第7話 隠しダンジョンへ
「ほ、本当にここなの?」
「ええ、そうよ」
夜の湖。月を映した水面がキラキラと光を反射している。
街からかなり離れた山の中。ここまで来るのに命を何度落としかけたかわからない...なんてことはなく、ミオちゃんが幽霊の体を活かして先導してくれたお陰でモンスターの一匹も出くわさず目的地まで辿り着けた。
この手で別の街へ行ってミノルらから逃げ切るなんて事も考えたけど、無一文で別の街へ行くというのもそれはそれで危険だ。
「もしかしてこの中...泳ぐ感じ?」
「うん。大丈夫、今は月の魔力が満ちているから、入っても濡れたり溺れたりしないわ」
「そうなんだ...もしかしてこれ、隠しダンジョンって奴?」
「そうね。ただし、ここのダンジョンはバトルジョブのプレイヤーには意味の無い場所となっている」
「え、そうなの?」
「うん。この湖の底にある扉の先は、死者の都と呼ばれる死したモンスターたちの楽園。そこにいるモンスターは霊体ばかりなの」
「...霊体の、モンスター...」
「そう。霊体のモンスターは通常、触るどころか視認する事もできない。あなたの持つ【審美眼】のような力がない限りね。というか、そもそも隠しダンジョンだから、普通は入口すら見つけられないけど...バトルジョブのプレイヤーには無意味って言ったのはそういう意味」
「なるほど...でも、なんで霊体ばっかりなの?」
「ここが魂の集まる場所だから。リポップ待ちのモンスターや死した者たちの魂がここへ戻るようプログラムされているの」
「へえ...」
なるほど...倒されたモンスターの魂がここに集積され、復活の時を待っているのか。と、ここでひとつの疑問が浮かんだ。
「ていうかさ...ミオちゃんはどうしてそんな事を知っているの?」
思えば刀を手に入れミオちゃんと出会ってから、彼女自身の話を聞いたことが無い。彼女との会話が楽しくて聞く間も無かったというのもあるんだけど。
けど、ミオちゃんはどうして幽霊になったんだろう...はっ、幽霊がいるならこの世界で死んだら普通に死ぬんじゃん!?真理に至ってしまった...これは尚更死にたくない。
「実は...あたしは、普通のプレイヤーでは無いの」
「えーと...どゆこと?」
「私はデバッカーとしてこの世界に生まれた。そしてゲームマスターへバグや不具合を報告する仕事をしていたの。あなたにあげた刀はその時ので、ゲームマスターに貰ったデバッカー専用武器なの」
デバッカー専用武器!?非売品...そら高いわけだよ。すげえ。っていうか...
「え、デバッカーとしてこの世界に生まれたって...」
「うん。私には現実の肉体が無い。この電脳世界とも呼べるゲーム内で生きるAIよ」
AI。信じられない。こんなに自然に会話ができて見た目も人そのものなのに...いや、確かに美しさでいえば人をこえてエルフに近い妖艶さを感じさせる。はだけた着物のせいかもしれんが。
驚く私にミオちゃんは話を続ける。
「そう、だからシステムやイベント、普通のプレイヤーが知らない事も知っているの。...まあ担当ではない商人とかに関してはあまり知らないこともあるけどね、ふふ」
「そーなんだ。...でも幽霊になった理由は?」
「それは...まだ秘密」
人差し指を口元に立て、にこりと微笑む。まあ、言いたくないこともあるでしょう。私だって引きこもりばれとーないし。
「秘密!うん、了解!」
そしてまた湖へと話題を戻す。
「さて、行きますか。ミオちゃん...本当にこれ、溺れないんだよね」
「溺れないよ。浮力のあるちょっとした無重力空間みたいな感じ」
「そ、そっか」
おそるおそる脚を入れる。
「あ、これ、水じゃない!」
「水面にみえるのは月の落とした魔力残影。本来あるはずの水は日中に引いて、かわりにこうして魔力溜りが作られるの」
「そーなんだ。よっ、と」
溺れる心配がないとわかればこっちのもん。するりと滑り落ちるように湖の中へ。
そこには陸からは想像もつかないような、世界が広がっていた。
空の星を映し込んだかのような空間。散らばる魔力残滓がふよふよと流れ、全てが幻想的に輝いていた。
「わあ」
「ふふっ。綺麗でしょ」
「うん!」
「これが見られただけでも来たかいがあるね!」
「それは良かった。でもほら、目的地が見えてきたわよ」
ミオちゃんの指差す方へ目をやると、そこには青くぼんやり光る大きな扉が地底にあった。
「あれがダンジョン。【黄泉の国】よ」
「ダンジョン...!」
「初ダンジョン、なのよね?」
「うん、緊張するね!」
「大丈夫。あたしがついてるから」
「うん、ありがとう」
そうして私達は青い扉を二人で開いた。
ていうか【黄泉の国】ってダンジョン名、不吉ー!
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