第二十三話 珀月
西方守護獣として崇められる白虎の眷属であり、本来の姿は当然の如く白い虎。
獣人達を外敵から守る霊獣の一体で、現地ではそれなりに敬意を払われる存在だった。
ところが、ある日を境に状況が一変する。
突然、珀月は『天命を得た』と主張し、持っているはずのない未知の異能を振るい、獣人の国に破壊をばら撒いたというのだ。
「確かにそれは異常事態だ。人間や獣人とは違って、霊獣が後天的に天命を授かることはない。能力も役割も先天的に備えて生まれるものだからね」
――というのは、霊獣である
あり得ないはずの異能……風を操り空を駆ける能力を得た珀月は、伝説上の悪神である窮奇の再来を名乗り、西方を出奔。
それに対し、白虎は幾つかの捜索隊を
やがて桃花達は
まさしくこれこそが、
三人は
以上が、シュリンガが語ったここに至るまでの経緯である。
「状況は理解した。けれど、僕と窮奇の間に関係性は見いだせないね。白虎本人ならともかく、その眷属の一人に過ぎないなら面識もないだろう。それとも、まだ肝心なところは話していないのかな?」
「御明察。問題は窮奇が強くなっていた理由だ。奴はこう言っていた。龍族の宝珠の欠片を手に入れた……とね」
それを聞いた瞬間、雪那の表情が変わった。
「……本当かい?」
「あくまで本人の主張だ。私には肯定も否定もできない。だが実際に龍族が現れ、欠片を持つ亡霊までもが出現した。これらが全くの無関係だとは考えにくいだろう」
「だから僕に協力を持ちかけたわけだ。同じ目的を共有しているはずだと踏んで……いい読みだ」
傍から見ている俺にもよく分かった。
雪那は既に自分の中で結論を出している。
今後の方針は決まったも同然だ。
「白龍殿、改めてお願い申し上げる。我らと共に窮奇を追跡してはもらえないか」
「喜んで協力させてもらうよ。僕にとっても渡りに船だ」
予想通り、悩む素振りなど一切ない即答だった。
ここまで判断材料が揃ってしまったら、むしろ断る理由を考える方が難しいくらいだろう。
もちろん俺としても大歓迎だ。
窮奇が雪那の宝珠の欠片を持っていると確定したわけではないが、絶対的な保証と確信がなければ動けないようでは、何かを掴み取ることなど到底できやしない。
万が一にも、雪那が協力を躊躇するようなら、俺の方から尻を蹴飛ば……もとい背中を押してやろうと思っていたくらいだ。
「話は纏まったみたいだな」
上機嫌になったパーラが俺と肩を組もうとする。
喜ばしいのは分かるけれど、ちょっと浮かれ過ぎじゃないだろうか。
「いやぁ、一時はどうなることかと思ったぜ。お嬢と逸れたときなんか、心臓止まるかと思ったもんな」
「そこに同意を求められても困るんだが」
「あはは! そりゃそうだ!」
さり気なく距離を取ろうとしてみるも、やたらと強烈な腕力で強引に引き寄せられてしまう。
「ところで、いつ言おういつ言おうって思い続けて、今の今まで言い出せなかったんだけどさ……」
パーラが俺の耳元に顔を寄せ、深刻そうな口振りで囁きかける。
「白龍のあの格好、なんか卑猥じゃね?」
「……っ! だよな!?」
「あー、よかった! あたしの感覚がおかしいんじゃないよな! むしろ全裸よりやばいまであるって!」
お互いに顔を見合わせながら共感に
まさかこんな理由でパーラと分かりあえるとは思いもしなかった。
霊獣だから気にしないというだけでなく、獣人にとっても自然な格好だと言われていたら、今後の身の振り方を本気で考え直さないといけないところだった。
その一方で、二人がかりで駄目出しされた雪那はいかにも不満そうだ。
「納得できないね。きちんと鱗で覆い隠しているじゃないか。君達の羞恥心の境界線はどこにあるんだい?」
「全くだ。霊獣の身体に見苦しい部分などあるはずがない。釣り合わない衣服を纏うくらいなら、ありのままの姿で振る舞う方が美しいだろう」
「いやお前、それはそれで変態っぽいぞ、シュリンガ」
謎の方向性で雪那に同意したシュリンガに、パーラが呆れ混じりの苦言を投げる。
まぁ雪那の格好についてはともかく、これから先の行動指針が固まったのは間違いない。
桃花達と共に行動し、東へ飛び去った霊獣窮奇を追跡、身柄を確保して宝珠の欠片を奪還する。
状況によっては捕縛ではなく討伐になってしまうかもしれないが、実際の対応はそのときにならなければ分からない。
だがいずれにせよ、俺達にとって大きな前進であることだけは、疑いようもない事実。
予想できないことを心配するより、まずは事態の進展を喜んだ方がいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます