第13話 ローナ

 エリズが私の家にやってきてから、五日が過ぎた。


 私は相変わらずのんびりと依頼をこなし、エリズは私の仕事についてきた。いつもは一人で黙々と依頼をこなしていたのだが、エリズが一緒だと自然とおしゃべりが増えた。


 正直に言うと、エリズとのおしゃべりは楽しい。私はあまり会話を楽しむタイプの人間ではないと思っていたけれど、案外そうじゃないのかもしれない。あるいは、エリズが特別なのだろか?


 また、合間を見て、召喚ギルドの長であるエレノアさんに「神獣を探す旅をしてみたい」という相談をしてみた。


 エレノアさんは実に複雑そうな顔をしていて。



「……ヴィーシャがそうしたいというのなら、とめることはできない。しかし、ヴィーシャは細々した依頼をこなす能力に長けているから、とてもありがたい存在だった。まぁ、その割に報酬が良くなかったから、それは申し訳ない……。ともあれ、旅に出るにしても、なるべくこの町に戻って、依頼をこなしてくれればとは思う」



 ということを言われた。


 私がいなくなると本当に困るという雰囲気だった。私の地味な召喚魔法は、自分が思う以上に必要とされていたらしいと、認識を改めた。


 誰でもできるような仕事を、人よりちょっとだけ効率的にできる程度の召喚魔法。なくてもいいけれど、あったらちょっと便利。そう思っていた。そんな簡単な話でもないのかもしれない。


 必要としてもらえるのなら、私もトゥーリアの町で仕事は続けたいと思う。そのため、神獣を探す旅をするにしても、休暇期間を決めて探しに行く感じになりそうだ。


 依頼をこなし、旅をする準備も進めて。


 今日も今日とて、食事処に現れる鼠の駆除という地味な仕事を片付けた後。


 夕方、家に戻っている途中で、召喚士ギルドの仲間であるローナと遭遇。ローナは私を見つけるなり、笑顔で駆け寄ってきた。



「ヴィーシャ。今日の仕事はもう終わり?」


「うん。鼠駆除が終わって、帰ってるところ」



 ローナは私の一つ上の十七歳の女の子で、召喚士ギルドの中では一番の武闘派。雷属性と火属性の強力な霊獣を召喚できる。


 また、自分自身もかなり鍛えており、槍を使った戦闘もこなせる。北や西の森に入り、何かしらの素材を採ってくる仕事を請け負うことが多い。


 顔立ちも凛々しくて、短めの赤髪がよく似合っている。女性としては身長も高いしスタイルも良いしで、こそっと羨ましいとは感じている。今の動きやすさを重視した鎧姿も様になるし、普段着姿もかっこいい。



「ローナに会うのは久しぶりだね。十日間くらい森に入ってた?」


「そうだな。森に入ってひたすら狩りをしていた。流石にちょっと疲れたよ」



 ローナは確かにお疲れの様子。早めに会話も打ち切った方がいいかと思ったのだが。



「ところで、隣の子は誰だい? 手も繋いで、随分仲が良いみたいだね。チョーカーをつけているってことは、召喚士としてのパートナー?」



 ローナがエリズに視線を向ける。この五日間で知り合いにはだいたい紹介が終わったけれど、ローナは遠征中だったから、まだエリズを知らない。



翠星すいせい族のエリズだよ。たまたま召喚に成功したから、パートナーとして傍にいてもらってる」


「初めまして! エリズです! ヴィーシャさんの立派なお嫁さんになるために、人間の町を勉強している最中です!」



 ……またそういう余計な一言を添えるんだからっ。名前だけ言っておけばいいのに!



「……は? ヴィーシャの、お嫁さん……?」


「はい! わたし、ヴィーシャさんのことが好きなので、将来は結婚するつもりです!」


「け、結婚……? いや、いや、女同士、でしょ?」



 ローナは困惑している。エレノアさんやティトさんと違い、ローナは同性同士の恋愛に抵抗があるのかもしれない。



「女同士ではいけませんか? そこに愛があれば、何も問題ないと思いますよ? 恋にも愛にも、決まった形などないのです! と、ティトさんもおっしゃっていました!」


「ええ……?」



 ローナが私に視線を向ける。



「……まぁ、その……本当に結婚するとか、今の段階で考えてるわけじゃないよ。ただ、エリズは私のことを結構好きらしくて……とりあえず、様子見、かな」


「ヴィーシャとしては……女同士の恋愛も、あり、なのかい?」


「……わからない。自分の気持ちについても、様子見」


「……そっか」



 ローナが神妙な顔になる。何を考えているのか……。ローナとは歳が近く、召喚士ギルド内でも仲のいい相手だから、嫌われたくはないな……。


 エリズとの関係を取るか、ローナとの関係を取るか……なんてことにはなってほしくない……。

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