第22話


「え、えっ、とぉ……」


 いつものように風呂から上がり、ゆっくりと髪を乾かしてもらっていたら、メイドさんが俺の前に膝をつきゆっくりと口を開いた。そうしてその口からとんでもないことを聞かされた。「ジークフリート様がいらっしゃいます」ってな。

 そうしてメイドさんたちは俺をソファーに残していなくなってしまった。俺はどうしていいのか分からずソファーに座ってオロオロするだけだ。逃げらるのなら逃げたいし、実家であるウィンス伯爵家でしたように、バリケードを作って扉を開けられないようにしてしまいたい。だが、そんなことができるはずもなく、俺は逃げ出したい気持を抱えたままソファーに座っていたのだった。


「はいるぞ」


 軽いノックの音がして、その後にジーク様の声がした。俺は返事もせずにギュッと目をつぶった。扉が動く音がして、ジーク様がゆっくりとこちらに近づいて来るのが分かる。俺のすぐ側にジーク様の気配がした。


「セレスティン、精通したと聞いた」


 うわぁぁぁ、やっぱりどストレートに言ってきたよ。そりゃあ待ちに待った事でしょうからね。いつ聞かされたんだろう?今日学園ではいつも通りの鉄仮面だったけど。でも仕事中だからそんなこと表情には出さないんだろうな。いや、一日中そんなこと考えながら護衛していたとしたら、それはそれで怖いけどな。


「恥ずかしいことでは無い。体が大人に近づいたのだ。むしろ喜ばしいことだ」


 俺の頬にジーク様の手が触れた。俺はまだ目を開けられなくて、ジーク様の手が俺の頬を優しく撫でるのを息を詰めてただ受け入れていた。


「セレスティン、目を開けて?」


 俺がいつまでと目をつぶったままだから、ジーク様がそう言って俺の目元に指を当ててきた。おそらく親指で、手のひらは頬を包み込んでいる。

 ゆっくりと瞼を開ければ、そこには端正な顔立ちのジーク様がいて、こりゃ下手すりゃキスでもされそうな雰囲気だ。だがしかし、俺が成人するまで性的な接触は禁止だ。だからそんな雰囲気だとしても、その手のお触りは禁止なのだ。キスしちゃダメ。


「……ぅう」


 俺は低い唸り声のような声を出して、そうしてようやく目を開けたわけだ。だがしかし、雰囲気に飲まれそうなのは確かだ。夜に婚約者と二人っきりなんて、もう、そういう雰囲気にしかならないだろう、普通は!


「閨教育だから、怖がらないで欲しい」

「……閨教育……」


 ついに来てしまった。

 ついにこの時が来てしまった。性的なお触りでは無いけれど、お触り解禁だ。いやらしい気持ちではなく、教育だ。俺が大人の階段を上がるために必要なことなのだ。


「あちらに行こう」


 ジーク様が俺の手を取りベッドへと誘う。雰囲気はあくまでも柔らかい。俺の事をベッドに座らせると、ジーク様は俺の前に膝まづいた。


「緊張している?」

「…………」


 いや、緊張してるんじゃなくて、怖いから。ジーク様のその目が怖いから。なんかキラキラしてる?例えるなら待てをしているワンコみたいな目だよ?これからのことに期待しちゃっているよね?してるよね?


「前をくつろげるよ」


 そう言ってジーク様の手が俺のパジャマのズボンにかかった。ゆっくりと下ろされるパジャマのズボン。俺の尻の下を通る時はジーク様の手が優しく持ち上げるような動きをした。すげぇな、座ったままで俺の片尻を上げられるんだ。騎士の筋肉すげぇな。なんて関心している場合では無い。一応パンツは履いてるけど、俺の股間にジーク様の目線が集中しているのが分かりすぎて困る。

 てか、そもそも閨教育って何するんだ?閨教育ってエロ漫画とかだと実技なんだよな。乙女ゲームの世界で実技はないよな。ないと信じてるぞ俺は。


「まだ自分では弄んではいない?」

「へ?な、何、言って、んだ」


 いきなりそこか?自分でっ、今朝初夢精ですよ。精通したてですよ。それなのにもういきなりひとり遊びなんかするか?いや、しないだろ。普通驚きすぎて病気かと思うだろ。ここは乙女ゲームの世界なんだから、男だってぴゅあぴゅあなんじゃないのか?だって、朝起きたら股間が濡れてんだぜ、おましたかと思ったら下着に白くて粘っこいのついてんだぞ。怖いだろ、びっかりするだろ。

