第4話

「置く位置を間違えた。すまん」

「いや、何にも考えず触った俺が悪い」

火傷した指にフーフーと息を吹き掛ける。川で冷やそうかと腰を上げようとしたらルルココに止められた。

「何だ」

「治療してやる。その程度の火傷なら私でも治せる」

そう言うので座ってルルココに指を差し出す。てっきり塗り薬や薬草とかで応急処置するのかと思ったが違った。ルルココが手をかざすと指が光に包まれ、徐々に痛みは消え跡形もなく消え去った。

「お前、魔法が使えたのか」

「簡易的なものだけだがな」

「他にどんな魔法が使えるんだ?魔王のところまで瞬間移動できる魔法とかないのか?」

「あったら既に使っている……興味津々だな」

「そりゃあ、魔法を使えるやつなんて初めて出会ったからな……魔法でお金とか増やせたりすんのか?」

「考えが卑しいな」


魚を食べて腹を満たした俺たちは寝ることにした。

「男二人入れるのか……?」

とりあえずテントを設置してみた。コンパクトなサイズで持ち運びが楽だった分、中の広さは一人ほどしか横になれないだろう。端に寄れば二人のいけるか……?と考えていれば「私は外でも平気だ」と寝袋を広げているルルココが言った。

「これまでだってそうしてきたんだ」

「熊とか、オオカミとか、動物に襲われるぞ……そうなったら食物連鎖か……」

「奴らは私を襲わない」

「それも魔法の力か?」

「そういう種族だ」

本人が言うならそれで良いのだろう。奴ももう寝袋に入っているし……寝るときくらいフード外せよ。今日は一日中動きっぱなしだったからぐっすり眠れそうだ。


体を揺すられ、目が覚める。なんだよ。ぐわんぐわんするから止めろ。

「母さん、まだ寝かせてくれよ……昼にもなってないだろ……」

「私はお前の母ではない」

男の声?体を起こし、眠い目を擦る。ああ、そうか。俺は今、旅に出てるんだった。

「寝坊助め、昼に起きるなんてどういう生活をしているんだ。はやく支度しろ」

「へーい」

ルルココはもう準備ができており、なんと朝飯に焼き魚を作ってくれていた。早起きしてあいつの寝顔を拝んでやろうと思ったのに。考えてみれば朝に起きる習慣がないニートが早起きをするなんて無理な話なのだ。朝飯を済ませ、テントも片付けて出発の準備はできた。

「このまま進むか、伝説の剣を探しに行くか、だな……」

「剣のことはいい。進みながら情報収集すればいいだけだ。先に進もう」

「まあ、行く先に街もあるしな」


雑な地図を頼りに森を進んでいく。

「あ?誰か倒れてるぞ」

「待て、不用意に近づくな」

地面に横たわっている奴がいて、俺たちは数メートル離れた場所で様子を見ることにした。背中が上下しているから息をしていることはわかる。魔物の仕業なのだろうか。倒れている奴はローブを着てフードを被っているから顔がわからない。ルルココもそうだが、森を歩くにはフードを被るのが常識なのか?俺もした方がいいのかな。

「声でもかけてみるか」

「私たちの目的は魔王を倒すことだ。人助けに割ける時間は──」

「おーい、大丈夫ですかー」

「貴様、話を最後まで聞け!」

「イデッ」

拳骨をくらわされた頭を擦りながら相手の反応を見る。しゃがれた声で「みず……水を……」と喋っている。隣でルルココがこっちを見ている。何のアイコンタクトだ。見つめられても意図は読み取れないから水を持って倒れている奴の傍まで行った。後ろで名前を呼ばれたが気にせず飲むのを手伝った。


「マジ助かった、ありがとう!オレはヴァンフォード、ヴァンって呼ばれてる」

倒れた男が元気になってフードをとった。頭に耳が生えてオオカミと人のハーフのようだ。獣人属か、初めて見た。休憩ということでひとまず木の根に背を預けて座っている。

「礼なんていらないから代わりに飲んだ水返せ」

脱水状態だったヴァンは寄越した水を全部飲みやがった。疲れたから俺も飲もうと思ってたのに。

「喉渇いてたんだって。許してくれよ!あ、あと腹も減ってんだ。申し訳ないけど何かくれ」

なぜだろう。申し訳なさを微塵も感じない。

「こいつ助けようって言ったの誰だよ……俺か」

「だから言っただろう。人助けなんて時間の無駄だと」

ヴァンに背を向け小声で話しているとヴァンがルルココにすり寄った。

「フードのお兄さん、何か持ってないか?いい匂いがするんだけど」

「動けるようになったなら木の実でももぎ取って食え」

「どれが食えるかわかんねーからムリ」

「これなら食ったことくらいあるだろ」

横にあった地栗をヴァンに見せる。棘が痛え。

「なんだ?海栗か?」

「これは地上で育ったから地クリ。この状態のを見たことないのか?」

「そもそも地栗を知らねーし」

ヴァンの言葉に目を丸くした。地栗を食べたことないのか。地栗を知らず海栗を知っているってことは何処かの坊っちゃんか?着ているローブも金色の刺繍とかアクセサリーとかがついてるしお金持ちなのかもしれない。

「わかった。何か食べれるもん採ってくるから待ってろ。行くぞルルココ」

「私もか」

地栗じゃあ食べるのがめんどくさいからくる来る途中で見つけた木の実を採ろう。


「あの獣人の腹を満たしたら、先に進むからな」

木を蹴って揺らしていると、岩に座って木の実をかじりながらルルココは言った。俺は首を横に振る。

「いや、街まで連れていく」

これから先行く街は獣人属や竜人属など多民族が暮らしている。

「案内役としてか?」

「違う。財布役だ」

今の所持金はゼロだ。財布も持たないまま村を追い出されたからしかたがない。まあ、中身も対して入ってないが。

「ヴァンは何処かのお金持ちっぽいからな。助けたんだからって脅せば旨い飯やホテルとか泊まれるだろ?」

「下衆だな」

ちゃんとした飯やふっかふかのベッドで眠れる。グヘヘと笑っていれば、揺らしていた木から降ってきた実が頭に落ちた。

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ニートの魔王退治 たこのあし。 @takono_ashi

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