第四十幕 罪過―オールドテイル―
「うーん。」
竜宮城の中心部、一際大きい扉の前で睦は悩んでいた。
扉は完全に閉まりきっており、入るためには扉を破壊するのが一番速いだろうが、亀から傷つけないように言われてるため睦は
それに中には恐らく乙姫と
そのような可能性がある中で一人で突っ込むのも、睦が躊躇する一因であった。
「ん?」
すると反対側の通路から何者かの足音が聞こえる。
追っ手かと思い手にしている薙刀に力を込めるが、同時に聞こえる【陰陽機】特有の起動音が聞こえ
やがて八重の専用機の【陰陽機】である法眼が視界に入った。
「ごめんなさい。少し手間取ったわ。」
「いえ、ご無事で何よりです八重さん。」
二人は簡単に確認し合うと目の前の扉を見上げる。
「ちょうど、どうしようか考えていた所で…。」
「考えるまでも無いわよ。破壊してでも押し通る。」
「いいのですか?破壊しないで欲しいと言われてますし、それに叶夜様と九尾も。」
「二人、いえ亀も含めて三人を待っていたら手遅れになるかも知れない。それにここに亀がいても扉を開けれる保証も無いしね。」
八重が自分なりの意見を言うと睦も納得したのか頷きが返って来る。
「分かりました。では私が扉を氷漬けにして
「ええ。お願い。」
そう決めると睦は氷漬けにしようと扉に触ろうとするが。
突然扉が音と共に開き始めたのである。
やがて扉は全開となったまま再び沈黙した。
内部は暗く、状態を確認する事は出来ない。
「…罠でしょうか?」
「でしょうね。」
あまりに都合のいい展開に罠を疑う二人であったが、八重が法眼を前進させる。
「八重さん?」
「罠でも進む他ないわ。手間取れば待っているのは負けよ。」
「…分かりました。室内は暗いです、互いに慎重にいきましょう。」
「勿論。フォローよろしくね。」
睦は氷で盾を作り出し先行する八重のあとを追う。
室内は相変わらず暗かったが二人が入ると共に淡い光が室内を照らした。
そこはかなり広く【怪機】や【陰陽機】が千機は入れるだろう。
「広いわね。」
「竜宮城の会議室と宴会場を兼ねていると亀さんが言っていましたから。」
「ええ、竜宮城自慢の大広間です。…そして私の罪が始まった場所でもあります。」
「「!!」」
突如聞こえた別の女性の声の方向に反応しそちらを向く二人。
すると光が強くなり中心部に人間サイズの女性が立っているのが見えた。
「…あなたが乙姫様ですか?」
「はい。初めまして外の世界の方々。…このような出会いは
「我々がここに来た理由、理解していますか?」
「勿論です。私を止めるように亀さんと海坊主さんに頼まれたのですよね。…ですが残念ながら止める気はありません。」
「…何故そこまで自分を殺したいのですか。」
睦がそう聞くと乙姫は少し悩むような仕草を見せた。
「…いいでしょう。ここまで私の事を思い行動してくれたあなた方には話しましょう。…私の罪を。」
「罪?」
八重の聞き直しに頷くと、乙姫は覚悟を決めた顔で語り始めた。
「昔、とても昔の話です。人間の間では[浦島太郎]という名で物語として受け継がれているそうですね。」
「[浦島太郎]…。」
「はい。本当の名は記憶の海に沈んでしまいましたが今でもハッキリと覚えています。…彼がとても良き青年であった事は。」
乙姫はどこか嬉しそうに語りながら、その青年の事を語り始める。
「彼は間違って【表世界】の陸に打ち上げられた亀を助けました。その亀はお礼がしたいと彼を竜宮城に案内しました。そこで私と彼は出会いました、…出会ってしまったのです。」
「出会って…しまった?」
乙姫の言い方に引っかかりを憶える睦であったが乙姫の語りは止まらない。
「その人間を私はもてなしました。…彼が帰る、と言っても理由をつけてここに留まらせました。」
「どうしてそんな事を。」
八重がそう問うと乙姫は本当に苦しそうな顔をしながら答える。
「愛してしまったから。」
「え?」
「彼を愛してしまったのです。そして私は少しでも彼と一緒に居たいがためにこの竜宮城に引き留め続けました。彼の意思を無視して。」
「…乙姫さん。」
睦が乙姫の名を呼ぶが聞こえていないのか返事は無かった。
「やがて彼は私の説得では引き留められなくなりました。ですがその頃には地上の時間は百年は経過していました。…そこでようやく私は己の罪を悟りました。」
「罪…。」
八重の呟きには気づかず乙姫は顔を蒼白にしながら語り続ける。
「彼が家族や友、…愛する人や見知らぬ人々。そんな人間として当たり前を過ごす時間を私は彼から奪ってしまいました。私のワガママを通したために。」
「「…。」」
乙姫の独白に八重と睦は何も言えずにいた。
乙姫は天井を見上げながら語り続ける。
「…私は彼が絶望した時のために術を仕込んだ箱を渡しました。開けた者を老化させ痛みも何もなく死なせる、そんな術を。…なのに。」
「彼は鶴となり、やがては…。」
「そう、彼は神となった。」
「ですがそれは。」
「ええ、それは飽くまで物語での事。実際の事実は確認する
「だったら。」
「ですが!!物語としてそう残っている!!その事実こそが私の罪なのです!!」
溜まった物を吐き出すように叫ぶ乙姫に驚く二人に乙姫は問いかける。
「分かりますか雪女さん!愛する人を人外の存在にしてしまったかも知れない苦しみが!!分かりますか陰陽師さん!愛した人が死ねなくなって私を恨んでいるかも知れないという事がどれほどの痛みか!!」
「「…。」」
乙姫の叫びに二人は何も答えられなかった。
突入時に見せた二人の戦闘意識は完全に薄れていた。
「…叫んでしまって申し訳ありません、そして無責任なのは分かっています。ですが私はもう思い悩むのは疲れました。」
「乙姫さん…。」
「…もうお帰り下さい。皆にはこれ以上の戦闘を止めさせますので。私は自らの意思で死にたいのです。」
「…ですが。」
乙姫を説得しようにも彼女の抱える痛みを共有出来ない二人は何も言えなかった。
説得も出来ず、かと言って戻る訳にもいかず立ち止まってる二人に聞きなれた声が聞こえた。
「な~にが「死にたいのです。」じゃ、このバカ娘は。」
八重と睦、そして呼ばれた乙姫が入り口を見るとそこには亀と【怪機】状態の玉藻が仁王立ちしていた。
「…え?この妖気…も、ももももももしかして玉藻…さん?」
「ほう?目が曇っておってもそれぐらいは分かるか。ではこれから何が起きるか…分かるのう。」
そう言って玉藻は一歩ずつゆっくりと乙姫に近づいていく。
それに比例して段々と乙姫の体の震えが酷くなってゆく。
「ど、どういった関係なんでしょう。」
「さあ?」
睦と八重がそのような事を話している間に玉藻と乙姫の距離が近づいた。
やがて玉藻は立ち止まるが乙姫は既に涙目である。
「さぁ。乙姫、楽しい楽しい…説教の時間じゃ。」
玉藻の中にいる叶夜は玉藻が笑いながら怒ってる事を感じ取っていた。
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