神の住居

[土屋 勇人視点]


「土屋勇人、お前に今回の処罰を与える。しばらくの間自衛官が使用する部屋の掃除を行うように。誰から聞かれても自分の意思だと答えるんだぞ。」


時坂官長が私に罰を言い渡した。


「はい、分かりました。しかし・・・。」


「何だ?」


「本当にそれだけでよろしいのですか?私のやった事は懲戒免職になってもおかしく無いのですが。」


「うっ、ま、まぁ炎神様との交渉も上手くいき、被害者は君の親友でありほとんど目撃されていない。加えて部屋は元通りになっているんだ。ほぼ問題にならないだろう。」


「ですが・・・。」


「わたしが決めたことだ。土屋、わたしの指示が聞けないのか?」


時坂官長は情けをかけてくれたのだろう。本当に頭が上がらない。


「いいえ。分かりました。罰を受け入れます。」


「それでいい。では・・・。」


プルルルル


時坂官長の携帯だ。


「はい、時坂です。・・・はい。・・・何ですって⁈・・・分かりました。直ちに向かいます。」


何かあったらしい。


「土屋!神谷大学前駅前で神様の出現エネルギーが観測されたそうだ。水神様の可能性がある。今からわたしは出る。」


「あの、私は?」


「お前が行くとまたややこしくなる!今日は部屋の掃除でもしてろ!絶対、絶対現場に行くなよ!」


時坂官長が部屋を出て行ってしまった。私は言われた通り部屋の掃除をする事にした。


ーーー数時間後ーーー


すべての部屋の掃除が終わってしまった。といっても官長室だけやっていないが、これは許可を取った方がいいだろう。


私は外に見回りに出る事にした。もちろん時坂官長の言う通り現場には行かないが。


外は平穏そのものだった。小鳥のさえずり、電気自動車の静かなエンジン音。


それにしてものどかだ。ここから見える山の向こうではてんやわんやしているというのに。


電車は通常通りのようだ。今日もいつもの日常が動いている。


ふと、電車から親友が出てきた気がした。そんなはずはない。彼はまだ授業中のはずで、早くても数本先の電車で帰ってくる。・・・まさかサボり?


俺は駅前の物陰に身を隠し、彼らしき人が出てくるのを待った。




出てきた。間違いない、和也だ。でもいつもと様子が違う・・・?何か手招きしてる、し。



女性が出てきた。



・・・ふぅ。落ち着け。俺は叫びたくなる気持ちを必死で抑えた。



あれは、あれは神だ。



俺の直感はあれが人では無く、神である事を伝えてきた。


なぜ、なぜ和也が神と一緒なのだ。


操られている様子ではない。談笑しながら歩いて日々家、いや山の方へに向かっている。


俺は隠れながら2人?を追いかける事にした。





[炎神視点]


・・・暇じゃ。


ゆっくりできると言っても、流石に何も無さすぎるの。


ワシの家は作り直されてるようじゃが、中身が何もない。暇を潰すものもないわ。


「神楽坂(かぐらざか)、おらぬか?」


声をかけると、ワシの家の玄関から慌てた様子でこちらに向かって来る気配がした。


「は、はぃぃ。な、何でしょうか炎神様。」


此奴の名前は神楽坂 照天(かぐらざか すてら)、ワシの専属連絡係じゃ。


「神楽坂よ何か暇を潰すものはないか?流石に退屈での。」


「そ、それなら最近私が家で使っているアロマはどうでしょうか?り、リラックスできますし、ぐっすり寝れますよ。あ、寝るならビーズクッションや自然音楽、ハーブティーなども・・・」


「い、いや、暇を潰すために寝たい訳ではない。何か、そう、熱中して楽しめる遊びが無いか、とな?」


「す、すいません、私はそういう事に疎くて・・・。」


「そ、そうか・・・。」


此奴は寝る事にしか興味がないのか?仕事に関しては優秀なんじゃがの・・・。


そうしていた時山の麓の方で強い魔力の流れを感じた。ふと見ると神楽坂も感じとった様子じゃった。本当に仕事に関しては優秀じゃな。


「水神様・・・ですか?」


「そうじゃろうな。」


「どうしてこんな近くに・・・。」


「ワシには分からんよ。」


ただこの国に何かしようとするなら、ワシが止めねばなるまいの。


ワシは腰を上げて水神の動向に注意を払った。


ーーー約1時間後ーーー


何をやっとるんじゃ彼奴は?


一時的に動きが止まったかと思えば全然動かなくなってしもうた。


彼奴ならすぐにでも何かし始めると思っとったのに、えらい大人しいのう。


警戒のしすぎじゃったか。


・・・ん?彼奴動き始めたの。


ワシの住んでる山の周りをそこそこの速度で移動しておる。


もしや電車か?!何と酔狂な。彼奴なら空を電車より早く移動出来ろうに。


・・・まぁ久しぶりの下界、色々体験したいのじゃろ。


ワシは少しほっこりした。が、結局こちらに向かって来たので気を引き締めた。


「何じゃ?彼奴は結局こちらに来るのか。神楽坂、気づいておるな。水神がこちらに来る。ワシも対応に向かうので準備せよ。」


「は、はい!分かりました!」


一体何をしに来たんじゃ。


ーーーーーー


「炎神久しぶり〜。元気してた?」


「ほんの数日前に会ったばかりじゃろうが。元気にしておるよ。ちと退屈じゃがな。」


「へぇ〜。私はねぇ〜、少し面白いものを見つけたよ。」


何じゃ自慢か?いや、わざわざここに来たんじゃ。何も無いはずないの。


「それは何よりじゃの。して、何の用じゃ?それに隣にいる其奴は誰じゃ?」


はて、此奴どこかで・・・。


「この子ね、私の専属連絡係にしたの。それでご挨拶とお願いにね。」


水神が隣にいる青年を指し示した。じゃが、隣にいる青年は上手く言葉が出ないようじゃった。


「・・・あ、う。」


「こら!緊張するのは分かるけど挨拶はしっかりしなさい!」


「し、失礼しました!この度専じょく連りゃく係になった日々和也です!宜しくお願いします!」


勢いに任せた挨拶だった。所々噛んだらしい。


それにしても、、、


「水神よ、其奴は自衛官では無いようじゃが?」


「そうよ。さっきゲームセンターって所で会ったの。」


「は?すまん水神、よく聞こえんかったのじゃが。」


「彼は一般人よ。」


・・・・・・


「な、何を考えとるんじゃ!ただの一般人にワシらの世話も、連絡係としての責任も手に負えるわけ無かろうが!」


「そう、だからお願いに来たの。」


するとさっきまで緊張で声も出ておらんかった青年が口を開いた。


「しばらくの間、炎神様には水神様に住居を貸して頂き、炎神様の専属連絡係の方には水神様の世話もお願いしたいのです。」


は?


「はああぁぁぁぁ?!」



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