第二十八幕 若人―リバーサル―
―蘆屋道満。
一般的には平安時代に活躍した陰陽師として有名であるが活躍した頃の文献においてその名で活躍していたかは不明である。
江戸時代までの文献では安倍晴明とライバルであるとされており悪としてのイメージも多い。
世に有名な話としては幼少の頃の安倍晴明との呪術勝負が有名であろう。
だが他にも文献はあるが結局のところ蘆屋道満がどのような人間であったかは不明なところが多い。
「カーカッカッカッ!!どうした若いの!」
【怨霊機】を駆り道満は叶夜と八重を押していた。
大量の燃え盛る札が今も二人を襲い掛かっていた。
「叶夜!」
「っ!このぉ!」
それに対抗して叶夜も玉藻のフォローを受けながら狐火で札を迎撃していく。
「破ぁ!!」
それに合わせて八重も札を投げつける。
札は吸い込まれるように【怨霊機】に向かって行くが。
「カーカッカッ!」
十数枚の札を道満は一枚の札が巻き起こす風で吹き飛ばしてしまう。
だがそれも計算の内であった八重は叶夜と共に接近戦を挑む。
一気に距離を詰めて錫杖と刀を振り上げるが。
「カカッ!!温い!!」
二人の攻撃を道満は錫杖で受け止める。
二対一であったが道満は二人を弾き飛ばす。
「クッ!!」
「キャ!」
二人は弾き飛ばされながらも体勢を立て直し道満と対峙する。
道満は追撃する事も無くただ宙に浮かびただ二人を見下ろしていた。
「向こうは余裕綽々って感じだな。」
「そうじゃろうな。まだまだ実力を出し切っておらんじゃろうな。」
「…。」
叶夜と玉藻が会話している横で八重は黙り込んで何かを考え込んでいた。
「陰陽師。何を考えておるか知らんが目の前に集中せい。」
「しているわよ玉藻前。考えているのは【怨霊機】と名乗ったあれの事よ。」
襲い掛かる道満の札を錫杖や刀で迎撃しつつ八重は自分の考えを玉藻と叶夜に伝える。
「アレの正体が何であれ間違いなく【陰陽機】をベースに造られたものよ。つまり弱点も【陰陽機】と同じの筈。」
「そんなのがあるのか?」
「ええ。…本来は外部に漏らす事じゃ無いのだけど。アレの右胸、あそこに力を全身に循環させている機関があるはず。」
「ほう。…じゃがどうする気じゃ?今のところ近づく事も困難じゃが。」
「…薄々でも気づいてるでしょうに。本当に嫌な狐。」
玉藻とその様な会話をしつつも八重はニヤリと笑みを浮かべる。
「話について行けないけど要するに挽回の手はあるんだな。」
「勿論、ただやられてばかりじゃいられないもの。…ただ私は隙を作るので精一杯になるわ。だから攻撃は任せたわよ。」
「了解。いい加減あの笑い声にもイラついてきたからな。あの余裕な顔を歪めてやる!」
「決まりじゃな。じゃったら早速やるかの?」
「カーカッカッカッ!!作戦会議は済んだかのう!年寄りを待たせるものではないぞ!」
そう言いつつ道満は新たな大量の札を追加し二人に投げつける。
まるで火の雨のような燃える大量の札を二人は防いでいく。
「…今!!」
札の枚数が少なくなってきたところで八重はこれまでで一番大量の札を【怨霊機】に投げつける。
「カーカッカッカッ!!芸がないのう若いの!!」
そう言って道満は再び風で札を吹き飛ばす。
だがその中の札の一枚が爆発すると周りの札も連鎖して爆発していく。
「カカッ!手動で爆発させたか!!じゃが儂には届いておらんのう!!」
そう、爆発は【怨霊機】の一歩手前で起こっていたため損傷は受けてはいなかった。
「カーカッ!!焦ったのう若き陰陽師よ!!」
「いいえ?いいタイミングよ。…目くらましにはね!!」
「!!」
道満が八重の言葉に反応するよりも速く、先ほどから吹き飛ばされていた札から鎖が飛び出し【怨霊機】を拘束する。
「カーカッカッカッ!!やるのう小娘!!吹き飛ばされる前提で拘束用の札を撒いておいたか!!…じゃがのう!」
徐々に【怨霊機】力が込められていき一つ、また一つと拘束が外れていく。
「っ!!」
「カーカッカッカッ!!実力を測り損ねたのう!!この程度の拘束など簡単に!!」
「…その隙が重要なのよおじいちゃん!」
「!!」
道満がその言葉の意味を理解するよりもその答えは爆炎の煙を切り裂き文字通り飛んできた。
足から狐火を吹き出しロケットのように太刀を構え突進してきたのは玉藻の【怪機】であった。
「カーカッカッカッ!!」
道満はすぐさま拘束を弾き飛ばし結界を張ろうとするが、叶夜たちの方が速かった。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
そう叫びながら叶夜は【怨霊機】の右胸に太刀を突き立てる。
「ガァ!?」
道満はそう叫ぶと玉藻を振り払う。
玉藻は地面に叩きつけられる前に体勢を立て直し無事に着地する。
「ありがとう玉藻。」
「気にせんでよい。この程度はサービスじゃ。」
「二人とも無事!?」
そこに八重も合流し二機は再び【怨霊機】に向かい合う。
道満は何も喋らず地面に降りて来る。
「カカッ、カーカッカッカッ。…フン!」
道満は【怨霊機】に突き立てられた太刀を力を込めて叩き割り抜き取る。
右胸からはオイルと紫色の霧が漏れ出しており重傷である事が窺える。
「カーカッカッカッ、やるのう若いの。完全に油断したわい。…健闘した褒美に目的を教えてやろう。」
道満はそう言うと玉藻に指を突きつける。
「お前じゃ、目的はお前なんじゃ玉藻前。」
「「!!」」
「…何じゃと?」
叶夜と八重が二人が驚く中、玉藻は不快そうにしながらも道満の言葉の続きを待つ。
「儂を復活させた者はお前を始めとした大妖怪が目的の邪魔になると考えておる。その為に儂は送り込まれたのじゃ。」
「…やはり黒幕がおるみたいじゃな。」
「おっと、これは失敗。じゃがこれで終わりじゃとは考えん方が良いぞ。」
「逃げる気満々のようだけど、まだまだ質問したりないわよこっちは。」
「おい、玉藻前に乗っとる小僧。名は何という。」
「…朧 叶夜。」
八重の言葉を無視して道満は叶夜の名を問う。
動揺する叶夜であったが名乗ると道満は再び笑い出す。
「カーカッカッカッ!!若いが【怪機】を乗りこなす才能があると見た!!才能豊かな若者を見るのはいつの世も良い物よ!!」
道満がそう言うと【怨霊機】の周りに黒い霧のが生まれ包んでいく。
「!待ちなさい!!」
「カーカッカッカッ!!何か言うておるのか?耳が遠くてのう!!」
やがて黒い霧が晴れると道満も【怨霊機】もその姿を消していた。
「カーカッカッカッ!!さらばじゃ若人と玉藻前よ!!また死合うまでその腕を磨いておくといい!!」
そう言い残すと道満の気配は完全に消えてしまった。
こうして長きに渡る戦いは多くの謎を残していたが、叶夜たちの勝利という形で幕を下ろしたのであった。
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