理事長室にて
神谷大学理事長室、そこで理事長と安部先生が話し合っていた。
「先程の生徒への口止めはあんな口約束のみで良かったのですか?」
会話を切り出したのは安部先生だ。彼は常に笑みを絶やさない。糸目の奥では笑ってないかもしれないが。
「別にいいだろう。何もしていない彼を脅すのはしたくない。」
「ですが噂が広がるとまた恐がられますよ?」
「う、、、それはあまり好ましくないがな。」
理事長は苦い表情をした。助けたのに関わらず怯えられたのがかなり精神にきているようだ。
「最近じゃ3恐なんて言われてますね。」
「3恐?私とお前と後は誰だ?」
「ほら、襲われていた彼の指導役ですよ。」
理事長は少し考えて、納得した顔をした。
「思い出した。あの研究室の生徒だ。どうりで見た事があると。」
「彼の入学はこの学校でもかなり異例でしたからね。理事長の耳に届いて当然かと。」
理事長は日々 和也が入学した頃のことを思い返していた。あの時は結構入学に規制をかけるかで議論になったのだ。
「しかし彼は大変だな。1回生にまで侮られてるのか。」
「まぁこの大学でスキルが弱いのは彼ぐらいですし。」
理事長は彼のこれからを考え、少し心配した。何か大きな厄介ごとに巻き込まれないだろうかと。しかし彼の指導役を考え大丈夫だろうと思い直した。
「それにしても安部、お前あの生徒の事知ってたんじゃないか?襲われてた方の。」
理事長が安部先生に尋ねた。しかし安部先生は笑みを崩さなかった。
「どうしてそう思われるのです?」
「あまりにも報告が早かったからだ。いくらお前が優秀でも事件が起きている最中に止めに入れたのは珍しい。まるで最初から見ていたようだったからな。」
安部先生は笑みを深めた。
「ええ、御明察ですよ。彼は私の授業で居眠りと私語をした不届き者でしたからね。よく目立ちましたよ。」
あ、これは結構怒ってるなと理事長は若干引いた顔をした。
「お前の授業で居眠りと私語とか肝が据わってるな。舐められてるんじゃないか?」
「2度目はもうありませんよ。次やったら前で私と公開ディベートして貰うと決めてますので。」
安部先生は居眠り、私語をしている生徒に結構厳しく当たる。たとえそれがその人に必要な事であったとしてもだ。眠くなったら外で寝ろ、私語をしたくなったら部屋出て話せとよく生徒に話している。
「・・・あまり生徒を虐めるなよ。私までついでに恐がられるから。」
「あなたが支える学校に堕落した生徒は要りませんよ。さて、私は次の授業の準備をしてきます。彼も出席するはずなので、楽しみですね。」
この時安部先生は笑わずに答えた。そこには理事長に対する忠誠心が見えた。そしてすぐに笑みを浮かべ直すと、彼は理事長を出て行った。
こいつ次の授業でも会うから、わざと軽めの叱責に留めたんだろうなと思う理事長だった。
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