書き出しはネガティブに、結末はポジティブに。

巳崎怜央

【下書き】#1

彼女を殺したのは私だ。


『書き出しはネガティブに、結末はポジティブに。』


これは他ならないK先生に教わった、シナリオ作成のコツである。この“先生”は、私との間柄や上下関係を指すのではなく、単なる彼女のニックネームに過ぎない。私が友人である彼女を、常々“先生”と呼んでいたので、それに倣って“かの先生”つまり“K先生”と表記する、ただそれだけのことだ。


小学生の頃に転入してきたK先生は、漫画やアニメが好きで、クラスメイト皆にオススメの作品を布教してまわっていた。ませてはいたけれど、私立の小中一貫じゃ珍しくもなかったし、むしろあんまり陽気だったから、男子諸君を中心に間も無く人気を集めていった。


そして漏れなく私も、彼女に好感を抱いていた。当時の私は、クラスの一軍から迫害よろしくのいじめを受けていた。こう書くと、読者諸君は私を冴えない野郎のようにイメージするのかもしれないけれど、それは違う。私はK先生と同じく、女性である。


とはいえ私に、いわゆる女子力はなかった。K先生が華型ならば、私は地底を這う“根型”と言えよう。もっと手短に言えば、私は腐っていた。腐女子だったことに加えて、とにかく陰気で痛かった。平成の腐女子小学生なので、多少の醜態は可愛げとして許されたい。


当時の私は、アニメ好きらしいK先生と接触したかった反面、ハブられている手前巻き込みたくもなく、結局しばらくは何もしないまま、平常通りの日々を続けていった。


K先生が転入してから大体一年後のある日、なんと向こうから私に声をかけてきてくれた。今でもよく覚えているが、その時の彼女の振る舞いは、まさしく天使。「同じ趣味だと聞いて、居ても立っても居られなくなったんだ」と、彼女は前のめりになっていた。


嬉しかった。

本当に、心の底から。


期待通り、私たちは意気投合する。互いのオススメ作品を布教し合い、またアニメの放送直後には必ず連絡網を辿って、電話で感想を語り合う。母と父から、「一体いつまで電話してるんだ」と懲りずに何度も怒られる。


私がK先生を殺したのは、それから数十年後のことだ。

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