第14話 相談

「……ヴィーシャ」



 ローナがまっすぐに私を見据える。



「……何?」


「ちょっと、相談したいことがある。一緒にご飯でもどう?」


「うん? まぁ、いいよ」



 なんだろう? このタイミングで持ちかけられる相談とは?


 ローナに案内されて、この町の中では少々高級感のあるお店へ。私は贅沢をできる稼ぎがないので、普段は来ない場所だ。


 一般の食事処では内装をあまり飾りたてることもないのだが、ここは白い壁紙も綺麗だし、所々に絵画も飾られている。魔法の灯り一つ一つも凝った作り。


 店内は広めで、格テーブルが個室になっている。他の人を気にせず、ゆっくり話をしたいときに利用するお店のようだ。


 四人席に案内されて、私とエリズは隣り合って座る。ローナは正面。



「ローナ。私、たぶんここで気楽に飲食するお金は持ってないよ?」


「お金のことは気にしないでくれ。今日は私の奢りだ」


「……奢られるようなことをした覚えはないよ?」


「……相談したいことが、ある」


「相談に乗ってもらう代わりに、ここに連れてきたってこと?」


「そういうこと」


「……わかった。そういうことなら」



 まずは料理を注文。私は庶民むけの串焼きだとか野菜炒めだとかを主に食べているけれど、ここの料理は私の知らないものばかりだ。


 一食で、一人二万リンくらい飛ぶ。私とエリズで四万リン。普段は一食五百リンから千リン程度で済ませる私からすると、本当に贅沢な食事だ。


 ローナは危険な仕事をこなしている分、収入も多い。こんなお店で食事を奢ることになっても、特に問題はないのだろう。格差があるのは仕方ないことだ。



「……私にはよくわからないから、ローナが適当に選んでよ」


「わかった。じゃあ、おすすめを」



 注文をローナに任せてから、少々待つ。


 店員が持ってきたのは、随分とおしゃれに盛りつけられた肉や魚の料理。高級店の料理ってこんな感じなのか……。お腹に入ったら同じなんだから、あまり盛りつけにこだわらなくても……と思ってしまう私は、生粋の庶民だろうか。



「口に合うといいが……。とにかく、二人とも、食べてみてくれ」


「……うん」


「はい!」



 特に遠慮した様子もなく、エリズが早速食事に手をつける。


 煮込み肉を口に頬張り、んー! と幸せそうな声を出す。



「美味しいですね! 普段食べる食事も美味しいですけど、こんな柔らかなお肉も素晴らしいです!」


「それは良かった。……それにしても、エリズはとても幸せそうに食事をするんだね。見ている方も嬉しくなるよ」



 エリズの素直過ぎる感動表現に、ローナもにっこりと微笑んでいる。エリズは場を明るくする力に長けていて、地味な私は羨ましく思う。


 私も料理を食べてみる。



「……美味しい」



 ぼそりと呟いた。私はエリズみたいに表情豊かではないのだ。



「気に入ってもらえて良かった。えっと、ひとまず食事を楽しんでくれ。相談は後にしよう」



 ローナがエリズの様子を見ながら言った。エリズが料理に夢中なので、相談どころではないと判断したのだろう。


 しばらくは素直に食事を楽しむ。ただ、こんな高級料理を食べさせてまで相談したいこととはなんだろう? と少し気がかりではあった。


 食事もほどほどに進んだところで、ローナが切り出す。



「それで、相談なんだが……」


「うん」


「その……他言は、しないでほしい」


「わかってるよ。エリズもね」


「はい! わかりました!」


「それじゃあ……」



 ローナが何かを言おうとするけれど、なかなか言葉にならない。ただ、いつもより頬が赤い。


 そして、ためらいがちに、ローナが口を開く。



「……よく一緒に仕事をしている、魔法使いギルドの女の子がいるんだけど。私、その子のことが、好きなんだ」



 ……へ?


 口に出さなかったが、普段の凛々しいローナとはイメージの合わない相談に、私はびっくりしてしまった。

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