第22話 ローナ
side ローナ
* * *
ルクの後を追いかける。ルクは足が速いので追いつくのはなかなか大変なのだが、人混みのおかげで見失うほど距離が離されることもなかった。
追いかけっこを続けることしばし。
ルクが桃色の髪をなびかせながら路地裏に逃げ込み、私は後を追う。
「ルク!」
声をかけても、ルクは振り向かない。
でも、そろそろこの追いかけっこも終わらせたい。
ルクの気持ちを知った今、ちゃんと伝えなければいけないことがある。
本当は、ちゃんと面と向かって伝えたかったけれど。
「ルク! 私も、ルクが好きだ!」
路地裏で
ルクが立ち止まり、後ろを振り向く。
惚けた顔で。信じられない言葉を聞いたという顔で。
「……え?」
放心しているルクに追いつき、走ってきた勢いのまま……ルクを抱きしめた。
動き回った後なので、より強く相手の温度を感じてしまう。
「はぅ!?」
ルクが身を堅くする。拒絶している感じはないので、むしろその体を強く抱きしめる。
走り回ったせいで、言葉を紡ぐのが少し辛い。でも、呼吸を整える前に、これだけは、ちゃんと伝えよう。
「ルク。好きだ。ずっと前から好きなんだ!」
ルクがびくりと体を震わせる。
返事はない。ただ、お互いの乱れた呼吸音が響くだけ。
少しして、落ち着いてきたところで言葉を続ける。
「さっき、せっかくルクが気持ちを伝えてくれたのに、上手く返せなくてごめん。ルクからそういう気持ちを伝えてもらえるなんて思ってなかったから、びっくりして、どうしていいかわからなくなってしまった」
「……わ、私は、何も、言ってません、よ?」
「……それはもういいよ。そうだったとしても、もういいよ。なんでもいいから……とにかく、私の気持ちを聞いて。……私、ルクが好き」
「……仲間としてですか?」
「仲間としても。恋心としても」
「……変に気を遣わなくていいんですよ? 私が……私が、おかしなことを口走ってしまったから、仲間としての関係を壊さないために、ローナは……」
「違う! 全然違う! ずっと好きだったんだ! いつからなんてはっきりとはわからないけど、もうずっと前から好きだ!」
「……嘘です」
「嘘じゃない」
「ローナさんが……私を好きだなんて、そんな都合がいいこと、あるわけないじゃないですか」
「なんで? ルクは、本当に素敵な子だ。仲間を思いやるところも、強くなるために一生懸命なところも、明るい雰囲気を作りだしてくれるところも……ルクの全部が魅力的だよ。私は、ルクを好きにならずにはいられなかったよ」
「……女同士じゃないですか」
「だから、何? 好きになっちゃったんだから、仕方ないじゃないか。そういうのを越えて、ルクは魅力的なんだよ」
獣人というのは、自分の感情を隠すのがあまり得意ではない。特に、その感情に合わせて尻尾がよく揺れ動く。今も、嬉しそうにわさわさと揺れている。
「……その言葉、信じてもいいんですか?」
「もちろんだ」
「嘘だったら……嘘だったら……私、ローナさんにとびきりの呪いをかけてしまいますよ?」
「いいよ。どんなことをしてくれても構わない」
「……本当に本当に、信じてしまいますよ? 取り返しがつきませんよ? 本当のことを言うなら、今が最後のチャンスですよ?」
「……本当のことを言うよ。私、ルクが好きだ」
わさわさ。わさわさ。
その動きから、ルクの心境も察せられる。
……私にも尻尾があれば、きっと同じように揺れていただろう。
「ローナさん」
「うん」
「……私も、好きです」
ルクも私の体を抱きしめる。
「好きですぅぅううううっ」
さらには泣き出してしまった。気持ちが通じあえたことがよほど嬉しかったようで、その様子がまた、私の心を弾ませた。
私の好きな人が、泣くほどに、私のことを好きでいてくれる。
なんて幸せなことだろう。一生分の幸運を、ここで使い切ってしまったかもしれない。
「好きだよ」
「好きぃいっ」
お互いに、何度も繰り返して好意を伝えあう。言葉を発する度に、ルクの言葉を聞く度に、気持ちがどんどん高揚していく。
なんて素敵な気分。生きてて良かった。ルクに出会えて良かった。
気持ちを伝えあうのに満足したところで、ルクが言う。
「私、ローナさんと一生一緒にいたいです」
「……うん。私もそう思う。だから……結婚しようよ」
イーデリア王国の法律上、結婚は十六歳から可能。その年齢ですぐに結婚してしまう人は少ないとしても、できないわけではないのだ。
私のプロポーズに、ルクが頷く気配。
「……はい。是非」
「ありがとう。すごく嬉しい」
ルクを抱きしめる腕に余計に力が入る。
「ローナさん」
「うん?」
「これ、婚約ですよね?」
「うん」
「その誓いを、別の形で表現してくれませんか?」
「別の形?」
「……例えば、キス、とか」
「……ああ、うん」
ルクを離して、僅かに隙間を空ける。
至近距離で見つめ合う。ルクの方がやや身長が低く、私は視線を下げる形に。
ルクがそっと目を閉じる。
可愛らしい、愛しい顔。
私も目を閉じて、唇を近づけて。
優しく口づけるつもりだったのに、上手く距離感が掴めなくて、不格好に唇を押しつけるようなキスになってしまった。
ルクは、それを気にすることなく、キスに応えてくれた。
幸せな瞬間。体も熱いし、気持ちも高ぶる。
ずっとこのままルクに触れていたいと、心から思った。
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