第四十三幕 成長―アウェイクニング―

 「喰らえぇい!」


 みずちはそう叫ぶと妖術で蛇の形をした大量の水を使い、叶夜たちを押しつぶさんと向かわせる。


 「そんな大振りな攻撃!」


 その攻撃を避けた八重は札で牛頭と馬頭を呼び出す。


 ブモォォォォ!!

 ヒィィィィィン!!


 強敵相手なのが分かるのか二匹とも力強くいななくと蛟に向かって突進していく。


 「ええい!うっとおしい!!」


 近づいて来る牛頭馬頭コンビを薙ぎ払おうとする蛟であったがその途端に尾が氷漬けになる。


 「なっ!」

 「目の前の事に囚われすぎですよ。」


 睦は蛟の動きが鈍くなったのを確認するや否や、すぐさま巨大な氷柱を作り出し弾丸のように撃ち出す。


 「クッ!舐めるな!」


 対する蛟は氷漬けされた尾を無理やり振り回し巨大な氷柱に打ち当てる。

 その衝撃により両方の氷が割れ氷塊が辺りに降り注ぐ。


 「フハハハハ!どうだ!吾輩にこの程度の攻撃、がぁ!」


 得意げになる蛟であったがその胴体に牛頭馬頭の棍棒と斧が装甲にめり込む。

 衝撃で後ろに下がる蛟に追撃を加えようとする二匹であったが、蛟は妖力を加えた咆哮ほうこうで二匹の足を止めると口から高圧水流を出し仕留めようとする。


 「はぁ!!」


 だがそれは八重が張った結界によって防がれる。


 「チィ!…ん?」


 思わず舌打ちする蛟であったが頭上で何かが輝いたように感じ上を見る。

 そこには太刀を振り下ろしそうとする直前であった玉藻の姿であった。


 「何ぃ!」


 咄嗟とっさに尾で防ごうとする蛟であったが間に合わず頭の部分に太刀が突き刺さった。

 …ように見えたが傷を付けたところで太刀が折れてしまった。


 「ガァ!!き、貴様ぁ!!」


 防御のために動かしていた尾をすぐさま玉藻を振り払うために使う蛟。

 結界で直撃を防ぐ叶夜であったが、振るわれた尾の衝撃で大きく吹き飛ばされる玉藻であったが背後に氷の壁がそびえるのを見て、それを利用して着地する。


 「大丈夫ですか?」

 「ん。我は問題ない。」

 「あなたじゃなくて叶夜くんの心配だと思うけど…。大丈夫なの?動きが鈍いように思えるけど。」

 「ああそっちも問題ない。胸部がえぐられかけただけじゃ問題ない。」

 「問題無い訳無いでしょう!?叶夜くん、大丈夫なの!?」


 だが八重の心配の声も届いていないのか玉藻の中で叶夜はなにやら。


 「もっと速く、もっと硬く。」


 という言葉をずっと呟いている。


 「叶夜くん?」

 「叶夜様?」


 叶夜の様子がおかしいと感じ、八重と睦が声を掛けるがやはり反応は無い。


 「…どうなってるの?」

 「そう怖い声を出すな陰陽師娘。なんの事はない、叶夜も我も次の段階に行こうとしておる。それだけじゃ。」

 「それってどういう…っ!」


 問いただそうとする八重であったが頭上から振り下ろされた尾が見えたため三人共それを避ける事に集中する。


 「バカにしよって!!これならどうだぁ!!」


 戦闘中に会話していたのが余程頭に来たのか怒り心頭の様子で叫ぶ。

 すると周りに渦巻く大量の水が幾つも召喚され、それぞれが叶夜たちに向かって行く。

 まるで水流の槍のような水柱の数、十二本がうねりを上げながら遅いかかる。


 「やらせません!!」


 睦が氷の壁を作って五本の水柱を止めるが残りは防ぎきれず叶夜と八重の方に向かう。


 「このぉ!」


 八重は向かってくる水柱を牛頭と馬頭を向かわせて二本打ち消し、残り二本は札を爆発させかき消す。


 「…すぅー。《狐火・鳳千花》!!」


 そして残りの三本は叶夜が繰り出した狐火によって蒸発するのであった。


 「ええい!忌々しい!どこまでも邪魔をしよって!!貴様らさえ来なければ事がここまで大きくなる事は無かったのだ!!」

 「いや元々はあんたが問題を大きくしたんしょうに。」


 蛟の逆ギレな言葉に八重は呆れたように言い返すが、興奮した様子の蛟はさらにえる。


 「黙れ!!吾輩はここで終わるような妖ではない!吾輩は必ず竜宮城を掌握し!龍と、神になってみせる!!」

 「龍に?」


 睦が思わず聞き返す。

 西洋とは違い東洋では龍は信仰の対象、つまりは神として扱われる。


 「そうだ!!本来吾輩はあがめられる存在になるはずだったのだ!!だから必ず龍となり、人間を必ず吾輩を崇めるよう教育してやる!!」

 「…無理だな、あんたには。」

 「何ぃ!?」


 突如放たれた叶夜の言葉に反応し蛟はその方向に振り向く。

 そこには陽炎のようにぼやけた様子の玉藻がいた。


 (何、あれ。妖力が今まで以上にふくれ上がっている?)

 (もしかして九尾さんが言っていた段階って…。)


 八重と睦が異常を感じている中で興奮のためか異変に気付けない蛟は玉藻を、そして叶夜をにらみつける。


 「貴様ぁ、今何と言った!?」

 「お前のように支配欲だけで他の人や妖を言う事聞かそうなんて思う奴は、神様どころか上に立つ者として失格だって言ってるんだよ!この蛇野郎!!」

 「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」


 叶夜の言葉に完全に怒った蛟は先ほどと同じ攻撃を全て玉藻に向けて放つ。

 だがそれに対し叶夜は回避行動を取る事も無く全ての水の槍が玉藻に当たる。


 「アハハハハハハハハ!!人間風情がふざけた事を言うからこうなるのだ!!」

 「「…。」」


 得意げに笑う蛟を横目に八重と睦は未だに叶夜がいた場所に立ち込める水蒸気を黙って見つめる。


 「アハハハハハ!!さて水蒸気が晴れたらどのような姿になっている、か…?な、なぜ水蒸気が発生している?」


 そこでようやく蛟も状況がおかしい事に気付く。

 水蒸気とは水が熱によって蒸発する事によって出来るモノ、細かい知識は無くとも蛟もその程度の知識は知っていた。

 目の前の現象に疑問を覚えていると、段々と水蒸気が薄くなっていく。

 すると。


 「ヒィ!?」


 蛟は巨大な狐にかみ砕かれる幻影を見る。


 (い、今のは…幻術?い、いやそのような物ではない。あれは紛れもない殺気!)


 そして完全に晴れるとそこには五つの尾をたなびかせ、蛟の方を見つめている玉藻の姿があった。


 「すごい…。」

 「…。」


 睦はそう素直に称賛するが八重は心配そうな顔で玉藻を、いや乗っている叶夜を見つめていた。


 「た、たかが尾が二つ増えた程度でぇ!!」


 まるで己を鼓舞こぶするように叫んだ蛟であったが、一瞬で玉藻の姿を見失う。


 「ど、どこに」


 全ての言葉を言い切る前に蛟は吹き飛んだ。

 正確に言えば、玉藻に殴られ吹き飛ばされ壁に衝突した。


 「ガハァ!?」

 「うむ。上手く使いこなせれるようじゃな、叶夜?」

 「フゥ―。当然。」


 叶夜はそう言うと刀を妖術で作り上げる。

 その刀の輝きは今までよりも輝いているようにも見える。


 「こいよ蛟。お前のこれまでの努力、全部無駄にしてやる。」

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