第二十二話 合流
「さて、僕の事情はひとまず置いておくとして。次は桃花君の頼みとやらを聞かせてもらうことにしようか」
「ま、待て待て! その格好のまま続ける気か!?」
何事もなかったかのように話を進められそうになり、思わず口を挟んでしまう。
いくらなんでも全裸で続けられるのは、俺が困る。
桃花は同性かつ子供なので、不思議そうな顔で俺と雪那を交互に見ているだけだったが、俺の方はそういうわけにはいかないのだ。
「服はどうしたんだよ、服は」
「それなら多分、船に置きっぱなしだ。幽霊水軍が乗り込んで来る前に、大急ぎで川に飛び込んだからね。川の中に置き去りにしなかっただけ配慮していたと思うよ」
「えぇ……服を残したまま変化するとかはできないのか?」
「変化の腕前も未熟なんだ。父上や兄上なら、何の問題もなく君の望んだ通りにできるんだけどね……ああ、そうだ」
雪那はふと何かを思いついたような顔をして、俺から数歩距離を取った。
そしておもむろに変化を発動し、裸体のままで龍型の獣人へと姿を変えた。
龍の角と太く長い尾。両手足は先に行くほど龍に近付き、指先には鋭い爪が生えている。
最初に見たときは服を着ていたので気付かなかったが、首から下の胴体の何割かも鱗に覆われていて、最低限隠さなければならない部分も際どく覆い隠されていた。
「これならどうかな? 変化の度合いを適当に調整してみたんだけど」
「う……ま、まぁ……さっきよりは……」
完全に問題ないとは言い切れないが、人外らしさが強まったのもあってか、全裸よりは格段にマシだろう。
「とにかく! 人間の姿のときは服を着てくれ! 特に他の人間がいるときは!」
「人間社会の常識にはまだ疎いんだ。人間の君がそう言うのなら、忠告には従うよ。人間の姿で衣服を脱ぐのは君の前だけにしよう」
「そうそ……って、おい!?」
何でそうなる! まるで俺が要求したみたいじゃないか!
からかわれた……というわけではなく、単に俺が裸を止めろと言っている理由を理解しきれていないだけのようだ。
訂正しておきたいのは山々だが、詳しい理由を問い質されたらどうすれば。
そもそも
だが一人で苦悶する俺を置き去りに、状況はどんどん先に進んでいく。
「……あっ! この声!」
突然、桃花が耳をピンと立てて顔を上げる。
それからまもなく、狐火の灯りの範囲よりも外で茂みが踏み荒らされる音がして、大柄な人影が勢いよく飛び出してきた。
「お嬢!」
「パーラ!」
人影の正体は獣人のパーラだった。
桃花は跳ねるようにしてパーラにしがみつき、その勢いでくるくると何度か回ってから、パーラの力強い腕に高々と持ち上げられた。
「やっぱりここにいたか! 心配したんだぞ!」
「ごめんなさい! でもよかった! パーラも怪我はない?」
「当たり前だ! あんな奴らにやられるもんか!」
満面の笑みで再会を喜ぶ桃花とパーラ。
無事に保護者と引き合わせられて良かったという安堵と、肝心な用件を聞きそびれてしまったという困惑をまとめて飲み込んで、ひとまず何も言わずに二人を見守ることにする。
すると、そこにもう一人の獣人の女――有角のシュリンガが現れて、俺と雪那に深々と一礼した。
「桃花様を保護していただいたこと、心から感謝する。そして僭越ながら、そちらの目的は『宝珠の欠片』を回収することであるとお見受けした」
「……あまり公言したくはないのだけれどね」
苦々しく肯定する雪那。
理由は本人が説明していた通り、宝珠を砕かれたこと自体を恥と感じているからだろう。
「その上で、我々の旅の目的についてお伝えさせていただきたい」
「目的? そういえば、何か僕に頼みたいことがあるらしいじゃないか。それとも関係があるのかな?」
シュリンガに問い返しながら、雪那は横目で俺を見やった。
頼みたいことがあると言っていた、という点に同意を求めているようだったので、無言の頷きで返答する。
「我々は霊獣
「窮奇だって!?」
大声を上げたのは、雪那ではなく俺の方だった。
「
これについては前に雪那から丁寧に説明されたばかりだ。
記憶違いとは思えないし、雪那が嘘を吐いていた可能性はそれ以上にない。
「ああ、すまない。言葉が足りなかった。厳密には『窮奇を名乗る霊獣』を捜索しているんだ。もちろん伝説に語られる窮奇本人ではあり得ない……全くの別人だ」
自称窮奇。それなら納得だ。神話上の存在だろうと、勝手に名前を名乗る分には誰でもできる。
残る問題は雪那を頼る理由だが、それについては本人の方が問い質してくれた。
「僕に頼みたいことも、窮奇とやらに絡むものだと考えていいのかな? 申し訳ないが、こちらにも先を急ぐ理由があるんだ。僕の目的に関わりがないのなら、協力はしかねるのだけれど……そういうわけではなさそうだね。聞かせてもらおうか」
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