第23話 らぶ
* * *
二人が戻ってきたのは、しばらく経ってからのこと。
二人の間でどういうやりとりがあったのかは想像するだけにしておくが、二人は手を繋いでいて、お互いを見つめる目にも特別な親密さがあった。
お互いに好き合っているのだし、二人が上手くいくのは当然のこと。その当然の結果になってくれて、ほっと胸をなで下ろした。
そして、心底幸せそうに頬を緩ませながら、ルクが言った。
「ヴィーシャさん。危うくすれ違いそうになっていたところ、上手く導いてくださってありがとうございました。おかげさまで、私たち、まずは恋人として付き合うことになりました」
「うん。良かった。これからも仲良くね」
「はい。……それと、私とローナさん、近々結婚しようという話にもなりました」
「……は? え? もう結婚の話までしたの?」
「はいっ。仲間としての付き合いは三年以上になりますので、お互いにそういう気持ちになりました」
「へぇ……それは、おめでとう」
「ありがとうございますっ」
「私からも、おめでとうございます! お二人なら良き夫婦になると思います!」
私は突然の展開に戸惑うが、エリズはあっさりと受け入れて純粋に祝福している。ちょっと柔軟すぎない?
「ありがとうございます! 私たち、最高の夫婦になります!」
ルクの輝かんばかりの笑顔は、見ているだけでも気持ちが明るくなってくる。
その隣のローナは気恥ずかしげにはにかんでいて、これはこれで可愛らしい。勇ましく頼りがいのあるローナも、やはり好きな人の隣では乙女の顔をする。
ルクがローナの方を向いて、にこー、と良い笑顔。ローナは頬を染めて、恥ずかしげに視線を逸らした。
この甘ったるい雰囲気、見ていると胸焼けしそうだよ。それも悪くないけどさ。
「……えっと、今日はこの辺で解散にする? そっちは二人で過ごしたいんじゃない?」
「その気持ちはあるんですけど……ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
「うん? 何?」
ルクとローナが顔を見合わせ、ローナが引き継ぐように言う。
「ヴィーシャとエリズがはめてる指輪って、どこで買ったの? すごく綺麗だし可愛らしいから、私とルクもそういうのが欲しいんだ。買ったお店、教えてくれない?」
「え? あ、こ、これ!?」
私とエリズのしている指輪は、確かにとても素敵だと思う。この二人が欲しくなるのも無理はない。
けど……。
「……その、これ、この町で買ったものじゃないんだ。元々エリズの持ち物で……改めて手に入れるのは難しいみたい……」
「あ、そうなの?」
「あらあら。残念です。とっても素敵なのに……」
ローナとルクが肩を落とす。この二人なら
「……ごめん。まぁ、これと同じようなデザインで指輪を作ってもらうことできると思うから、参考として見せるために、宝飾店について行くことはできるよ」
「そうだね、じゃあ、ちょっとついてきてもらっていい?」
「全く同じにするつもりはありませんから安心してくださいね? あくまで参考にするだけです!」
「うん。わかった」
そういうわけで、私たち四人で町の宝飾店へ。高級感漂う店舗にドギマギしつつ、若い女性店員にエリズのはめた指輪を見せた。
華美なところはなく、しかし光の加減によって青や銀に輝く指輪を見て、女性店員もほぅ、と溜息。
「素敵な指輪ですね……。シンプルでありながらも、春の海を想起させる青……。ふむふむ。これと近しいデザインにするとして、色はどのようにしましょう?」
ローナとルクがお互いを見合わせて。
「彼女の髪色みたいな桃色がいいです」
「彼女の髪色のような赤色がいいです」
……ふぅ。二人とも、イチャつくのは帰ってからにしてくれないものかな?
