幕間
間章 楽しみ
二人がここを離れて数日、プリムラの葬式も終わり、家は以前の静けさを取り戻した。口数の減らないナリタも二人が居なければ少し鳴りを潜める。一緒にいた人が居なくなった途端、家が広く感じたとか、ぽっかりと空いた気がしたと言う人がテレビに出ていた気がしたが、私は今、本当にそれを体験している。二人には広すぎると思いながら暮らす日々が少しの間戻ってきた。ナリタが家事をする音だけが心地よいリズムで聞こえる。
だが、ナリタがやっているからと言って私もやれという話にはならない。一応、左の鎖骨はくっついていないため、安静にしている必要があるのだ。ナリタには申し訳ないけど、数日は全てを任せてしまおう……
そのとき、ユカの携帯が鳴る。電話のコールではなく、着信音が一回。SNSの方から通知が来るのは珍しいことだし、私にSNSで話しかける人は限られてる。
携帯の画面を確認する。ゴーストからのメッセージが、知らぬ間に作られた謎のグループに送られていた。
『女子会グループ』……私は入った覚えがない。
アプリを開いて詳細を確認する。招待通知が来ている。参加を承諾する前にメンバーを覗く。
ゴースト、アリア、コノハ、アオイ……なんでか分からないけどナリタ。
肝心のメッセージを確認する。ゴーストの呼びかけが最上部にポツンと残されていた。
“明後日、出かけませんか?”
唐突過ぎる遊びの誘いだ。でも、それでなんとなく分かった。
多少増えているが、以前獄中で語った「終わったらカフェでお茶しよう」という約束だ。それを律儀にゴーストは守ろうとしている。プリムラさんが不参加であろうとだ。
本来ならばここにいて、苦難を語り合いながら安息を共にするつもりだったのに。そう後悔が頭をよぎるが、もうそんな姿をプリムラさんに見せるわけにはいかない。
しかし人が死んだすぐ後にこうやって遊んでしまうのは倫理的にどうなのだろう……と思うところもある。流石に不謹慎では無いだろうか。
心の中で迷いながら監視を続けていると。メッセージが飛んできた。
アオイ“楽しそうですね!でも私は予定があって…”
「アオイさん⁉︎」
思わず声を上げてしまう。最年長、本来これの是非を問う立場の人は既にノリノリだった。つまりこれは不謹慎なことではないということ?
続いてメッセージが来た。
ナリタ“僕はどう考えても場違いじゃないか?”
これを見てすぐにナリタを見る。ナリタは肩をすくめて言った。
「だって……女子だらけの中に黒一点だよ。無理でしょ」
それもそうか。少しだけ期待してしまったが、確かにナリタが持たない。ユカはそう判断してやり取りの続きを追う。コノハが会話に参加していた。
コノハ“プリムラさんが亡くなったというのに、そんなことをしていていいの?”
やはりこの中では一番まともかもしれない。コノハはユカの言いたかったことを代弁してくれた。
メッセージはまだ続いている。ゴーストはなんて答えたのだろうか。
ゴースト“プリムラさんなら許してくれますって!”
「……」
その返信を見てユカは頭を抱えた。ゴーストはゴーストか。深く考えていた訳じゃない。
コノハ“本気で言ってますか?”
ゴースト“本気です!そもそもプリムラさんは自分のことでアタシたちが悲しんでいるところなんて見たくないんですから!”
スクロールしていた手が止まる。
今更だが、プリムラさんが私たちを恨むことはない。むしろ今まで通り元気にいてくれることを願うだろう。頭の奥底ではそう思っていたが、ゴーストの言葉で顕在化し、確信を持てるなんて。
コノハさんも同じ感じで打つ手が止まっているのだろう、リアルでも画面上でも沈黙が流れ、いたたまれなさにユカが一度携帯を閉じる。
その直後の通知音が両方の沈黙を破る。
アリア“あの…”
アリア“私は行ってみたいと、思います”
「……」
あの物静かなアリアさんがこの空気を破ってそんなこと言うなんて。意を決してユカも文字を打つ。
アリアだったからというわけではない。誰であろうと、ユカの引き金は引かれたであろう。
ユカ“私も行きたいです”
結局はこの二人の発言が決め手となり、ユカ、アリア、コノハ、ゴーストの四人でお出かけをすることになった。明後日の十時に駅前とのこと。
ゴースト“それじゃ、また明後日!”
その言葉にそれぞれが適当な返事をしてチャットはお開きになる。ナリタもチャットを眺めるだけ眺め、携帯を置いてユカをじっと見る。
「……お前さ、肩治ってないんだよ」
楽しみが先を行き過ぎて自分の状態が頭に入ってない。ナリタはそう思って忠告した。「行くのはいいけど大丈夫なのか? 無茶してまた折れたりしたら……」
「女子会でそんな乱闘騒ぎは無いわよ」
ユカの返答に首を傾げていたが、十秒ちょっと熟考した後にため息をつき、
「……ま、そうだね。楽しんでいってら」
「明後日だけどね」
冷静に返すユカだったが、その顔には嬉しさと期待が隠しきれずに溢れ、自然と口角を上げて頬を染めていた。瞳の奥は珍しく星屑みたいにキラキラしている。余程楽しみなんだろう。遊ぶということ自体、最近は全く無かったからだろうか。
ユカが急ぎ足で部屋に戻る。今から服装を吟味するのだろうか。クローゼットを開け、服が勢いよく引き出されては積み上がる物音が聞こえる。
……ほんと、楽しそうだ。
ユカを見ているとなんだか自分も元気になってきた。あくびと同じく、元気も人に伝播していくものなのかも。
「もーいっちょ……」
大きく伸びをして、ナリタは皿洗いの続きを始めた。
※
そして当日――
ユカは駅前のよく分からないモニュメント付近でみんなを探していた。首周りや手首の部分に申し訳程度のフリルを付けた、お淑やかな印象の白いブラウス。下は黒のロングスカートで足首辺りまで肌を見せていない。黒く艶のあるローファーを履き、小さなバッグを肩にかければ随分大人っぽい。しかしロングとは言え慣れないスカート。下がやけにスースーしていて気になってしまう。タイツでも履いてくれば良かった。
それでも楽しみが勝り、気を抜くと口角が緩んでしまいそうだ。はやる気持ちを抑えてモニュメントの裏に回る。
「あ……お、おはようございます……」
この内気でもじもじした心細い声……アリアさんだ。
「おは……」
アリアの姿を見てユカは言葉を失った。
ベージュのニットに白のタイトスカート、更に頭には小豆色のベレー帽を被っており、手提げカバンを両手で持ってニットのトップスとタイトスカートが抜群のプロポーションを強調させており、ふと周りを見ればいくつかの男性がその姿をちらちらと横目で眺めていた。
「すっっっごく綺麗ですね……」
「そうですか……? 今日は張り切ったので……そう言っていただけると……嬉しいです……」
恥ずかしそうに笑うその姿。女であるユカから見てもなぜか色っぽい。
「あの……他の人たちはまだなんですか?」
「コノハさんなら……」
と目線を向けた先から、グレーのパーカーのポケットに両手を突っ込んだコノハが歩いてきていた。下は部屋着のようにゆったりした白いズボンであり、アリアに比べるとお洒落とは言い難い。
でもほどよいアクセントとして付けられた丸い伊達眼鏡が個性を引き出しており、元々の童顔がさらに強調されている。この中では一番身長が低いので、ユカよりも年下に見えてしまいそうだった。
「……なんか付いてますか?」
少し顔をしかめてコノハが言う。どうやらぼーっとしてコノハの顔を見過ぎていたらしい。
「いやいや、何も」
誤解を解くため冷静に返す。コノハは特に詮索する様子もなく、「そうですか」と言って話題を変える。
「ゴーストはまだなんですね」
「私たちが気づいてないだけかもしれない」
「まだ……待ち合わせまで時間はあるので……」
「おまたせ」
噂をすればの言葉通り、ゴーストの声が聞こえた。三人は声がした方向を見る。
「……!」
その姿を見て、三人は息を止めて目を見開いた。
そこに金髪の少女の姿はなかった。
藤色のロングヘアーにアイボリーカラーのワンピース。ただそれだけの格好。ただそれだけでプリムラの面影を映してしまった人は、きっとユカだけではなかっただろう。
