第24話 新人
ローナとルクが晴れて恋人同士となった上で婚約もして、神獣探しの旅は四人で行くことになった。
翌朝、そのことをエリズと共にエレノアさんに軽く報告したところ、随分と悩ましげな顔をされてしまった。
「ローナとルクについては、まずはおめでとうと言うべきかな。お似合いの二人だし、きっと良い夫婦となるだろう。
しかし……ただでさえ人数の少ない召喚士ギルドのメンツが、一時的とはいえ二人も減ることになるとは。いや、うちは別にお前たちを雇用しているわけではないから、やめてくれとは言えないのだがね。
まぁ、若いお前たちは自由に色々なものを見て回るべきでもある。人員確保はこっちでなんとかするから、旅をするからには存分に楽しんできてほしいものだよ」
私がトゥーリアの町に来て以来、エレノアさんにはとてもお世話になっている。仕事も斡旋してもらっている上、プライベートでも度々相談に乗ってもらった。
自分のしたいことは諦めず、できる限りエレノアさんの負担も減らしたいところ。
「……時間のあるとき、新しい人員を探してみます」
「それは私の仕事なのだが……たまたまでもそういう人が見つかったら、勧誘してみてくれ」
「はい。とりあえず、各地に手紙でも送ってみます」
「そうだな。ありがとう」
手紙一つでうちのギルドに入ってくれる人が見つかるかはさておき、できることはしておきたい。
それと、エレノアさんにもう一つ相談。
「ローナたちが私たちと一緒に旅するにあたって、エリズの正体を二人に話しておきたいのですが、宜しいでしょうか?」
「ああ、それは伝えておいていいだろう。いざ何か危険が迫ったときには、本当のことを知っておかなければ判断を誤る。しかし、口止めはしっかりしておけよ。あまり広まっても困る」
「わかりました」
「ちなみに……エリズ様としては、それで宜しいのでしょうか? リスクが増すことにはなりますが……」
「問題ありませんよ」
「ご理解いただき感謝します」
エレノアさんがエリズに対して低姿勢なのは相変わらず。召喚士としての実力が高いからこそ、エリズのすごさがわかるのだろう。私には普通の女の子にしか見えないから、友達として接するのに違和感もない。
エレノアさんへの報告と相談は終わり、仕事を割り振ってもらう。今日は市街地の清掃だ。地味だけど割と重要で、清掃しているとお礼を言ってくれる人も多い。
「では、一仕事してきます」
「うん。頼むよ」
エレノアさんに見送られ、エリズと共に召喚士ギルドの建物を出た。
それから、一日かけて仕事をこなす。よくある仕事なので、特に問題も起きなかった。
程よい疲れを感じつつ、家に帰る途中で、一羽の黒い小鳥が私の肩にとまった。特に危険な雰囲気はないが、ピチピチとしきりに鳴いている。
「ヴィーシャさん、その小鳥はなんでしょう?」
「これは……
「ということは、どなたかがヴィーシャさんを探してるのでしょうか?」
「みたいだね」
黒鈴鳥を使う召喚士など、私以外でこの町にいただろうか? 他の召喚士なら、もっと別の霊獣を使いそう。
立ち止まってしばし待つと、ローナとルク、そして……見知らぬ背の低い魔法使いらしき者がこちらに駆けてくる。
「……初めて見る相手だな。もしかして、
魔法使いのローブをまとい、とんがり帽子を被っているのはいいとして、その顔が黒い
「ヴィーシャ! エリズ! 紹介したい人がいるんだ。ちょっといい?」
ローナに言われて、私もエリズも頷く。
三人が私たちの前に立ち、ローナがローブの人を紹介。
「この子、ラーニャって言うんだ。つい最近魔法使いギルドに加入したばかりなんだけど、召喚魔法も多少使える。ヴィーシャの肩に乗ってる
私とヴィーシャが旅に出ちゃったら、召喚士ギルドの人手が足りなくなるだろ? だから、ラーニャに召喚士ギルドにも加入してもらって、私たちがいないときには仕事を手伝ってもらおうかなって」
ローナは行動が早い。私はゆっくり探せばいいと思っていたのに。
「いいね。エレノアさんも助かると思う。私としても安心。わざわざ探してくれてありがとう」
「ヴィーシャだって探そうとしてたんだろ? 今朝、エレノアさんに色々聞いた。とりあえず一人は確保したけど、もう一人二人増えてもいいだろうし、ヴィーシャも勧誘してみてよ」
「そうだね。うちのギルド、そもそももう少し大きくなってもいい」
今の五人体制ではなく、人員は倍くらいになってもいいくらい。引き続き人は探していこう。
「それじゃ、改めて、ラーニャからも自己紹介してもらおうか」
ローナが促すと、ラーニャがコクリと頷く。
「初めまして。ラーニャです。年齢は十四。見ての通り黒影族で、普段は実体のない黒い靄のような体をしています。性別はこれでも女でして……」
ラーニャがそこで一度言葉を区切り、むん、となにやら気合いを入れる。
すると、靄だった顔が実体を持ち、褐色肌に灰色髪の女の子になった。目は相変わらず黄色だ。
十四歳らしいあどけなさの残る顔で、にこりと笑う。
「こうして実体を持つこともできます。どちらかというと靄の方が楽なので、普段は靄のようになってます」
ラーニャの顔が霧散し、また黒い靄になる。
「基本的には魔法使いですが、召喚魔法も多少扱えます。ヴィーシャさんほど多様な霊獣を扱うのは難しくとも、いくつかはあたしの方でも引き継げます。
ただ、召喚士ギルドのお手伝いをする条件として、一つお願いがありまして」
「うん? 何?」
「召喚魔法、教えてください! ヴィーシャさんの召喚魔法、普段の生活ではとっても便利らしいではないですか! あたしももっと色々召喚したいです! 猫とか猫とか猫とか!」
ラーニャは猫が好きらしい。黄色い目が輝いている……ように感じる。
「それくらいはいいよ」
「ありがとうございます!」
交渉成立、というのは少々大袈裟かな。ともあれ、ラーニャが召喚士ギルドに加入してくれるのはありがたい。
「えっと、改めてだけど、私はヴィーシャ。十六歳。戦闘特化の霊喚獣は扱えないけど、まぁ地味に便利な霊獣をよく扱ってる。宜しく。それで、こっちが……」
「エリズです! 翠星族の十六歳! ヴィーシャさんと永遠の愛を誓ったような気がする仲です!」
誓ったような気がする仲ってなんだ。別に誓ってないぞ。まだ。
エリズの元気な挨拶に、ラーニャが首を傾げる。
「え? 翠星族、ですか……? 翠星族とは存在のあり方が全く違うような……」
「ラーニャ。ちょっと待った。それ以上は言わないで」
周囲をちらっと確認。私たちの会話をわざわざ聞いている人はいないみたい。
ラーニャは何かを察し、あわわ、と口元に両手を当てる。
「あ、ご、ごめんなさい! エリズさんは翠星族なんですね! わかりました!」
「うん。そうなの」
私たちの不自然なやりとりに、ローナとルクが顔を見合わせる。
「……えっと、皆でこれからご飯でもどう? ゆっくり話ができるところで」
ローナたち三人が頷く。エリズのことを話そうとしているのが伝わったらしい。
「それなら、私の家に来ませんか? ゆっくりお話できますよ?」
提案してくれたのはルクで、反対する者はいなかった。
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