第三十五幕 攻城―アサルト《突撃》―

 「…。」

 「乙姫様。」


 竜宮城の中心部である【怪機】数百が入れる程の広い会議場、そこに乙姫は目をつぶりただそこに立っているように見えた。

 ただ実際はそうしているだけで自らの力をみずちへと送っていた。

 蛟はそんな乙姫に声を掛ける。


 「何でしょう蛟さん。」

 「偵察部隊からの連絡です。どうやら海坊主殿は陰陽師をここに連れてくる模様ですぞ。」

 「そうですか。」


 蛟からの報告を受けた乙姫であるが反応は実に淡白なものであった。


 「これは明らかな反逆行為ですぞ。今すぐ戦力を集めませんと。」

 「蛟さん。」


 乙姫は怒気を含ませ蛟の名を呼ぶ。

 それだけで会議室全体が重圧で震えるようであった。


 「っ!」

 「何度も言わせないでください。私は飽くまでも海に棲む妖の代表に過ぎません。竜宮城でわたくしに自ら仕えない限り主従関係は無いのです。」

 「…申し訳ありません。」


 蛟が恭しく頭を下げるが乙姫は気にした様子も無い。


 (チィ!まだこれだけの力があるか。…まあいい、もうすぐ竜宮城の主は吾輩となる。そうすればこの莫迦な女など。)


 内心で乙姫に悪態をつきつつ蛟はほくそ笑む。

 自らが竜宮城の主、いや【裏世界】だけでなく【表世界】を手中に収め栄華を極める姿を想像しながら。

 その為には小さな問題であろうと見過ごす気は無かった。


 「ですが海坊主殿が陰陽師をここへ連れてきて乙姫様の妨害をする事は明白。今のうちに磯女殿や磯天狗殿といった実力者たちにお声を。」

 「必要ありません。これはわたくしが解決すべき事。竜宮城の防衛隊でどうにかすべき問題です。」

 「…分かりました。ですが念のためあの者にも声を掛けます。」

 「いいでしょう。彼は戦いが趣味のようですし。それと海坊主さんとその陰陽師に大きな怪我はさせぬように。」


 乙姫の命令に蛟は顔をしかめる。

 その様子を感じ取ったか乙姫は蛟に諭すように説明する。


 「海坊主も海の妖、怪我をさせるのは好ましくありません。陰陽師も同じです。同じ裏で生きるものとして無益な殺生は避けるべきです。」

 「…分かりました。ではそのように。」


 そう言って蛟は念話を個人的に従えている妖に繋ぐ。


 《蛟様。》

 《いいか。もうすぐ海坊主と陰陽師らが竜宮城に入る。防衛隊に侵入者は必ず殺せと厳命しろ。あとあの者にも伝えておけ、強者が現れるとな。》

 《承知いたしました。》


 念話が途切れると蛟は内心で笑う。


 (海坊主、貴様が何をしようと運命はもう決まっているのだ!)

 「…。」


 そんな蛟を横目に乙姫はひたすら力を送るのであった。



 「もうすぐ竜宮城です。皆さま準備はよろしいですか?」


 海坊主に掴まり移動すること数十分。

 亀が叶夜たちに確認を取る。


 「ええいつでも大丈夫よ。」

 「問題無いです。」


 八重と睦がそう力強く言うが叶夜からの返事が無い。


 「どうしたの?」

 「あ、いや。こんな事になるんだったら栄介も連れて来るんだったな、って。」

 「仕方ないですよ。まだ傷が完全に癒えてなくて家で椿さんと一緒に居るんですから。」

 「ま、ないものねだりしても仕方がないか。こっちも問題ない。」

 「なんじゃ叶夜、我だけの実力では不満じゃと?」


 玉藻が不満げにそう言うのに対し叶夜は自信なさげに答える。


 「玉藻の実力って言うよりは俺の実力だろ、問題は。」

 「そうでもないんじゃない?私からすれば玉藻前が何時までも三尾のままの方が問題だと思うのだけど。」

 「それこそ我の問題じゃ無かろう!力を引き出すのは叶夜自身なんじゃから!」

 「コホン。では皆さま準備はよろしいのですね。」

 「あっ!す、すみません。」


 睦が謝ると珍しく海坊主が口を開く。


 「ミンナ…ナカイイ。」

 「完全に我が弄られとっただけじゃったと思うんじゃが。」

 「オトヒメ…エガオ…ヘッタ。オデ…エガオ…ミタイ。」

 「…なら気合を入れないとな。」

 「ウン。」

 「では最終確認をさせてもらいます。」


 亀は今回の突入作戦の最終的な確認をしだす。


 「正面から突入したら皆さまは真っ直ぐ進んで下さい。三又に分れていますが中央が近道です。おそらく蛟の手によって防衛隊が出動しているはずですがそこは皆さま個々人で対処を。そして何より竜宮城には被害を出さないよう。」

 「?どうしてだ。」

 「竜宮城は乙姫様の【鉄ノ器】と同化しております。つまり竜宮城を傷つける事は乙姫様を傷つける事になります。」

 「なるほど。」

 「そうなるとその防衛隊にもあまり被害は出したくありませんね。」

 「ええ。…ですが乙姫様を止めるためでしたら。」


 亀の覚悟を決めたような物言いに皆が黙る。


 「…では竜宮城に突入いたしましょう。」


 亀が先導して少し進むと強い光に叶夜たちは包まれる。

 思わず目をつぶる叶夜たちであったが目を開けるとそこはまさにおとぎ話の世界であった。


 「綺麗。」


 思わず八重からもそんな声が漏れる。

 透き通った海に様々な海に棲む生物たちが自由自在に泳いでいる。

 そして少し先には全貌が分からないほど大きな城がそびえていた。


 「あれが竜宮城…。」

 「ええ。今から攻める事となる竜宮城です。」


 亀はそう言うと海坊主の後ろに回る。


 「恐らく攻撃は竜宮城の門を潜った瞬間から始まります。海坊主、あなたは門で出来るだけ暴れてください。その間にこの亀が皆さんをご案内します。」

 「ガンバル。」

 「じゃあ始めようか。おとぎ話もビックリな竜宮城の攻め入りを!」



 竜宮城、正面門前。

 そこには数えきれないほどの鯛やヒラメの顔をした半魚人の【怪機】が武器を持って集結していた。

 中には受けた命令に疑問を感じながらも皆がこれから来るであろう海坊主を待ち構えていた。

 そしてついに門が開かれ海坊主の巨体が見えた瞬間攻撃が始まった。

 もりのような武器を投げつけたり高圧水流を飛ばしたりそれぞれが出来る遠距離の攻撃をした。

 仕留める事は出来なくても弱らせる事は出来るはずと。


 だが。


 それら全ての攻撃が突如凍らされ海坊主に当たる前に落ちてゆく。

 理解が出来ないっといった様子の防衛隊の前に二機の【怪機】と一機の【陰陽機】が竜宮城に降り立つ。

 防衛隊はすぐに二機の【怪機】が自分達より明らかに格上であることを悟る。

 それに【陰陽機】もかなりの実力を持ってる事も感じ取っていた。

 ただ海坊主が陰陽師を連れて来るという情報しか知らなかった者たちは内心慌てふためく。

 三機はそんな防衛隊を突っ切るために突撃してくるのであった。

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