「ど、どうかな……」
ゴーストも少し恥じらいながら三人に尋ねる。数秒の沈黙が流れる。
「似合ってますよ……!」
他の二人が言い出す前にアリアが目を見据えて、微笑みながら言った。そのときのアリアの表情は、誰かにときめく乙女というものを完全に体現していただろう。
「やっぱりですか? いやー、勇気出してイメチェンして良かった〜」
一気に肩の力が抜けてゴーストが安堵の息を吐く。だが次、口を開いたときには既に切り替わっていた。
「それじゃ、行きましょうか!」
「……え?」
颯爽と駅に入ろうとするゴーストを誰もが必死に止める。
「どこに? まだ何も言われてないのに」
ユカが声を張り上げて聞く。呼ばれて振り向いたゴーストはいじらしい笑みを浮かべる。
「そりゃあさ……」
※
派手なエントランスゲート、鮮やかに回るメリーゴーランド、圧倒的な存在感を放つ壮観な観覧車と蛇のように曲がりくねったジェットコースターのコース……
「遊園地!」
元気な声でゴーストがはしゃぐ。「今日くらいがっつり楽しみましょう!」
「……あの……」
と、アリアが恐る恐る手を挙げる。「てっきり……ご飯を食べに……行くのかと思って……動く服じゃ……無いんですけど……」
「あ……私もだ」
ユカも自分の服装を見直す。
「大丈夫です! ジェットコースターは強制じゃありませんから!」
ジェットコースターだけの問題では無い気もするが、メリーゴーランド程度なら問題にはならないだろう。二人はとりあえず差し迫った危険は無いとして頬が緩む。
「で、何から行きます?」
コノハが尋ねる。物静かな表情とは裏腹に、かなり楽しみになっているようだ。少し首を傾げて唸りながら迷っていたゴーストも、早く遊びたい欲に駆られて全てを吹っ切った。
「とりま行き当たりばったりで!」
※
ゴーカート
搭乗者 ユカ&ゴースト、アリア&コノハ
「ゴースト、抜かれる!」
迫真の表情でユカが後ろを向く。
「コノハさんなんであんなに運転上手いの!」
「運転免許、持ってますからね」
「ヒッ! もう隣にいる!」
「じゃ、お先」
「ゴースト! 負けた方がご飯奢りになっちゃうんだよ!」
「無理無理! これ以上飛ばしたら暴走するって!」
「……大変そう、ですね……向こうは」
「相変わらずですよ」
「なんだか……微笑ましいですね……」
「……そうですね」
コノハは微笑を浮かべ、コースの残りを悠々とツーリングしていった。やや、いやかなり遅れてゴーストとユカもヘトヘトでゴールする。
「学生にたかるなんて最低……」
「もともとゴーストが決めたんですよ。大人しく従ってください」
「ちぇ〜……」
※
メリーゴーランド
「ほらアリアさん、笑ってください!」
ゴーストが意気揚々とカメラを構える。
「大の大人がこんな……恥ずかしい……です」
照れながらもカメラ目線でピースする。
「うわ〜映える」
ゴーストも良い写真が撮れたようで、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。それを、ユカとコノハは後ろの馬に乗りながら見ていた。
「……」
「ユカさん? どうしました?」
「いや……やっぱりアリアさんが色っぽい気がして」
「ああ……それは私も思いました。なんと言うか……大人の魅力でしょうか」
「でも、アリアさん今年で
「……」
つまりコノハの方が年上であるはずなのだ。やるせない気分になってコノハは目線を下に落とした。
「……童顔も全然魅力だと思いますよ」
「そう……ありがとう」
※
空中ブランコ
「いや〜……楽しそうですね」
スカートを理由に、ユカとアリアは見守り係となった。ぐるぐると回転するブランコの上で、他の二人は思いっ切り楽しんでいる。
「コノハさんも……はしゃぐん……ですね」
