第3話
目を覚ますと、陽太は見知らぬ部屋にいた。研究室に入った時の恰好だった。リュックサックは横に置かれている。部屋の天井は体育館くらいあるとわかったが、広さはわからなかった。紫色の生物が陽太を取り囲んでいたからだ。
「やっと起床なされましたね。それでは解説をお願いします」
近くにいる一体の紫色の生物が陽太に話しかけた。やはり耳に響く高い声だった。意味が分からなかった。
「ちょっと待ってくれ、よくわからない。お前たちはなんなんだ。ここはどこなんだ。なぜ解説をしなくちゃならないんだ。答えてくれなきゃ解説はできない」
陽太は言った。
「面倒ですが返答する必要があるなら返答しなければなりません。我々はある惑星から侵入した生命体です。貴方達がガイセーと呼称する生命体と故郷を同じくしています。身体を観察すれば理解できると思います。我々の星での生命体の基本構造である、1本の背骨に5対の肢帯がついている様子が確認できるはずです」
紫色の生物が陽太に向けて体を広げた。4本の足で直立して、残りの6本は人間の手のように発達し複雑な動きをこなせるようだ。たしかにガイセーと似た体をしていた。ケンタウロスに腕をもう二対足したようなシルエットで、見上げてやっと視界に入る頭部の大きさは人間の3倍ほどだ。それ以外の細かな構造はあまり地球の生物と変わらないようだ。発声器官でも消化器官でもある黒く大きな口が陽太のほうを向いていた。
陽太はその穴へ話した。
「ガイセーを食べたことを怒っているんだな。復讐ってとこか。でも僕だけじゃない、世界中の人間が食べている。人間だけでもないじゃないか」
陽太は生き残るため必死に声を振り絞る。
「貴方は誤解をしています。ガイセーを地球と呼称されるこの星に送り出したのは我々です」
さらに意味が分からなかった。紫色の生物が話し続ける。
「貴方達の単位で数年ほど前のことです。我々はとても良い食用動物を発見しました。しかしながら、問題が発生しました。その食用動物が我々の幼体と同程度の知能を有することが発表されたのです。また同時期に我々は倫理の推論モジュールを獲得しました。我々の科学はこの星と比較して圧倒的に進展しています。惑星間移動など些末なものです。しかし、倫理となれば追従する立場です。生物学的にも時間をかけて同モジュールを進化をせねば解決できないと結論が出ました。そんな時間はありません。惑星では当食用動物を食べることが善だとする立場と悪だとする立場で争いが発生する寸前だったのです。そこで、我々の長が出した計画が他の倫理的推論モジュールを保持する生物に教示してもらうということです。倫理的モジュールを保持する生物にこの星のヒトが選択されました。そして、われわれと同じ状況を作るためヒトに都合の良い生物を侵入させ反応を観察しました。現在プロジェクトの最終段階です。貴方に解説されプロジェクトは完成します。ここはそのための人工衛星です。我々は地上にいると衆目を集めますゆえ。ご理解いただけましたか」
まとめると自分たちはバカだから倫理について教えてほしいってことか。陽太はある疑問を除いて納得した。
「なんで、僕なんだ?たぶん科学技術で擬態していたであろう教授のほうがよくないか、専門家だし」
陽太は疑問を紫色の生物にぶつけた。
「はじめはそう思案しました。しかし、専門家の説明は我々には高度すぎます」
納得した。陽太は紫色の生物に解説することに決めた。
研究室でした説明の内容を繰り返した。つまり、ある程度の知能が認められていようと食することは倫理的問題ではない、ということだ。身振り手振りや、図を使い、持ってきた資料を使い丁寧に説明した。時折くる質問にも丁寧に対応した。
紫色の生物たちは納得したようだった。
「有難うございます。ここまでのご尽力感謝いたします。おかげで争いが避けられます。いただきます」
紫色の生物は大きな口を開けて陽太を食べた。
地球外生命体を食らう ガミエ @GAMIE
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