プログラム

愛田かな

始まり

燦燦と照り付ける太陽はまぶしくて、昨日行った美容院でトリートメントしてもらったと言っていた君の真っ黒な髪が艶々と光を反射していたことを今でも覚えている。


午前7時45分。

気分の高ぶりのせいか始業時間の45分前に学校についてしまったようだ。

各教室せいぜい一人登校している程度の校内はどこか肌寒くて、だけれどもそれすらもぼくをさらに高ぶらせた。

ほかの教室からカリカリとシャーペンと机がこすれる音がする。こんなに早くから登校するのは初めての体験だが皆この時間に登校しては勉強しているのか、それならぼくもやってみるとするか。

教室の一番左手かつ後ろから2番目のぼくの特等席、左手に斜めがけしたスポーツブランドのリュックサックの中から新品同様の数学の参考書をだして百円均一で買いそろえた筆記具を取り出した。

26ページ。

今日の日付だ。そんな少しばかりの偶然にそぐわないほどの歓喜をしながらも問1に取り掛かる。

「んー--、わからん!!!」

そりゃそうだろう、こんな状態で集中できるはずもない。

だして数分もたたないシャーペンをぶっきらぼうに机の上になげだして、席を立ちあがったとき教室の前方扉から笑い声がした。

「そんな一瞬で問題文読めたの?」

振り返らずともわかる。あの暖かい笑い声は、彼女のものだってことが。


特別彼を好きなわけではないよ。だけど昨日は美容室に行って、眉毛を整えて、少し高いパックだってして夜の9時には眠りについたんだ。

朝は5時に起きたんだけど、少し丁寧にスクールメイクをしたせいでいつもの3倍の時間がかかって、結局いつもと変わらない電車に乗ったんだよね。

さりげなく香らせるために着けたボディミストはきつくないかな。放課後までに髪の毛跳ねたりしないよね。ヘアアイロン持ってくればよかったかな、学校でだれか持ってないか聞いてみようっと。

そんなことつらつらと考えていたらいつも長く揺られているように感じる時間も一瞬の出来事のようだった。開かれた左側の扉から差し込まれる太陽の光はまるで、私を早くおいでと優しくいざなうようだった。

いつもつけているイヤホンを今日は付けずに通学路を眺める。いつもより色鮮やかに見える葉っぱが私を迎えてくれているのかな。

下駄箱にしっかりと靴をそろえて5組の教室に向かうといういつもの行動に加えて、4組の下駄箱の前を通るときにさりげなく彼がいることを確認してしまった。

ちょっと教室に行く前にトイレに行こう。

トイレの鏡の前で10分ほど身だしなみを整えて、ようやく満足したように教室へ向かおうとした。

挨拶する気なんてさらさらなかったんだけど君が面白くて思わず笑っちゃったよ。


今日は君との初めての日だから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プログラム 愛田かな @aida_kana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