私はただの怪物です。

Noa

目が覚めた場所で生まれ変わる

目が覚めた時、私はどこかのスーパーの売り場にいた。

周りは騒然としている。

辺りを見渡すと、他の客たちは青ざめた様子で逃げ惑っていた。


「ばけものだ!」

「いやー!こっち来ないでぇー!!」

「だ、誰か助けてくれー!」


そんな声が、至る所から聞こえる。


すると後ろから、フッと大きな影が覆いかぶさってきて、咄嗟にそれを避けた。


「グルルルル…」

「っ?!」


まるで、のっぺらぼうのように潰れた顔。

しかし、ギザギザの歯が光る大きな口があった。

とにかく、今は逃げよう!そう思うと同時に、私は駆けだしていた。

普通なら恐怖で足が動かないとか、腰が抜けたとかあるかもしれない。だが私の足は止まることを知らないかのように走り続けていた。


走っていると、市場などでよく見る『ターレットトラック』という運搬車の荷台部分が無くなって持ち手が円形のものではなくT字になった不思議な乗り物が点々と乗り捨てられていた。

(あれに乗って逃げよう!)

運転の仕方も最高速度がいくつ出るのかもわからないのに、なぜか体はターレのような車に乗り込んでいた。


「グルルルル…!」


逃げようとしたところに別の車体に乗った男が突進してきた。

車体は倒れ、体が放り出される。

上半身を起こすと、ぶつかってきた男は怪物の大きな爪で引き裂かれていた。

怪物は四つん這いで迫ってくる。

そして、逃げようとした瞬間、私の頭の右側が大きく斜めに払われ、頭蓋骨が吹き飛ばされた。

声は出ない。

痛みはある。

なのに、動くことは出来ない。

少しずつ薄れゆく意識の中、怪物が近づいてきたことだけが分かる。

周りの騒音や悲鳴は、何も聞こえなかった。



気が付くと、私は真っ暗な、しかし少し赤黒い壁に囲まれていた。

殴れば簡単に壊れそうなほど脆そうな壁。

力は、入る。

私は、思いっきり壁を殴った。


眩しい外。

目がチカチカする。

外に出てみると、目の前には先ほどの怪物が待っていた。


「おはよう、我が娘よ」

「…」


不思議と恐怖は感じなかった。

そして、理解した。

後ろを見ると、自分がいた場所が"卵の中"だったのだとわかる。

自分は、この怪物の卵から生まれた。

同じ生き物になった。

だから、私はコイツの娘になってしまったのだと。

しかし、不快感は感じない。

既に受け入れてしまっているのだ。


「…、お腹、空いた」

「では、食事にしようか」


そう言って怪物―父さん―は私に立ってみるように命じてくる。

立ち上がってみると、自分がいつの間にか知らない服を着ていることに気が付いた。

白いシャツに水色の薄い上着、黒っぽいジーンズに黒の靴下と靴。

父さんに殺された時の恰好だった。


「父さん、私は、人間を食べるの?」

「そうだね、けれど、食べなくても生きられるよ」

「そっか」


周りは依然と騒がしい。

ここは、死んだ時にいたスーパーだ。


「あぁ、丁度あそこに人間が何人かいるね。襲ってみるかい?」

「いいの?」

「いいよ。ただし、無茶は良くないよ?」


こくりと頷き、辺りを窺う。

老若男女様々な人間が怯えながら隠れたり逃げたりしていた。

その内の1人が父さんに向かって棒のようなものを振りかざしてきた。

それが、すごく遅く見える。

私は向かってきた男の首を掴んだ。


「かはっ?!」

「父さんに、手を出さないで」


ギロリと睨みつけると、男は絶望の表情を浮かべながら苦しそうにしている。

男が元居た場所に投げ飛ばすと、そこにいた家族らしき人間たちが駆け寄っていく。

人間たちは私たちを睨みつける。

けれど、先に手を出してきたのは向こうだ。

私は威圧するように睨みつけた。


「あまり人間を威圧すると、私のように戻れなくなってしまうよ?」

「でも、父さん、攻撃されそうだった。あっちが悪い」


父さんは私の肩に手を置く。

表情は変わってないのに、少し哀しそうなのが分かる。

人間のままだったら、分からなかったのかもしれない。

あの時、父さんは何故私を選んだのだろう。

何故、娘にしたんだろう。

分からない。

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私はただの怪物です。 Noa @Noa-0305

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