【下書き】#2

数十年後。今こうして文字に起こしてみると、想像以上に遅い犯行である。


犯行。これも改めて文字に起こしてみると、思っていたよりもずっと“らしい”響きに感じられる。


ただ、“らしい”のは肝心だ。K先生も昔、言っていた。


私たちが知り合ってから数年後の、中学一年生の時。

周囲も驚く仲良しバディであり続けた私たちは、エスカレーター式に進学した後、二人揃って、漫画研究会部に所属した。

今でこそキラキラしたオタクは珍しくないけれど、当時は珍しかった。K先生ほどに守備範囲が広い陽キャオタクは、他に居ない。K先生は、腐った趣味だって受け入れた。いやむしろ、能動的に腐っていった。詳しくは割愛するけれど、なんと言ったって最初に彼女を“先生”と敬称したのが、何を隠そう、ミス・オ〇ガバースこと当時の漫研部の部長その人で……とにかくK先生は見る見るうちに、腐女子へメタモルフォーゼしていったのだ。


またK先生の創作センスは、この頃から群を抜いていた。

彼女はとにかく筆が早く、アイデアが豊富で、展開にも貪欲だった。他の部員が書いた漫画やシナリオは軒並平凡だったけれど、彼女の書いた作品ばかりは、漫画の神様だってビックリの傑作揃いである。

そんな時分の彼女に教わったのが、冒頭の執筆のコツ、『書き出しはネガティブに、結末はポジティブに。』だ。冒頭部分ではネガティブな描写で読者を引き寄せて、クライマックスが近づくにつれて段々とポジティブに昇華していく。その過程こそ“えっち”なわけで、その構造こそ"らしさ"なのだと、K先生は得意げに語っていた。


そうはいっても、才能に乏しい素人学生らが一朝一夕で書き上げられるものなんて、やっぱりたかが知れている訳で、結局はK先生の一人勝ち……勝ち負けなんてものは初めからなかったけれど、我らが漫研部は、K先生をお抱え作家とする同人会サークルへと形を変えていった。


だから、私が殺したのである。

彼女の首を。

この手で。

締め上げたのだ。

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