 ま、俺は前世の記憶があるし、知識もある。主にエロい事だけどな。この世界の知識は見聞きしたことしかないからな、貴族の常識とかは前世の記憶が邪魔をしてなかなか受け入れられないんだよな。困ったもんだよ。


「じゃあ、始めようか」

「え、っあ、うん」


 え、始めんの?ほんとにするの?てか、何するの?ナニか?いや、待って、まだ心の準備がない。

 って、俺が内心盛大に焦っているのに、ジーク様は俺の股間を下着の上からやんわりと触ってきた。そうして形を確かめるようになぞる。無骨な手だと思っていたけれど、さすがは乙女ゲームの騎士様だけあってとても綺麗な手をしている。これは手フェチな撃沈ものの手だ。


「緊張してる?」

「…………ぅう」


 言われたら、意識すんじゃん。緊張とかじゃなくて、意識するじゃんよ。


「ここを、毎日する必要は無いけれど、これからは最低でも週に一回は寛げないといけない」

「しゅ、うに、一回……」


 まぁ、育ち盛りだからな。溜まるのは良くないよな。うっかり人前で立っちゃうのはまずいよな。貴族だし。それこそハレンチだよな。乙女ゲームだし。


「うぇ」


 俺が考え事をしているうちに、ジーク様が俺を挟むような体勢でベッドに腰かけた。そうして後ろから俺の股間に手を伸ばす。ジーク様の息が首筋辺りに当たってなんだかこそばしい。


「怖がらないでくれ」


 そう言って俺の下着に手をかけた。この世界の下着、乙女ゲームだからなのかボクサータイプなんだよな。ピッタリしてんの。もう、バッチリフィットなのよ。肌触りもやたらといいし、なんか体の一部みたいなんだよ。


「うわ、あっ」


 ずりずりって下着が下ろされて、俺の股間が空気に晒される。精通したての俺の股間はまだ幼さを十分に残していた。って、今更ながら俺はまずいことに気がついた。風呂に入った時に処置してなかった。前世の知識ぃ!前世の知識でここは対象しておくべきだったぁ!!


「やはり、自分では出来なかったようだな」


 背後でジーク様が笑ったように感じる。それは俺の男としてのプライドを痛く傷つけるというものだ。どおせちいせえよ。そりゃあ二十歳も超えて、騎士として体を鍛えているジーク様から見ればま、俺のなんかチビっ子でしょうね。くそう。

 パチンという音がして、ジーク様が何やら瓶を手にしていた。どこから?その瓶はどこから出てきました?


「まずは適切な処理をしよう」


 そう言ってジーク様は瓶の中身を手のひらに取り、両手でゆっくりと揉み込むようにすると、俺の股間に手を伸ばしてきた。


「ひっ」


 思わず喉の奥から悲鳴に似た声が出た。


「温め足りなかったか?」


 いや、そーじゃねぇよ。冷たかったんじゃねぇから。股間は急所なんだから、他人の手で触られれば驚くに決まってんだよ。ねぇ、騎士でしょ?騎士なんだよね?


「このままだと汚れがあり溜まったりして不衛生になる」


 そう言ってジーク様の手が俺のものをやんわりと包み込み、綺麗な指先でゆっくりと処置を施し始めた。

 うげげげげげげぇ、俺のオレ、こんにちはじゃなくてこんばんは?てか、だから、叫びたい、叫びたい、叫びたいぃぃぃぃ。おーれーの、オーレー、生まれて初めて外気に晒されてびっくりしてるわ、俺も、な。


「痛くはないか?」


 ゆっくりやんわりとした手つきでしながら、そんなことを背後から耳元で聞いてくるのは反則だろう。ここかわ乙女ゲームの世界なら、それを聞くのは女の子相手にやってくれ、いやマジで。


「あっ、っだ、だいじょ、ぶ……で、っす」


 羞恥で耳まで真っ赤になってると思うわ、俺。だって俺のおれが顔出してるよ。色が可愛いったりゃありゃしない。こんなの前世の記憶の随分と古いところにしかないだろう。いや、もうないな。


「じゃあ、基本的な構造から始めよう」


 は?構造?何の話?

 ねぇ、何すんの?これから何するんだよぉぉぉぉ!

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