第3話

類は友を呼ぶように自分と同じニート・ルルココが仲間に加わった。俺は強制だが、ルルココは自ら魔王退治の旅をしているらしい。魔王についての情報は昔読み聞かされた本の情報だけで、無計画に家出してきたようだ。今はこいつの言う伝説の剣を探しに行くかどうかで揉めている。

「伝説の剣がないと魔王は倒せないんだ。探しに行くしかないだろう」

「俺の村は一週間後に魔物たちに襲われるんだよ。伝説の剣って言っても何処に突き刺さってるのかわからないんだろ。探すのに時間がかかる」

「魔王が襲ってくるわけではないのだ。魔物を倒しながら探せばいい」

「別に二人じゃなくても一人で行けばいいだろ」

「もし私が勇者でない場合、抜くことができない」

「俺も勇者じゃない場合どうするんだよ。そもそも伝説の剣なんて──」

存在感するのか?と続けようとすると「ぐううぅ……」と腹の音が向こうから聞こえた。なんだか自分も腹が空いてる気がしてきた。

「飯にするか」

「そうだな」


地図によると近くに川があるみたいだ。ただ地図には二本の並行線しか描かれていないが、たぶん川。魚を釣って焼き魚にすればいい。

「ルルココ、魚釣りできるか?」

「釣りか。経験はあるが、自ら捕りに行く方が早いぞ」

「こんなに日が沈んでたら川の中の様子なんて見えたもんじゃないだろ」

そう、今は黄昏時。ルルココの唯一見えていた口元も暗くて目を凝らさないと見えない。というか、お前まだフード被ってんのかよ。木の根に足引っかけて転んでも知らないからな。

「私は見えるぞ」

「お前、フードなんか──うぉッ!」

ルルココじゃなくて俺が引っかかった。足元なんてもう見えねーよ。ルルココが差し出した手を掴んで起き上がる。

「明かりをつけていないから見えているのかと思ったぞ」

「ああ、明かり」

そうか、ライトを使えばよかったのか。昼時から夕暮れ時のアハ体験で思いつかなかった。漁ろうとリュックサックを前に回すとなぜか光っていた。

「ど、どうして光ってるんだ……」

「気づいてなかったのか。ずいぶん前から光っている」

「知ってたなら言えよ!」

「そういう仕様かと思った」

中身を確認するとランタンの明かりがついていた。勝手に点いたのか?

「ピカッコケだな」

ルルココがランタンを見て呟いた。顔の前に手を翳している。

「なんだそれ。これの商品名か?」

「……中身の光源のことだ。ピカッコケは日の光を吸収して温存し、暗い場所で光るコケだ」

「ああ、スクールで習った気がする……ような、しないような」

「はあ……川へ行くぞ」

なんだ、そのため息は。知らないことがあってもいいだろ。待て、置いていくな。


まいった、丈夫そうな糸と釣り針しかない。

リュックサックをあらかた漁ってみたが竿と餌になるものはなかった。疲労で、今から見つけに行く気力はなかった。河川の傍で座りこむ俺の横にルルココがしゃがみこんだ。

「釣りなんて待ってるだけ時間の無駄だ。掴み取りに行け」

そう言って袖を捲り、水面を覗き込むと動かなくなった。かと思えば素早く手を川に突っ込み、上に挙げた。その手には一匹の魚が捕まれていた。

「おお、すげえなお前」

「フン、このくらい僕にとっては簡単なことだ」

ルルココは持っていたらしい網袋に魚を入れた。そしてこちらを向き、「手本は見せただろう。お前も取れ」といい放った。マジかよ。

ルルココのいる場所から距離を開けた場所で俺も暗い水面を照らして覗き込んだ。のだが。

「ルルココ先生ー、魚が一匹も通りませーん」

「水面を照らすからだろう」

「明かりがないと魚が見えねえよ」

「じゃあ釣りでもしろ」

「竿と餌がねえよ」

「じゃあ取ってこい」

「そんな気力ねえよ」

「もう、僕がそっちに誘き寄せるから網でも何でも使って捕まえろよ!」

そうして俺とルルココによる、夜の追い込み漁が始まった。網はリュックサックに入っていた小型の虫取網みたいなやつを使った。


「結構取れたんじゃないか?ありがとうなルルココ」

ルルココが捕った魚3匹、追い込み漁で捕った魚3匹。一人3匹ずつ食べられる。

「マッチがあるが、薪が要るな」

そもそも焚き火の仕方を俺は知らない。ルルココに目をやると「問題ない。薪は集めている」とマントの下から袋を取り出した。一人旅をしていて集めていたのだろう。計画性のある男だ。ルルココに教わりながら焚き火をして、リュックサックに入っていた串で魚を刺して焼いた。

「ルルココは何処から来たんだ?」

「……知らなくていい」

「あ、そ……なんで魔王を倒そうと思ったんだよ」

「見返したい奴がいる……お前はどうなんだ」

「魔王退治して来いって村から追い出された」

「……ジャック、お前は何者なんだ?」

「俺は──」

煙の匂いと焼かれる魚の薫り。表面がパリっとして、塩があったら振っていたであろう、その白身。汁が伝う持ち手に手を伸ばす。


「ただのニー──あ"っつ!!」

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