ローナとルクが気恥ずかしそうにしている中、店員はふふと大人の笑み。二十代半ばくらいだから、もう結婚もしているのかな。
「……では、こういうのはいかがでしょう? リングを桃色にして、赤色の宝石を散りばめる。近しいデザインでありながら、お二人の独自性もある、綺麗な仕上がりになると思いますよ?」
ローナとルクが再び顔を見合わせて、頷きあう。
「それでお願いします」
「お願いします!」
スムーズに話は進み、色々と細かい話もして、ローナとルクの指輪の注文が完了。ペアの指輪、概算で百万リン。私からするとなかなかのお値段。お金があるというのもそれはそれでいいこともあるな、と改めて思った。
私は大金を稼げる能力がないから、既に諦めたことだし、特に嫉妬も何もないけれど。
特注の製品ができるには一ヶ月ほどかかるそうで、現物はまだないが、ローナとルクは満足そうだった。
指輪の件もスムーズに終わり、今日はぼちぼち解散という流れに。
宝飾店前での別れ際、ふと思いついたのでローナたちに言っておく。
「そういえば、私とエリズ、一ヶ月以内に長旅に出ようと思ってるんだよね。二人の結婚式っていつ頃の予定? まだもう少し先の話と思ってていい?」
「え? 長旅って? どれくらいの期間? どこに行くの?」
「少なくとも一ヶ月、長くて二ヶ月くらいの期間。行く先は、ジュナルの森」
「……ジュナルの森? 北東の? それ、行くだけで一ヶ月かかる距離じゃないか。わざわざ何をしに行くんだ?」
「……私の霊獣を使えば、片道十日くらいでつくよ。何をするかというと……まぁ、ちょっとした探検かな」
「探検……?」
ローナとルクが首を傾げてしまう。
しかし、いるかもわからないとある神獣を探しに……とは言いづらいな。
「とにかく、ちょっと出かける予定がある。二人が式を挙げるなら時期を調整するから、日程が決まったら教えて」
「うん……。それはいいけど、え? ジュナルの森に、ヴィーシャとエリズ、二人で行くの? それ、流石に危ないんじゃない? ヴィーシャ、最低限身を守る程度の力はあるとしても、少し強い敵に襲われたらもう対抗できないだろ?」
「あー……えっと、まぁ、大丈夫だから……」
精霊ウンディーネ様がついているのだから、よほどとんでもない敵が現れない限りは大丈夫。
しかし、事情を知らないローナとルクは心配している。
「ヴィーシャ、外の世界を甘く見ていないか? 町の外だからって必ずしも危険が一杯とは言わない。この辺りの街道沿いは基本的に安全だ」
「しかしですよ! ヴィーシャさん! 場所によっては街道沿いだろうが町中だろうが、色々な脅威がいるものなのです! 盗賊も、魔物も! お二人だけでジュナルの森まで行くなんて危険です!」
「あ、その……」
この二人にはちゃんと事情を説明した方が良さそうだ。変に私たちを危険に晒す真似もしないだろうし。
ただ、先に召喚士ギルドの長、エレノアさんには話を通しておいた方がいいかな……。
「どうしても行くつもりなら、私が護衛する」
「私も一緒に護衛します!」
「……え? 護衛? 二人が?」
「当然だ。友達をみすみす危険な場所に送り出すことはできない」
「ですです! 私とローナさんがいれば、よほど特殊な敵が現れない限りは安全です! 一緒に行きましょう!」
「それは……ありがたい話……」
エリズの方を見る。それでいい? と尋ねる前に、エリズが答える。
「それは面白そうですね! 二人旅は心おきなくイチャつけていいとも思いましたが、この四人での旅にはまた違った楽しさがありそうです!」
「……そ。えっと、ローナとルク。言っておくけど、私には二人を護衛として雇うお金は……」
「友達からこんなところでお金は取らないさ!」
「そうですよ。もう、一体何を心配されているんですか?」
「……ああ、そう。ありがと」
やれやれ、と二人に呆れられてしまった。友達とはいえ、タダ働きはどうかと思うのだが、一旦置いておこう。
「じゃあ、二人とも、護衛、宜しく……」
「うん。わかった」
「楽しい旅にしましょうね?」
笑顔で頷いてくれる二人。この二人はとてもお似合いだし、そして、私は良い友に恵まれた。
ともあれ、私たちは四人で神獣探しの旅に出ることが決まった。
不毛な探索に終わらないように、しっかり準備をしなければいけないね。
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