第16話 ルク

 ローナから相談を持ちかけられた翌日。


 早速だが、ルクと会うことになった。


 私に割り振られている仕事で特に急ぎのものはなく、ルクは遠征の疲れを取るために休暇を取っていたので、タイミングは良かった。


 私、エリズ、ローナ、ルクの四人で一緒に遊ぶという名目で、朝、市場が開く頃に町の広場に集合。私とルクは顔見知りだが、ルクとエリズは初対面のため、ここで改めて自己紹介。


 先に口を開いたのはルク。



「初めまして。よくローナと組んでお仕事をしています、ルクと申します。見ての通り獣人なのですが、その中でも狐族になります。魔法が得意でして、回復魔法以外でしたらだいたい中級レベルで使えます」



 ふわりと柔らかな笑みを浮かべるルクは、桃色の髪の可愛らしい女の子。頭部では狐の耳がぴこぴこ揺れていて、ふさふさの尻尾もゆらゆらしている。


 髪は腰にかかるほど長く、童顔気味で華奢な体格も相まって、女の子の可愛らしさと小動物の可愛らしさを兼ね備えた、可愛いの化身みたいになっている。髪を飾るリボンも、ゆるっとした薄桃色のローブも、よく似合う。


 こんな可愛らしい女の子が、魔物退治などの荒事をこなしているのは不思議な感じだ。お姫様としてお城でちやほやされている方が似合いそうだ。



「初めまして! 翠星すいせい族のエリズです! ヴィーシャさんとは結婚を前提にギリギリ友達をしています! わたしとしてはヴィーシャさん大好きです!」



 この子、自己紹介する度に私への愛を囁かないと気が済まないの? そういう病気にでもかかってるの?


 エリズの自己紹介に、ルクは一瞬きょとんとして、それから私とエリズが手を繋いでいることを確認して、ほうほう、と可愛らしく頷いた。



「ずっと手を繋いでいるので、随分と仲良しさんだなぁと思っていましたが、そういうことでしたか。なるほどなるほど。ヴィーシャさん、ご結婚おめでとうございます!」


「結婚はしてないから。エリズがどうしてもっていうから仕方なく手を繋いであげてるし、今は一緒に暮らしてるけど、結婚はしてない。恋人ですらない」



 私がルクの言葉を否定すると、エリズが割って入ってくる。



「こんなことを言うヴィーシャさんですが、わたしと二人きりのときにはちょこちょこ甘えてきますし、夜にはわたしを抱きしめて眠るんですよ?」


「エリズ! 勝手なこと言わないで! 抱きしめて云々は……ちょっと寝ぼけてそうしてたことがあるだけで……甘えたりはしてないでしょ!?」


「ふふん? わたしは知ってるんですよ? わたしがヴィーシャさんにくっつくのをやめて少しばかり距離を取ると、ヴィーシャさんがどこか寂しげな表情をすることを!」


「そ、そんなことないし! それはエリズの勘違い!」


「ふふん? まぁ、そういうことにしておいてあげましょう。わたしはそういう素直じゃないヴィーシャさんが好きですから」


「勝手なこと言うな! 私はいつも素直だし!」


「ぷっ。あははっ」



 突然ルクが笑い声をあげるので、私とエリズの会話がとまる。



「な、何?」


「だって、お二人があまりにも仲が良いものですから! ヴィーシャさん、もう少し物静かで理知的な雰囲気の方だと思っていましたけど、すっかり恋に振り回される女の子ですね!」


「な、な、な、なんでそうなるの!? 全然そんなことないし!」


「そうですか? お二人の馴れ初めも関係性もはっきりとはわかりませんが、ヴィーシャさんがエリズさんに手玉に取られているのはすぐわかりますよ!」


「ヴィーシャさんは、冷静沈着と見せかけて、実は割と心が揺れやすくてちょろい人なのです」


「エリズも何言ってるの! 私は冷静だし! ちょろくもない!」


「にこーっ」


「言葉に出しながらニマニマするな!」



 ルクがさらにコロコロと笑って、その隣でローナもクスクスと控えめに笑う。


 ローナがスタイリッシュな私服姿でかっこいいのはもうどうでもいい。その笑いをやめろ。


 とりあえずローナをじろりと睨むと、ローナが苦笑した後に笑いを引っ込めた。


 ふぅ、とひとまず落ち着いて、当初の予定通り、私からルクに尋ねる。



「えっと……ルク。私とエリズ、色々とあやふやな関係ではあるんだけど……一応、もしかしたら本当に将来は結婚とかもするかもしれないとは考えてて……。こういうの、ルクはどう思う?」


「どう、とは?」


「女同士で結婚は変、とか」


「そんなこと、頭をかすめもしませんでしたよ。それだけ仲睦まじい様子なのに、むしろ結婚しない方がおかしいのではありませんか?」


「……いや、そこまで仲がいいわけでも……」


「こちらとしては、新婚さんを見ている気分でしたが? 今から式を挙げると言われても信じますよ?」


「……もうなんでもいいや。とにかく、ルクは女同士の恋愛にも結婚にも、反対はしないってこと?」


「しませんよ。幸せそうなお二人を見ていると、こちらまで幸せな気分になってしまいます」


「……そう。なら、いい」



 ルクが同性の恋愛に否定的ではないことは確認できた。


 あとは、自分が同性と恋愛する気があるかどうかという話だが……それはまた少しずつ話していけばいいかな。



「……まぁでも、ちょっと安心しました。ヴィーシャさんはエリズさんと幸せに暮らすわけですよね? それなら……」


「それなら?」


「あ、いえ、なんでもありません。せっかくの休暇ですから、今日は気ままに遊びましょう。最近、興行ギルドの方たちが南区で面白い演劇や見せ物をやっているという話も聞きます。皆さんでいかがです?」



 ルクの提案に、私たち三人が頷く。


 まだ確かめることがあるにしても、今日を一日楽しみたい気持ちはある。


 この四人で遊ぶことは珍しいし、良い一日にしよう。

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