第10話 気のせいかも
「んー、気持ちいいっ」
「ふふ」
ダンジョンから出られないと言うことで、とりあえず近場にあった川で水浴びすることにした。一人でいるなら最悪あれだけど、ミオちゃんがおるからね。
(くんくん...汗臭いかな?っと、そーいやアイテムボックスにアレがあるんだった)
ボンッと宙に四角の箱が現れる。そこへ手を突っ込み取り出したのは、そう、石鹸と体を洗う用のピンクのスポンジ、あと体拭く為のタオルとシャンプー!
(...石鹸はあと数日はもちそうだね。でもシャンプーがそろそろ心許ないな...早いとこどうにかして稼がないと)
と、スポンジを泡立て体を洗い始めた時、視線に気がつく。
ん?なんだろ、ミオちゃん。もしかして体洗いたいのかな。...いや、幽霊って体洗えるのか?
「ミオちゃんも一緒に水浴びする?」
「え...あ」
あたふたするミオちゃん。あ、私まずいこと言ったかな。冷静に考えて幽霊だもんね。水浴びしたくてもできないよね。
...でもじゃあなんでこっち凝視してたんだ?
「ご、ごめん、ミオちゃん。変なこと言って」
「ううん。こっちこそごめんなさい...」
でも不思議だよね。私は彼女に触れられるのに。...まてよ、もしかして?
ふとある可能性に思い当たり、私はミオちゃんの手に触れた。顔を赤くするミオちゃん。そりゃ急に触れられたら恥ずかしくもなるよね、ごめん。
「ど、どしたの、アカリ...?」
「いやもしかして私が触れて干渉してる間って、ミオちゃんもモノに触れられるのかなって思って...そのまま川に足つけてみて」
「...わかった」
すると、川の流れがミオちゃんの脚にあたり水がはねる。
「...あ、つめたい」
「おおー!やっぱり!」
驚くミオちゃん。どういうわけか私が彼女に触れている間は実体化とまではいかないけれど、物に干渉できるみたいだ。
ぽーっと何かを考えているようなミオちゃん。しかし今の私はそれどころではない。
「ほら、ミオちゃん!シャンプーと石鹸と、えっと」
がさごそとアイテムボックスを探り新品の青いスポンジとタオルを引っ張り出す。
「はい、これミオちゃんのね!さあ、体を洗うといいよ!手は離せないから洗いづらいと思うけど...なんまらさっぱりするよ!」
「あ、ありがとう。それじゃあ遠慮なく、使わせてもらうね」
「うんうん!」
ミオちゃん、幽霊になってどのくらい経つのかな。少しでも喜んでくれたら嬉しいな。川での水浴びだけど、今度はお風呂...温泉に二人でのんびり入ってみたいな。
私はお風呂好きだけどミオちゃんはどうなんだろう...。でも下手に聞けないな。この話題は。
するりと着物を脱ぎあらわになる美肌。
(おおう、ホントに綺麗な肌...あ、胸元にホクロ)
「? どうかした?」
視線に気が付き恥ずかしそうに身じろぐミオちゃん。やば、私人の体をじろじろと...変態じゃん!
「ごめんっ!ミオちゃん、お肌綺麗だなって思ってさ...!」
「へ!? あっ、あ...ありがとう」
「あ...いえ、どういたしましてっ」
何が!?焦って変な返しをしてしまった。あ、そだ。
私は変な事になってしまった空気を誤魔化すように、話題を逸らす。
「えっと、ミオちゃんは...好きな食べ物ある?」
「食べ物?」
「うん。私はね、クレープ好きなんよ」
「クレープ...」
「生クリームたーっくさんで、苺が入ってるのが大好き!ほっぺがとろけるくらい甘くて、でも苺の酸味がサッパリしてて相性抜群!」
「ふふっ」
「あ、ごめん...一人で盛り上がっちゃって」
「ううん。幸せそうな顔...本当にクレープが好きなんだね、アカリは」
「うん!えへへ...あ、背中洗うよ〜」
「あ、ありがとう」
そうして水浴びを終え、今日は休もうかと寝床を探した。ちょうど良さげな大樹の窪みで夜を明かすことに。
不思議なことに、ダンジョンなのにここには空もあって太陽もあり星もある。月はないけれど。
さて、寝袋をアイテムボックスから引きずり出してっと。
ズルズルとピンクの寝袋を出し、セッティングする。睡眠は大事だ。寝不足だと頭が回らなくなるし、不注意からの怪我もしたりする。
だから私は睡眠の質と量はしっかり管理している。
寝過ぎもダメだ。寝過ぎたらとんでもなく頭が痛くなる。あれってなんなんだろうね。
「アカリ」
「ん?」
「その...食事は大丈夫?お腹すいてない?」
「あ、うん...アイテムボックスには多少の食料はあるけど、節約して食べたほうが良いかなって。...って、あ、ごめん。ミオちゃんお腹すいたよね」
「ううん、あたしは霊体だからお腹空かないし大丈夫だよ。そっか、なるほど...」
あ、霊体だから。なるほど。そういうところは便利...って、それ以上にデメリットもあるんだよね。私、ほんと無神経だな。
「あのね、アカリ。明日から食料採取もしていこう。ダンジョンの奥に行くことになるけど、食べられそうなものあるんだ。アカリの鑑定能力で確かめなきゃ本当に食べられるかはわからないんだけど...」
「おお!まじで!」
「ただ、このダンジョン...先に進むと結構強いモンスターの霊体がいたりするの。私が先導するけど、ちょっと危険なんだよね」
「なるほど...」
ダンジョンの入口付近ではまだ死にたての魂がいるだけで危険性は無いに等しい。けれど、奥に進めば転生を待つモンスターの姿に成った個体が多くいる。
「じゃあ、剣術だね」
「!」
「私が剣術を習って強くなれば、危険なモンスターに出会っても上手くすれば戦ったり、逃げたり出来るでしょ?だからある程度練習してから奥に行こうよ!アイテムボックスにはあと普通に消費して二日分くらいの食料はある...どうかな?」
「そうね。確かに...そのほうがいいかもしれない。Bクラスのモンスターも出現する可能性を考えると、自衛は出来たほうがいい。わかった、それでいこうアカリ!」
「うん!」
なんか不穏なワード聞こえなかったか?と思ったけど、忘れることにした。さーて、寝よーっ。
(Bクラスとか戦ったら死んじゃうよー。あはははー)
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