第5話 無理
「ありました!ミオちゃん!」
「ね。...って、ミオちゃん?」
「あ、いきなり呼び捨てはちょっと抵抗が...」
「そう。わかったわ」
いや急にミオとは呼べないでしょ。まだ会ったばかりだし。ちょっと呼び捨ては難易度高いよ。
なんかこの子、落ち着いててなまら大人っぽいし。あと容姿端麗でスタイルも良くて、美人さんだしさ。
所詮ゲームでキャラクリが上手いだけでしょと言われればそうなのかもしれない。けれど私にとって...いや、今このゲーム内で生きるプレイヤーにとってこの世界は最早現実世界と遜色ない。
だから、リアルがあろうがこれがミオ。ミオちゃんなんだ。うん、要するに呼び捨ては怖い!すまんな、チキンで!
「ところでアカリ」
「はい」
「この《忍び足》というスキルって...何?」
「あー、それね結構便利なんだよー。足音立てずにこっそり人に近づいて会話を聞けるんだ。それで成功した商売もいっぱいある!」
「そ、そう。要するに盗み聞きね...あまり褒められた事ではないわね」
その言葉に「?」が浮かぶ。
「でもスキルとして実装されてるんだから、良いんじゃないのかな。そういう物だと思ってましたよ」
「あ、そっか。...確かに。あるのだから使うわよね。頭ごなしに否定してごめんなさい...」
しゅんとするミオちゃん。目尻が上がっていて何となく気の強そうなイメージだったから、その弱気な表情がギャップによりとんでもなく可愛く見えた。
あ、あかん、たまらん!
何かを抑えきれず私はミオちゃんに
「...アカリ、気を悪くしたかし、らっ!?」
がばっ、と抱きついてしまった。
「んーん、大丈夫だよ!」
「なぜ抱きつくの...?」
「そりゃあ、ミオちゃんがめんこいからですよ」
「...めんこい?」
「あー、可愛いってことー」
「...か、可愛い...」
またまた頬を赤らめるミオちゃん。そそるぜー。すりすりすり、と頬ずりをする私にされるがままのミオちゃん。
「ん、てか...話戻るけど、バトルステータスがあっても意味ないよねえ?だってバトルステータスを伸ばすにはモンスターを倒した経験値が必要でしょ?私、多分この近辺ででるGランクの低レベルモンスターにも一撃で殺されちゃうよ」
トロンとした表情のミオちゃんが、ハッと我に返る。
「そ、そうね。...というか、だとしたら商人ってどうやって街を渡り歩くのかしら。他の街に行かないと商売できないわよね?」
「んー、他の街に行くときはクランのメンバーに護衛してもらうか、街の傭兵を派遣してくれるところでお金で雇うかだね。まあ、私はビビリで死ぬ可能性のある街の外には出なかったから、実際のところよくわからないけどね。あはは」
「なるほど...って、え?あなたこの街の中で...一歩も外へ出ずに商人を81まで上げたの?」
「うん。まあ有り余る時間に物言わせた結果ですけど...」
ここできがつく。あれ、私ゲーム内でもひきこもりしてね?と。
まあ、食う風呂トイレ、それ以外はずっとこの世界に入り浸って、商売プレイしまくってたから。...今ではモンスターをおそれ街を行き交うプレイヤーも減り商人の稼ぎも減ってしまったけど。
クランのバトルジョブの人々は最近はもうゴミしか持ってこないし。でもミオちゃん連れてきたのは素晴らしい成果です、はい。
そんなわけで私みたいに街にこもりっぱなしでレベルを限界値まであげる事はもう不可能な気がする。商人は。
「そうなのね...」
あれ、また引かれてる!?くっ、話題をそらさねば。
「えっと、だからバトルステータスあってもレベルがあげられなかったら意味ないですよね...あははっ」
「え?あ、いえ、意味はあるわよ」
「?」
「私、あなたに魔力を供給できるから」
「マジで!?」
魔力は戦闘において効果を発揮する。魔法使いのジョブはこれを使用し魔法を撃てる。
対して魔法使いでない者は魔法を扱えないのだからこの魔力と言うものは意味が無いのでは?と思われがちだが、そうでもなくむしろ戦闘においてかなり重要。
魔力量により、ステータスの魔法攻撃力である魔攻、魔法防御力である魔防に補正がかかるのだ。
「あら、その反応からすると知っているみたいね。そう、魔力があれば攻撃力と防御力も魔力補正で上昇するわ。ステータス画面では変化ないからわからないけどね。でも、極端な話、桁違いに魔力があればそれだけで攻撃を防いだりできる...!」
「な、なんですとっ...!?じゃあ...つ、つまり、私は雑魚モンスターなら狩れるくらいには...いけると!?」
頷くミオちゃん。
「無理ね!!」
「!? 無理なのっ!?」
なんでやねんっっ!!できる流れだろーそこは!!なんだったんだここまでの話はっっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます