第11話 暴君



――そして私はついに剣術訓練にはいった。先ずは構えを教えて貰い刀を振る。


本来、バトルジョブであれば剣技スキルを使用し、技を出す。その際ゲームシステムの方で動きに補正や補助がかかり、剣の心得のない素人でもちゃんと技を撃てるようになっている。


(けど...剣技スキルの無い私はその恩恵を受けられない)


だから、体に覚えさせる。動きを何度も反復し、実戦で使えるように。...今はたったの一振りすらまともに撃てないんだけどね。本当に戦えるようになるのかな?といった不安がつき纏う。


(...でもさ)


考えても仕方ないしやるしかない。やらなきゃミノル達に殺されるだけだ。


(死ぬのは、怖い...!)


それに、こういうコツコツ積み重ねるの好きだし苦じゃない。だからこそ商人でユニークスキルを獲得するまでに至ったんだからさ。


――私は胸の奥へ恐怖を圧し殺す。


うん...きっとできる。今の私には...ミオちゃんもいるんだから!


「ほっ!」



――ブンッ!


「んー、こんな感じ?ミオちゃん」


「良い感じだよ、アカリ。でももう少し、腕を振るときに体全体の動きを意識してみて...刀は腕だけで振らないの」


「うん、わかった!」


「頑張るぞーっ...ほっ!!」



――ブンッ!






◇◆◇◆◇◆◇






〜エムル街、酒場〜



椅子に腰掛けた男達が酒を飲み、談笑する。彼らはこの街一のクラン。【メテオ】の面々だ。


その中の一人、リーダーであるゴッド・ミノルがぼやく。


「んー?こりゃどーいうことだ?」


宙に出現させたメッセージボックス。他プレイヤーとの連絡手段であり、メッセージのやり取りや通話も可能。全プレイヤーに備わっている機能である。


「なーんでアカリちゃんに通話繋がらねえのかなあ?」


「...繋がらないということは、もしかしてミノルさんブラックリストにいれられたんすかね?」


ゆらゆらとジョッキを揺らすミノル。天井を眺めながらニヤニヤと笑う。


「あー、やっぱそう思う?通話が繋がらねえパターンは相手がダンジョン内にいるか、こちらがブラックリストにいれられているかの二つ。...あの女がダンジョンになんか行けるわけねえからな」


ミノルは考える。腹に蹴り一つじゃダメだったか、と。やはりやるなら徹底的に追い込まなければ、恐怖を芯に擦り込まなければこうしてナメられる。ならば、徹底的に...自分の恐ろしさをアカリに植え付けよう。


「俺を怒らせるとどうなるか...思い知らせてやる」


クランメンバーの男がその言葉に反応する。


「えっ、ミノルさんアカリちゃんやるんすか!?」


「ああ。後悔させてやろうぜえ?一人一発やってイイぜ」


「「おおーっ」」「あは、楽しみだなあ!」「おおう!さっすがミノルさんだぜえ!」


【メテオ】は総勢10名の小クランである。しかし一人ひとりのレベルが高く、この辺では敵無しと謳われていた。


リーダーのミノルはバトルジョブの【戦士】であり、その戦闘力の高さは、この街では誰も太刀打ちでない程だった。


「んじゃ、狩りスタート。一番最初に捕まえた奴には賞金300G進呈〜!」


「「「「おおおおー!!!」」」」


沸き上がるクランメンバー。そこに一人の男が歩み寄る。彼はこの酒場のマスターで、【メテオ】が入り浸りそのせいで他の客が寄り付かなくなってしまい困り果てていた。更には――


「あ、あの...ミノルさん、お代を頂けないでしょうか」


盛り上がる場が一瞬にして静まり返った。それどころか刺すような視線に殺気すら感じた。


「おいおい、心配すんなよ。ちゃんといつか返してやるからよ...今日もつけといてくれよ、な?」


ぽんぽんとマスターの肩をたたくミノル。いつもはこれで引き下がる彼であったが、つけばかりで食材酒の仕入れがもう出来ない状況にまで追い込まれ、どうにか代金を支払って貰わねばと懇願した。


「すみません、もう...無理です。代金をいただかねば、店が潰れてしまう...お願いです、今日の分だけでもいいので、はら...」


ジッとマスターの瞳を睨みつけ殺気を飛ばすミノル。そして肩に乗せていた手にゆっくりと力を入れ始めた。


「...いっ!?ぐ、あっ」


「なあ、マスターさんよ。誰にんなナメた口きいてんだ?」


メキメキと歪な音が肩から鳴る。


「ぎゃあああっ、むぐ、ぅ」


口をもう片方の手で塞がれた。


「うるせぇな。...なあ、マスターさんよ。お前、さっき店が潰れちまうとか言ってたよな?だったらそんな心配しなくても良いようにしてやるよ。...ここが消えても酒場なんざ他にもあるしな?」


椅子に拘束されたマスター。動けないのをしっかりと確認し、ミノルはクランメンバーに店を出ろと命令した。


ぞろぞろと外へ出てくる男達。通行人は彼らの姿をみると足早に散った。


「よーし、んじゃまぁ...派手にいくか」


ミノルは背負っていた《鋼の剣》を抜いた。そして、【戦士】のバトルスキル《紫流星》を唱えた。


――剣が紫の光を帯びる。


ミノルが天高く跳躍。その光り輝く剣を酒場に――振り下ろした。


――ボウッッ!!


すると炎のような膨れ上がった魔力が巨大な剣を型取り、そのまま店を両断した。


――ドゴオォンンンッッ!!!


途轍もない力が店を貫通し大地を叩く。激しい地鳴りと共に店が崩壊し始めた。


メテオの面々が手を叩き笑い合う。まるで花火でも見ているかのように指差し、嗤う。


「潰れちまったならもう潰れる心配しなくてもいいよなァ?お前の悩みの種ごと消し飛ばしてやったぜ。感謝しな!」



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