第34話 神獣?

「どこがつまらない話ですか! 面白くて興味深い話じゃないですか!」


「そうですよ! 素敵な出会いじゃないですか!」



 話し終えたら、ラーニャとエリズから怒られてしまった。



「いや、でも、これってもはや恋愛の話ですらないと思うし……相手は狼だし……」


「ちゃんと恋愛の話ですよ! 自分の感情を恋とも気づかない、純情乙女のはかない初恋です!」


「心の繋がりに相手の容姿も種族も関係ありません!」


「そ、そう、かな……。まぁ、二人はそう言うよね……」



 常識人からすると、狼との恋なんてあり得ないと言うのかもしれない。


 しかし、エリズは精霊様だし、ラーニャは黒影こくえい族。人族が考える常識と別の枠組みで生きているのも当然だ。


 こうして誰かに話したのは初めてのことで……少し嬉しいかもしれない。あのときの私の気持ちを、ちゃんと認めてくれたようで。


 誰かに話せば、一笑にふされるかもしれないと思っていた。



「師匠の恋した狼さん……。あたしもその狼さんに会ってみたいですね。正体不明ながら、きっと素晴らしいお方なのでしょう」


「わたしも会ってみたいですけど……ヴィーシャさんとは再会してほしくないかもです。ヴィーシャさんの気持ちが再燃してしまっても困りますし……」


「……私が狼さんに恋をすることはもうないよ。そういう対象じゃなくて、ただ、大切な存在っていうだけ」



 本当に、それだけ。友達……と呼んでいいのかはわからないな。少なくとも、恋人という関係に収めたい相手ではない。



「むぅ……。恋じゃなかったとしても、一ヶ月程度の交流で、そこまでヴィーシャさんに想われる狼さんが羨ましいです……」



 エリズが腕に力を込めて、痛いくらいに私を抱きしめる。嫉妬なんてしなくても、私はきっとエリズとずっと一緒にいるだろうに、それじゃダメなの?



「っていうか、その狼さんって、たぶん神獣の一種ですよね?」



 ラーニャが指摘してきて、たぶんね、と私は答える。



「実のところ正確にはわからない。ただ、少なくとも、世間的に名前の付いている神獣ではない」


「それは、外見的な特徴がただの白くて大きな狼だからではないですか? ちらっと見かけた程度だと、神獣というより特殊な狼ととらえてしまいそうです。

 でも、言葉を交わすことができて、神聖な雰囲気をまとっているというのなら、きっと神獣の一種ですよ」


「……かもしれない。私も、狼さんは神獣だとは思う」


「ただ、神獣と一ヶ月以上も交流を続けたというのは特殊な事例です。神獣は、たまたま見かけることはあっても、人間と継続的な交流をしないものだと言われています」


「狼さんは特殊な神獣だったのかも。それに、神獣の生態についてはわからないことばかりだから、世間の認識が正しいとも限らない」


「もしくは、師匠には、聖なる存在を引きつける何かがあるのかもしれませんね。エリズさんだって引き寄せられていますし」


「……私にそんな特殊な何かなんてないよ。ただの平凡な召喚士だもの」


「それは、人目線でしょう? 人外の目線では、別の何かが感じられるのかもしれません。エリズさんとしてはどうですか? 師匠には何か特別なものを感じますか?」



 ラーニャの問いに、エリズは少し考えてから答える。



「うーん、性格的な話で言えば、ヴィーシャさんはわたしに対して物怖じしませんし、わたしを畏怖いふすることもありませんね」


「やっぱり、対等な立場で接してくれるのって大事ですよね」


「そうですね。エレノアさんなどは、わたしにずっと畏れを抱いています。一緒にいると緊張もしてしまうようです。わたしの持つ力を思えば、それは仕方ないのかもしれません。

 でも、わたしはそういう反応を求めていなくて、普通に接してほしいんですよ。

 わたしは確かに精霊として大きな力を持っていますが、中身は人間とそう変わりません。畏れ敬われる存在じゃないと思っています」


「……実のところ、あたしもエリズさんに対しては少しばかり畏れは感じてしまいます。清浄過ぎる魔力や圧倒的な力を感じてしまうからです。

 以前も言いましたけど、師匠は、エリズさんにとってはいい意味で鈍感なのでしょうね。魔力を感じ取る力が低い故に、対等に接することができます」


「そういうことになるかもしれません」



 ……褒められているのか、けなされているのか。私は確かに、エリズのすごさがよくわからないのだけれども。

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