第7話 薬草採取

 召喚士ギルドを後にしたら、当初の予定通り、私とエリズは東の森で薬草採取をすることに。


 少し時間はかかるが徒歩圏内なので、二人で歩いて森に向かった。


 町を抜け、周辺に広がる畑も通り過ぎ、私たちは森の入り口に到着。


 なお、この間、私とエリズは手を繋ぎっぱなしである。道行く人にチラチラ見られて気まずかった。そろそろ手を離してほしいのだが、その希望は叶いそうにない。



「ところでヴィーシャさん。森には魔物のような危険なものがいるのでしょうか?」



  森に入ると、エリズが尋ねてきた。



「この森にはいないね。基本的に、魔物が生息している地域は限られているんだ。負の魔力が満ちている場所じゃないと、魔物は生きていけない」


「ほほー、なるほど」


「東と南の森には負の魔力は満ちていないから、普通の動物しかいない。といっても、たまに猪とかが現れるから、魔物がいなくても完璧に安全ってわけではないよ」


「ふむふむ」


「逆に、北と東の森には負の魔力が満ちていて、大量の魔物が生息している。ゴブリンとかオークとか。私一人だとちょっと入れない場所」


「わたしと一緒なら大丈夫そうですね。実のところ、実際にそういう魔物と戦ったことはないのですが、攻撃魔法は扱えますよ」


「……エリズって、どんな魔法を使えるの? 例えば、森の木を水魔法で倒す、くらいは簡単にできちゃう?」


「ええ、そうですね。木も倒せますし、岩を砕くこともできます。トゥーリアの町全体を水で押し流すくらいは可能ですよ」


「……それはそれは。本当に強いんだね」


「木を倒すくらいでしたら、お見せしましょうか?」


「……やめておこう。エリズの力を見るためだけに木を倒すのは、木が可哀想だ」


「そうですね。ただの木であっても、そこには命が宿っていますもんね」


「うん。それにさ、普通に立っている木だって、十年、二十年の歳月を経て、ようやく今の姿になっているんだ。頑張って大きくなったのに、人間の勝手で倒しちゃうなんて、申し訳ないよ。何かに利用するならまだしも、ね」


「ですね」


「……何をにやにやしてるわけ?」


「いえいえ。ヴィーシャさんは本当に優しい方だと思って、嬉しかっただけです」


「優しい? 普通のことしか言ってないでしょ」


「……そうかもしれませんね」



 エリズは意味深な笑みを崩さない。なんだっていうんだ。バカにされている感じではないから、放っておくけれど。



「わたし、水の精霊なので当然水は好きです。他にも、木も、花も、鳥も、動物も、虫も、土も、皆好きです」


「……私、虫はちょっと苦手かな。えっと、それで?」


「ヴィーシャさんが、一本の木も大事にしてくれること、とても嬉しく思います。そして、ヴィーシャさんと一緒に、こうして木漏れ日の中を歩いているだけで幸せです」



 いい笑顔で、エリズは恥ずかしげもなく言い放った。


 精霊様には、恥じらいという概念はないのかね?



「……そ、そんなのあえて言わなくてもいいでしょうが」


「いえいえ。わたしの心を読みとる特殊な力など、ヴィーシャさんはお持ちではないでしょう?」


「それはそうだけど……」


「思いは言葉にしないと伝わらないので、きちんとお伝えしなければいけません」


「……うん」


「それにですよ? 好き、嬉しい、幸せ……。そういう言葉を積極的に口にしていると、より一層気持ちが晴れやかになるではありませんか。そういうの、ヴィーシャさんはわかりませんか?」


「……わかるっちゃ、わかるよ」


「では、ご一緒に。二人でのお散歩、幸せだなぁ」



 ご一緒に、とか勝手に話を進めないでくれ。聞いているだけでも気恥ずかしいのに、自分で口にするのは容易ではない。



「あれあれ? ヴィーシャさんの声が聞こえませんよ? 急にしゃべれない呪いにでもかかっちゃいましたか?」


「……もう、そういうことにしておいて」



 森の中部域に到着したら、薬草採取を始める。



「この辺りに薬草が生えてるから採っていくよ」


「はい。で、どうやって探すんですか? 緑が茂っている中で薬草を探し出すの、難しくありません?」


「大丈夫。私たちが探す必要はないから」


「と、言いますと?」


「まぁ、見てて。エリズほどの力はないとはいえ、私だって無能じゃないんだから」



 空いている右手を前に突き出し、手のひらを地面に向け、唱える。


 

「おいで。私の頼もしい仲間たち。……白鼻はくびの子豚」

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