断章

断章 エンフェント族2000年の記録より一部抜粋

 エンフェント族とは、バン大陸に分布していた先住民族であり、かつて最強と言われた戦闘部族。生まれつき超人的な身体能力を持ち、魔力の扱いにも長けると言われる。また、感情の爆発や集中によって覚醒状態を引き起こすことがあり、純系と混血で能力の違いが見られる。


 純系の場合、使用する術は生まれつき気弾と決まっている。また、覚醒すると髪が黄色に染まり、輝く。


 混血の場合、使用する術は気弾以外にも様々なものがある。また、覚醒状態が存在するかどうかは血の濃さによる……



(中略)



 ――太古より狩猟や侵略を繰り返し、時には近代兵器を駆使して勢力を広げたが、第一次世界大戦以後活動はその活動も穏やかになり、普通の人々と交わって生活するようになった。


 しかし第二次世界大戦以後、エンフェント族は今後の世界平和と協調を乱す存在として差別され、終戦から一年後には各地で平和維持の名目でエンフェント族を虐殺。そのため、現在エンフェント族主体で生活している集落は九ヶ所。純系エンフェント族の総人口は五百人にも満たないと言われている。現在は世界先住民族保護規約の適用対象のため、国家主導による族の攻撃は行われてないが、稀に過激派による襲撃が起こっており、今後どのようにエンフェント族を各国で保護していくかが課題である。


現在も悪魔の使いとして一部の人から差別されているエンフェント族だが、メイジャーを筆頭に消防、警察等の職業に関してはその驚異的な身体能力が武器となっており、手厚く待遇されるケースもある。そのような職業に就いた者の多くは、「世界エンフェント族協会」に加入。エンフェント族に対する差別撤廃を目指して活動している。


 特にメイジャーに関しては、その身体能力で数々の功績を残しているメイジャーが多く、重宝される。現在のエンフェント族のおよそ半数近くがメイジャー協会に所属しているとも言われている……



(中略)



 ――エンフェント族は滅亡戦争直後に誕生した民族であり、過酷な環境を生き抜くために進化したとされている。

中でもクロスの一族はエンフェント族の始祖とも呼ばれており、エンフェント族以外のパートナーと子孫を残しても、必ず純系のエンフェント族になるという特徴がある。


 なお、エンフェント族の始まりであるゼン・クロスは既に神格化されており、エンフェント族が相伝魔術を習得する際に必ず行う「闘神魔術憑臨ノ儀」では、遺言に従ってゼンの頭蓋骨を儀式の祭壇及び憑臨させる際の触媒としている……



(中略)



 この項では、闘神魔術憑臨ノ儀の概要とその手順について紹介する。なお、引用は「新世界旅行記」及び「クロス文書」によるものである。




〈重要事項〉

 この儀式は、エンフェント族の魔術師が相伝魔術を習得する際のみに行う。他の目的で儀式を行うことは許されない。


[概要]


 エンフェント族相伝の気弾魔術の性能を上昇させ、将来の子孫が弱体化しないようゼンが対策したため、あえて設けられた儀式。手順や儀式を行う環境が厳格に定められており、それは魔術が廃れずに代々受け継ぐことが可能であることを意味している。


[手順]


 比較的狭い暗室で行う。極力光を差し込ませないよう、暗幕を垂らすとより良い。魔法陣の作成には白墨を使用する。


 魔法陣の中央にゼン・クロスの頭蓋骨を置き、その正面に対象を座らせる。座り方は自由でよい。


 ※なお、対象と祭祀以外がこの儀式の場に立ち会うことは可能だが、エンフェントの血が入っているものに限る。


 全八節の詠唱を行う。一節詠唱を行うごとに反時計回りに篝火を回り、青く染める。


“一つ、我ら闘神の血を継ぎ、エンフェントの名を冠する”


“二つ、此処は人世、秩序なき世界なり”


“三つ、貴殿を追い、神秘にこの身を投げ入れん”


“四つ、その目に宿すは守護の意志、その目に映るは常世の暗闇”


“五つ、貴殿の頭蓋を手向け、現世に依るべを与えん”


“六つ、賜るは反抗の力、意志を象る弾丸なり”


“七つ、我ら裏より出ずる神秘に立ち向かう者なり”


“八つ、そして貴殿は此の世に希望を与える者なり”


 火が全て青くなったところで、祭祀が魔法陣に魔力を注入。黄色に光りだしたところで最後の詠唱を行う。


 “その場は作られ、憑臨の時来たれり。闘神ゼン・クロス、今こそ運命の申し子に応えよ”


 魔法陣に火が回り、対象が炎に飲み込まれたら成功。炎が解けるまで干渉してはならない。

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