第2話
地図を信じ、森の中を歩いていて気がついた。今の俺の力で魔王を倒せるのか?先ほどまでニートだった──今は勇者という職についてるからニートじゃないと思いたい──自分に凶悪といわれている魔王を倒すことができるとは思えない。いくら預言の勇者といわれても、言っているのがあの占い師だから信用できたもんじゃない。魔王どころか魔物すら倒せないんじゃないのか。俺より俺を村から追い出した男たちのほうがまだ勝機がある気がする。
「そもそも勇者一人で魔王を倒させるシステムがおかしいんだ。村の人全員で行けば──」
いいのに、と言おうとしたらガサガサと茂みが鳴り、驚いて数歩後退る。もしかして魔物か?そう考えると急に怖くなり体が震えだした。俺、ここで死ぬのか?まだやりたいことあったのに、殺されるのか?生きたまま食われるのか?はやく逃げなければ。
「今、魔王と言ったか……?」
足を動かすより先に茂みから出てきたのは人だった。裾が綻びたマントを着てフードで顔は口元しか見えないが、声で男だと判別した。魔物じゃないことがわかると一気に力が抜ける。
「お前、魔王を知っているのか……?」
「知っているというより、その魔王の討伐を任された」
「お前が……?」
表情は見えないが男が驚愕しているということはなんとなくわかった。勇者だなんて自分でも信じられないが、そこまで驚かなくてもいいと思う。俺がニートだってことこの男は知らないはずだ。
「葉の擦れる音だけで戦いて、剣すら抜こうとしなかったお前があの魔王の討伐退治を担えるとは思えん……騙されているんじゃないのか?」
的確すぎる。俺も騙されてるんじゃないかと若干感じてるよ。だが、「あの魔王」とこいつは言った。本当に魔王は存在していたようだ。早々、有識者と出会えるなんて運が良いな。
「俺は魔王の存在すら信じきれていない。何でもいいから魔王について教えてくれないか」
「魔王についてなにも知らないのに打倒魔王を掲げているのか?……あり得ん」
いいだろ別に。何も教えられないまま外へと放り出されたんだ。俺は悪くない。
「いや、本当は手練れの剣豪かも。腰にぶら下げている剣なんか古そうだし、年季が入ってる。そう考えると強者の風格、と言うのか?あの気だるげな姿から余裕を感じる。剣の腕前を買われて魔王討伐の依頼を……?」
「じゃあな」
ぶつぶつと気味が悪いから先に進むことにした。魔王について聞きたかったがこの先、街もあるしそこで情報収集をすればいい。すると結構進んだところであの男に呼び止められた。普通もっと早く呼び止めるだろ。50mくらい距離あるぞ。走ってくるから息切れてるし。
「ぼ……私も、同行、しよう」
まさかの仲間ができた。
「俺はジャック」
「ルルココだ」
フードを外さないままのルルココと並んで森を歩いていると「なぜ魔王の居場所がわかる」と質問を投げ掛けてきた。視線は地図に向いていた。
「村長にもらった。ここが俺の村」
「……もっとマシな地図は」
「ない」
それ以上ルルココは何も言わずに渡された地図を眺めて「こんな場所に魔王は住んでいるのか……」など呟いている。魔王のことを知っているということは俺の村に住んでいる奴じゃないな。
「ルルココは何で魔王を知っているんだ?」
「幼いときから母に聞かされていた。選ばれし勇者に魔王は必ず倒されると……」
「ほう……」
代々伝わる神話みたいなものなのか。それとも魔王に襲われた過去がある村とかなのか?
「姿も知っている……本によって違いはあるけどな」
「読み聞かせかよ!」
有識者だと思って期待していたが、どうやら絵本の内容を真に受けているだけの脳内お花畑野郎らしい。ため息をついてる間もルルココの話しは続いた。
「魔王は強靭な肉体をしている。普通の剣なんかじゃ貫けない。封印されし伝説の剣じゃないとだめだ……ハッ!その剣はもしや伝説の──」
「違う」
「そうだろうな。誰でも伝説の剣を抜けるわけじゃない。その剣を抜ける者こそ選ばれし勇者なのだ」
仮にもしこれが伝説の剣なら村長から手渡された俺は勇者じゃないな。
「伝説の剣は大きな岩や遺跡に刺さっていることが多いようだ。棺に遺骨と一緒に入っていることもあるらしいが」
「不確定な情報が多いな」
「私はいつか伝説の剣を抜き、勇者となり魔王を倒すべく、日々鍛練だけにこの身を費やしてきた……」
「……もしかして、こいつニート!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます