ゲームは何のために

[日々 和也視点]


「さて、一体なぜ君は水神様と一緒にいるんだね?」


強面の自衛官が聞いてきた。


「えっと、このゲームセンターで絡まれまして。」


俺は正直に答えることにした。しかし突然自衛官は怒り出した。


「水神様がこんな下賎なところに来られる訳がないだろう!」


あ?


「水神様は最初に現世に来て下さったお方!そして大国さえ滅ぼす力を持ったお方!そんなお方がこんな暇人の巣窟にわざわざ来られるはずがないだろう!」


何だこいつ。俺はピキピキ。あ、後ろにいたゲーセンの店長もピキピキしてる。


「人にはそれぞれ相応しい場所があるのだ!貴様が水神様を唆してここまで連れてきたのだろう!貴様には後に処罰を与えるから覚悟しておけ!」


俺は何だかんだと言っている自衛官の話を聞き流していた。するとアクアがヘルメット型装置を外した音がした。


「わたしが望んでここに来たのよ。和也は関係ないわ。」


この声に強面自衛官が反応した。


「おお、水神様お会いできて光栄でございます。わたしは自衛官の神崎 強(かんざき つよし)と申します。どうぞお見知り置きを。」


あ、アクアの顔が引き攣ってる。何を考えてんだこの自衛官。


「水神様はお優しいのですね。分かりました。特別に今回は見逃しましょう。ほら、水神様にお礼を言いなさい。」


自衛官が俺に頭を下げてお礼しろと言ってきた。だがこれは断ると面倒くさくなるな。


「あ、ありがとうございます。」


アクアの口元が笑ってやがる。戦闘途中で抜けたの怒ってたのかな?でもあれは俺悪くないよ。


「さて水神様、もうこんな場所から抜けて我が国随一のスイートホテルまでご案内いたします。そこでは望んだ物が手に入り、絵画や音楽など様々なこの国ならではの芸術に触れることが出来ます。存分にお楽しみいただけるかと。」


アクアは少し考えて言った。


「なら和也とゲームがしたいわ。何でも手に入るならこのゲーム機も手に入るのよね?」


アクアがさっきまでやっていたフルダイブゲーム機を指差して言った。



「ゲーム?」


神崎自衛官が眉をしかめた。




「水神様、失礼を承知で申し上げますが、ゲームなどおやめになった方がよろしいかと思います。ゲームなど時間を使うだけで何も得られません。ゲームが上手くなったところで現実で同じ事が出来るわけでも無く、ただ時間を無駄に過ごしたという結果のみが残るのです。わたしはそんな経験を水神様に得て欲しくないのです。」


神崎自衛官がアクアに力説している。半ば合ってるから反論し辛いなぁ。


「それは違います!」


ゲーセンの店主が声を張り上げた。


「何だ店主、わたしの言った事が間違いだというのか。」


神崎自衛官が店主を睨みつけた。顔が強面なのもあって凄い威圧感を感じる。しかし店主が止まることはなかった。


「はい。確かに過去一部のゲームではゲームという名の暇つぶしにかならない物もありました。プレイヤーはゲームのシステムを理解する必要があり、そのシステムが現実で使える訳ではないために残ったものはないと世間では言われていました。


しかしスキルが出現した今、そのゲームで得た世界観の知識が、ゲームシステムがスキルの成長を促しているのです。現にスキルが出現した直後の世界では、ゲームなどの娯楽用品を多く使っている人がスキルを上手く使いこなせていたという論文も出ております。


スキルという想像力が力になるものがある限り、ゲームをする事は無駄にならないはずです!」


店長が熱を込めて話している。


なるほど、確かに想像力を鍛えるという面ではゲームという素材は使えるだろう。でも、


「それは現在において必要ないではないか。今やスキルで出来る事は本に多く記されている。本を読みそこに書いてある事をそのまましているだけで生活には困らない。新しくスキルの可能性を見つけるために想像力を鍛える必要はもうないのだ!」


そう。現在では新しくスキルの可能性を見出すのは困難と言われている。別に新しいものが無くとも便利な生活はできるし、仕事も見つかる。神崎自衛官の言う事は今の世論的に間違ってはいない。


「う、ぐっ、、、。」


店長が言葉に詰まってしまった。神崎自衛官が勝ち誇った顔をした。


「ほら何も言い返せないではないか。・・・時間を無駄にしたな。水神様、行きましょう。ゲームよりも充実した時間を過ごしに行きましょう。」


アクアがこっちを見た。

その顔は何故か挑発的で何かを期待しているようで。

本当に、、、こんな期待しないで欲しいんだが。


「神崎自衛官。」


俺は話しかけた。神崎自衛官がこちらを見た。


「なんだ貴様。水神様がお許しになったので無罪にしてやっているが、本来は死罪にしてもおかしくないのだぞ?口出しして水神様を引き留める事などすれば、公務執行妨害で逮捕する。大人しくしていろ。」


「いえ、店長の代弁をしようかと思いまして。」


「なんだ?その話はもう終わったはずだが。」


「いえいえ、神崎自衛官が新しいスキルの可能性を見つける必要が無いとおっしゃるものですから。」


「現にその通りだろう。スキルを長年研究してきた者達も本以上の事をするのは難しいと言っているのだ。想像力を鍛える暇があれば他の事をした方がいい。」


「なら本当にスキルを人間が使いこなせているのか聞いてみましょうか。」


俺はアクアを見た。アクアは笑みを浮かべていた。よく出来ましたとでも言うような。


「アクア、現在の人間はスキルをどの位使いこなせているんだ?」


「私が知っているのは水魔法や防御系のスキルだけだけど、まぁ30%ってところじゃないかしら。」


神崎自衛官の顔が歪んだ。


「で、ですが!」


「神崎自衛官。自衛官とあろうものが神様の言う事に否を唱えるのですか?」


俺はわざとらしく神崎自衛官を挑発した。彼は顔を真っ赤にしながら反論を考えている。もう一押しかな?


「水神様がまだまだスキルに成長の幅があるとおっしゃられました。これは喜ぶべき事ではないですか?想像力を鍛える事で更なる国の発展が期待できるのですから。」


神崎自衛官は納得いっていない顔をしている。だがゲームをこの場では否定できないようだ。


「・・・わかった。ホテルに連絡して取り寄せられるか聞く事にする。店主、わたしは少しの間席を外す。」


神崎自衛官がエレベーターで上に戻っていった。


俺は大きく息をついた。あ〜、しんど。ほんとこういう討論は研究室でもするけど心臓に悪いわ。


「お疲れ様。」


アクアが労ってくれた。ほんと誰のせいだよ。


「あなたのせいよ。」


そうですね。ここまで連れてきたのは俺のせいですね。はぁ。


「どうしてここまでしたの?」


知ってんだろ。


「アクアがゲームを楽しめるようにするためだよ。」


アクアは笑った。


「やっぱりあなたいいわね。」


神崎自衛官が戻ってきた。


「水神様申し訳ありません。このゲーム機はまだ大量生産されてないようで、既に在庫は切れてしまったと・・・。」


「神崎自衛官。」


「は!」


「わたし、彼を専属連絡係にするわ。」


「「「は?」」」


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