何事なの?」

とニーナは秘書に内線で問いかけた。


「私よ、ニーナ。大学で同期だったソヨン」

と、秘書とは違う人物が答えた。


「ソヨン?」


「そう、ソヨン。あなた私にヘッドハンティングのオファーをしたことを忘れたの?」


「それにしても、あなたの実力は認めるけれど、派手にやってくれたわね」

 今頃になって、賊が侵入したと連絡が入ってきたところだった。


「あなたの人材派遣会社、表向きはITセキュウリティーの派遣会社だけれど、

本当は紛争地に傭兵を派遣しているのよね。

それにしては、お粗末だわ」


「仕方がないでしょ。私の家族はプーチンとはまるで関係無いのに、ウクライナ侵攻のおかげで、関係のない私達まで、資産凍結の憂き目にあったのだから・・・」


「それでみんな、めぼしい人材は、逃げて行ってしまった・・・ってことなのね。

それで私に、白羽の矢・・・ってこと?」

とソヨンは、ロシア富豪の娘であり、留学時代の天敵ニーナにあきれたように言った。


「今度のプロジェクトは、仕事とは関係の無い、個人的なプロジェクトなの。

 でもリールイに関係のあるプロジェクトだから、あなたは断れない。

 あなたは未だに独身。リールイのことを、れられずにいる。そうなんでしょ?」


 ニーナとソヨンは、学生時代、リールイの愛を巡って熾烈な恋のバトルを繰り広げた。結局、この闘いに勝者は無く、そのままリールイは母国へ戻り、消息を絶ったのだった。


 ソヨンが秘密捜査機関の情報分析官に応募したのは、リールイの消息を知るためでもあった。


「あなたがリールイの情報を秘かに探っていたのは、知っていたわ」

とニーナは冷ややかな笑みを浮かべながら、ソヨンに言った。


「私も知っていたわ。あなたが秘かにリールイの情報を集めていることを・・・」

と、ソヨンも負けずに言い返した。




















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