第二十三幕 同棲―エンカウンター―

 「はい…はい…ありがとうございます。」


 ピィとスマホの通話を切る音が聞こえ隣にいた叶夜はスマホを返しに貰いに八重に近づく。


 「で、どうだった?」


 スマホを返して貰いつつ電話の内容を聞く。


 「問題無いって言ってくれたわ。叶夜君のお父さんいい人ね。」


 そう通話の相手は叶夜の父親であり八重が一緒に住むための許可を取り付けていたのであった。


 「それにしても随分短時間で説得したみたいだけど、どんな説得したんだ?」

 「家が火事になって近くに親類がいないから是非泊めて欲しいと言ったら卒業までいていいって言ってくれたわ。」

 「嘘丸出しじゃねぇか。」


 そう突っ込む叶夜に対し八重は気にしていない様子であった。


 「だって言えないでしょ?あなたの家が妖屋敷になっているから陰陽師である私が住み込みます。…なんてね。」

 「そりゃ…そうなんだけどさ。」


 叶夜はチラリと居間の方を見るとそこでは座敷わらしの椿と玉藻が言い争っていた。


 「ちょっと大妖怪。勝手に番組変えないでよこのドラマいいところなんだから。」

 「別にドラマ位いいじゃろ。それより我はバラエティ番組が見たいんじゃ。」

 「大妖怪ならテレビ位少しは譲りなさいよ!」

 「そっちこそ!こっちの言う事を大人しく聞け!」


 とテレビのリモコンを巡って睨み合っている。


 「あれが大妖怪と苦戦させられた座敷わらしだなんて信じたくないんだけど。」

 「…そうね。」


 二人は居間の惨状に目を逸らすと取り敢えずの取り決めを決める。


 「とにかく八重は二階の空き部屋に荷物置いてくれ。細かい当番は休日にでも考えよう。取り敢えず今日の食事は俺が作るよ。」

 「私が押し掛けたんだし食事ぐらい作るわよ。」

 「いいって。その代わり味にには期待するなよ?」

 「…分かった。その間に荷物の整理させて貰うわね。」

 「はいはい。栄介、お前も手伝え。」

 「了解。兄貴。」


 玉藻と椿の争いを眺めていた栄介を呼び出すと叶夜はキッチンに入る。


 「兄貴、今日は何を切ればいいんだ?」

 「玉ねぎをみじん切りに、鶏肉を小さめに切ってくれ後は俺がする。」


 栄介は目の前に出された玉ねぎを自慢の刃でみじん切りにしてしまう。


 「別に文句じゃないけど兄貴ぐらいだぜ?鎌鼬を包丁代わりにしようだなんて。」

 「使える者は何でも使わなくちゃな。鶏肉も頼んだ。」

 「今日も刃が生臭くなっちまうぜ。」


 そう言いつつも栄介は鶏肉を切り揃える。

 叶夜は栄介が切り刻んだ鶏肉と玉ねぎを炒め始める。


 「終わったら向こうの無駄な争いを止めてくれ。どっちかは録画してな。」

 「ああ分かったぜ。あのまま着崩しての取っ組み合いになってくれたら別だけどな。」

 「お前の趣味は分からん。…早く行け。」


 栄介が居間に移動するのを見て叶夜は本格的に調理の準備に入る。

 卵を割りかき混ぜておき白御飯を準備しておく。


 「さて今日はオムライスだ。」



 オムライスが出来た段階で居間に全員集合し食べ始める。

 テレビはどうやら最後まで玉藻が駄々を捏ねたらしく椿が折れたらしくバラエティ番組を流していた。


 「まあまね。」

 「可もなく不可もなくという味。」


 叶夜は八重と椿の厳しめの評価を苦笑いで受けつつ逆にいつもどうりオーバーなリアクションな玉藻を抑えていた。

 食事が終わり片づけを終えると八重が淹れてくれたお茶を飲む。


 「ふ~。ありがとうな。」

 「別にこれくらい。」


 まだ流れているバラエティ番組を聞き流しつつ二人は今後の事について話始める。


 「…学校にはどんな言い訳を?」

 「別に?家庭の事情と言えば意外とどうとにでもなるものよ。」

 「またクラスが騒がしくなりそうだな。」

 「…それに関しては受け入れるしか無いわね。」


 いつか来るであろう未来を想像しながらため息を吐く。


 「兄貴!お湯が沸いたぜ!」


 と風呂の様子を見に行かせた栄介からの報告が入る。

 普段なら玉藻が先に入るが今日はテレビに夢中になっているため後回しにする。

 椿もまだ遠慮があるのか先に入れと目線を送る。

 栄介は風呂が毛だらけになるため一番最後と決まっている。


 「と言う訳だ先に入っていいぞ八重。」

 「家主より先に入る気は無いわよ。」

 「…分かった。後で後悔するなよ。」


 叶夜としては八重に先に入って欲しかったがこのままだと先ほどの玉藻と八重みたになるのは明白だったため先に入る事にする。


 「はぁ~。」


 叶夜は風呂へと入り汚れと共に気持ちが切り替わる感じを味わいながらこれまでの数奇な出会いについて考える。


 「本当に凄い出会いだよな。」


 あの時、足長手長に襲われなければ玉藻と出会う事も無く。

 そして玉藻と出会わなければ八重ともこうして親しくは無かったであろう。


 「まぁそれがいい出会いかどうかはこれから先に分かる事だろうけどな。」


 願わくばこれらの出会いがいい方向に転がる事を祈りつつ叶夜は風呂を出る。

 バスタオルで髪の毛を拭いていると何やらガサガサという音が下から聞こえる。


 「ん?…うおっ!!」


 叶夜が確認してみるとそこには皆の嫌われ者である通称Gが蠢いていた。

 思わず大きな声を出してしまう叶夜はともかく早く髪を乾かそうとドライヤーを手に取る。

 だが突如廊下からドタバタと大きな音が聞こえ始める。


 「叶夜君!!大丈…夫?」


 どうやら先ほどの大声が悲鳴に聞こえたのか八重が青ざめた顔で脱衣所に突入してきた。

 だがここで問題が出て来る。

 現場は脱衣所、叶夜は風呂上り。

 そして彼は腰にタオルを巻くという行為は普段はしていない。

 この事から導かれる状況は言わなくても分かるだろう。


 「…。」

 「…。」


 あまりの状況にお互いが固まってしまい奇妙な状況が続く中、続々と他のメンツもやってくる。


 「やるな兄貴。男女逆とは言えこんな王道を繰り広げるとは。」


 栄介は何故か感心した様子で叶夜に称賛を送る。


 「あほらし。」


 椿は状況に興味が無いのか事態を把握するとテレビを見る為さっさと戻っていく。


 「ほうこれはこれは。叶夜、お主中々のモノを持っておるのう。」


 玉藻はニヤニヤしながら叶夜のある一部を評価している。

 二人は未だに固まったままであったが冷えた為か叶夜がクシャミをすると八重は我に返り脱衣所の扉を壊れんばかりに閉める。


 「…だから言ったろ。後悔するなよって。」


 誰にも聞かせる訳でもなく叶夜は天井を見上げ一人愚痴るのであった。

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