世界情勢の授業

[安部 はっとり視点]


私は心待ちにしていた。日々和也が授業で私語、居眠りする事を。先程の世界史の授業で私語、居眠りした時は軽い注意をした。こうする事で私は注意したという事実を作る事ができる。これがあると2回目に厳しい指導を行っても、先程の注意が無視されたとして容認され易くなる。


なら次に注意すればいいと思うだろう。しかし人というものは一度犯した過ちに寛容にされた時、もう一度同じ過ちを行いやすいのだ。


私は怠惰な人が嫌いだ。特にこの学校の生徒であるならば、怠惰な奴は排除されるべきだと考えている。理事長はお優しいので、そういった生徒もここでは保護するべきとお考えのようですが・・・。1人がいなくなる事で皆の気が引き締まるなら私はいくらでも3恐と呼ばれましょう。


「それでは世界情勢の授業を始めさせていただきます。」


そして皆に視線を動かし生徒の反応を伺うふりをして日々和也を探した。そして彼は・・・いなかった。


私は何故か笑いが込み上げてきた。私はどこまで馬鹿にされればいいのだろうか。遅刻だろうか?いや、それでも構わない。


「では今日は最初に出欠確認を取りましょう。皆さんが持っている電子端末で神谷大学のホームページにアクセスしていただき、マイページから世界情勢の授業にて出欠確認を行います。ここでの出欠確認以降にこの教室にやって来たとしても、主席は無効となりますので注意して下さいね。」


これで遅刻対策はできた。出欠確認を見るとやはり日々和也の名前は無い。私はにんまりと笑いながら授業を始めた。


「では、今日はどんな日なのか皆さん覚えてますでしょうか?皆さんは生きてないので知らない方もいらっしゃるかも知れませんが、今日は水神様の監禁が解かれる日になっています。」


今日の話はとても重要な話だ。なんせ世界中が水神様の動向に注意を払っているのだから。


「水神様の被害は皆さんも中学高校で聞いたことがあると思います。まずは時系列にそって話していきましょうか。


水神様が顕現されたのは今から210年前、その頃には既にスキルやダンジョンが存在しており、世界で数多の戦争が行われていました。そんな時初めて顕現された神が水神様と言われています。


水神様は最も領土の広い国に行きこう言いました。「ここを私の別荘にしたい」と。ここでの会話は博物館に行けば音声データが残っています。皆さんも気になる方は行ってみてください。


その国の人達は困ったでしょう。今まで神と自称する人はいたけれども、まさか本物が来たとは思わなかった。だからその国の人達は水神様を戦争の道具として使おうとしたのです。


ですが水神様は神であり、人の心を見通す力をお持ちでした。そして水神様の力を悪用しようとする事がバレてしまったんですね。


水神様は怒り国全体にある結界をはり、反省するように言って天界に帰っていきました。」


私は一息ついた。ここからはその結界による大虐殺について話さなければいけない。


「結界は触れられず誰でも通り抜け出来るものでした。しかし結界内では水分を摂取する事が出来なくなるという恐ろしい性能があったのです。


結局人口の6割を失い難民も多く出したその国は国を維持出来なくなり消滅してしまいました。」


「安部先生、その前に水神様に謝罪しなかったのですか?」


生徒の1人から質問が来た。いい質問だ。


「確かに水神様に謝罪して結界を解いてもらおうという案はありました。しかし現実的に不可能でした。何故なら天界に謝罪を伝える方法が用意されていなかったからです。」


「では首脳陣はどうしたんですか?」


「首脳陣は飛行機で先に避難しました。」


質問された生徒が黙ってしまった。分からないではない。


「ゆえに神様の間で問題となりました。国の失態ではありますが、その民に罪は無かったと。最終的に水神様は過剰な報復だったと認め200年の間天界に監禁される事になったんですね。


さて、今日は水神様の監禁が解かれる日という話に戻りましょう。昔のこの事件をきっかけに国の法律に『神様への緊急の対応は丁寧に、発言に対し絶対逆らってはいけない』というものが追加されています。犯した人は厳罰を与えられてしまうので、皆さんも水神様に会うことがあったら気をつけないといけませんよ?」


生徒間で笑いが起きた。現在神様との対応は自衛官が行う事になっており、一般市民が出会う事などまず無いからだ。


「さて、今日は宿題を出しましょう。水神様の結界で6割人口を失って国が消滅しましたが、6割という数字の理由を省いて私は説明しました。理由は幾つもあるのですが、それを考えてレポートにして下さい。期限は来週の月曜日までです。では今日の授業は終わりです。お疲れ様でした。」


さて、と。


日々和也、とんでもない事をしてくれましたね。

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