「一番年上と言っても、社会で言えばまだ大学生ですから。まだまだ遊び盛りですね」
「普段そうでもないので……意外です」
「私もあんな姿は初めて見たかもしれない……」
二人はまた空中ブランコを眺める。
「……あの」
アリアがユカに聞く。「私がこんな……楽しんでいて……いいのでしょうか」
ユカはアリアの方を見た。下を向いて拳を握りしめている。
「結局最後……私は……あんまり戦うことが……できなくて……皆さんみたいに……前線に出ていた訳でもなく……」
左目に涙が浮かぶのが見えた。アリアは気づいた途端に拭い、笑顔を作る。「いや、分かっているんです……私は戦闘向きではないのは……それでも……皆さんが危険な場所で戦っている中、安全なところにいて……しかも人質を守るという任務すら守れなくて……そんな私をプリムラさんはどう思って……」
「……それでも」
ユカがアリアを見て言う。「プリムラさんはみんなが生きていたことに一安心して、みんなを労ってくれたと思います」
「……確かに。そういう人でした……」
※
「メガネが落ちるかと思いましたよ」
不満を言いながらもご満悦そうな表情でコノハが出てくる。
「楽しかった?」
「うんうん! ユカもアリアさんも乗れば良かったんですけどね〜」
「いや……もし見えたら……嫌なので……」
いつも通りのアリアが手を振って遠慮した。
※
観覧車
丁度付近まで来て、ゴーストは窓に貼り付いて外の景色を眺める。
「おう……たけえ」
「あ、向こう。多分フェルナですよ」
「あ、ほんとだ。あんなギラギラしてるんだー」
その様子を見て反対側に座っていた二人も見に来る。
「都会よりも自然の眺めを見るものじゃないですか?」
「目を惹いたので」
「でも……インパクト……ありますね……」
「改めて見ると超都会ですよね〜」
他の人が眼下に見える銀色の高層ビル群を眺める中、ユカはその上の青空を見上げていた。綿菓子のようなふわふわした白い雲がいくつか浮かんでいるが、太陽は遮られることなく一帯を照らしている。
「――――さん」
ここは随分天に近かった。
※
「結局全部の遊具回っちゃった……」
「ジェットコースターは……二周……してしまいましたね」
「ゴーストがお化け屋敷怖いとは思いませんでした」
「いや、名前で判断はよして? 怖いものは怖いんです」
近くのファミレスでそんな会話がなされる。既に各々の昼食を食べ終えた後だ。
「ところでこの後はどうするつもり?」
ユカが時計を見ながら尋ねる。「もう十四時だけど」
「帰りも一時間かかって……後もう一つ行きたいところがあるんですよ。でもカフェには行きたいなぁ」
「別に……日が暮れても……私はいいですから……」
「あ、そうなんですか? みんなはどうです?」
「私も大丈夫。なんなら朝まででも許してくれるだろうし」
と、ユカ。
「それなら早く行きませんか? 電車、今出たら充分間に合いますよ」
既に確定事項のように、コノハが携帯を触りながら言う。
「じゃ、行きましょうか!」
四人は一斉に立ち上がり、会計を済ませて外に出る。最寄り駅は遊園地の目の前にある。落ち着いて改札を通り、電車に乗り込む。しばらくしてから電車は出発し、フェルナへと向かう。
フェルナに着き、駅を出て、移動販売のカフェを見つけた。普段は見ないため、貴重な機会だと四人は思ってそのカフェに寄る。
苦いコーヒーではなく、カプチーノの上にさらにホイップやらトッピングやらを載せた、甘めの飲み物。当初の目的通りではないが、疲れた体には甘い物が染みる。イチゴソースやらチョコやらキャラメルやら、それぞれが注文していく。
「あー……二つください」
ゴーストが同じものを二つ注文する。
「そんなに飲みたいの?」
隣でユカが尋ねる。
「いや、供えるの」
「そな……」
言いかけたところでユカは気づいた。ゴーストが最後に行こうとしていた所に。
「そ、お供えしに行こう。プリムラさんのお墓に」
※
とある公園の裏、散歩道があり、草花が彩り良く辺りを飾る中に、メイジャー協会が管理する霊園がある。
つい先日その一角に新たな墓が作られた。プリムラの墓である。四人は霊園に着くと同時に、プリムラの墓の前に立つ人物を見つけた。
「アオイ……さん?」
「あ、やっと来ましたね」
忍装束にいつも通りの優しい笑顔で振り向く。
「なんでアオイさんが……?」
「アタシが連絡しておいたの。最後はみーんな一緒にってことでね」
そしてゴースト含む四人はプリムラの墓石の前に立ち、アオイもその列に交ざった。
ゴーストが一歩前に出て、長方形型の白色の墓石の前に先程買ったドリンクを備える。
プリムラ・マラコイデス
新暦2036年 5月12日 28歳没
勇敢で人情に厚く、人質となりながらも希望を捨てず、戦い抜くことを決めた彼女に敬意を表する。
墓石に彫られた文字をなぞる。
「プリムラさん、アタシたちは大丈夫。プリムラさんが死んでしまったのは悲しいけれど……いつまでもくよくよなんてしない。私たちは弱くないから、安心して」
ゴーストが墓石に言い聞かせる。
「プリムラさん……これからも見守っていてください。あなたの想いは私たちで引き継ぎます」
そうユカが呟くと、ゴーストが振り向いてこちらを見てきた。
「想いって?」
「え?」
「その……プリムラさんの想い。何か聞いてるの?」
「アギトさんから聞いて……」
ユカはここで気づく。周りの人たちも疑問に思った顔をしており、話を聞こうと全体的に寄ってきている。本当に何も聞いていないらしい。
隠すものでもない。むしろみんなで継げるならみんなに教えたい。
「プリムラさんはね、私たちにこんな願いを託したの――」
ユカがアギトから聞いたことを、ほぼありのままに伝える。
「――。そういうことなの」
「……素敵です」
アリアが一番初めに口を開く。「いつか……きっと実現できます……みんなで頑張れば」
「私もそう思います」
「同感! むしろ絶対実現させようね」
「この際ですから、プリムラさんの前で意気込んじゃいましょう」
アオイが提案すると、全員がそれに賛同する。
「よし! 誓っちゃうからね? みんなまた一列に並んで〜」
ゴーストの指示で五人はまた一列に並び直し、プリムラの墓を見る。
「プリムラさん、あなたの願いしっかり聞きました。いつか私たちが、あなたの願いを叶えてみせます!」
決意に満ちた宣言が誰もいない霊園に響いた。しばらく五人は体制を崩さずに無言で立ち続けた。
「……っし! これで伝わったでしょ!」
ゴーストが満足げな表情で周りを見渡す。「もう夕方か。でもやりたいことは全部やり終えたし、帰りましょうか」
五人はちょっとした雑談を始めながらその場を離れようとする。
――うん、頑張ってね!――
誰もがその声に振り向いたことに全員が驚き、顔を見合わせては確認をする。
「逢魔時……でしたっけ」
「今のはプリムラさんの……」
「……聞いてたんだね」
そうと分かってしまうと、見守ってくれていることに安心すると同時に少しだけ目の奥が熱くなるような気がした。
※
「ただいま……」
日も沈み切った頃に家に戻ったユカを迎えたのは、強くてフラワリーな香りだった。何かと不思議に思ってドアを開ける。
「おかえり、ユカ」
ダイニングに座っていたナリタが用意していたのは、香りの元であろう熱い紅茶とケーキであった。
「カフェ……とまではいかないがどうだ? 遅めのお茶でもしよう」
そのサプライズを見てユカの顔が再び緩む。とても嬉しかった。ナリタにも話したいものはたくさんあるから、おしゃべりでもしながら頂こうかな。
「……それじゃ、お言葉に甘えて」
と、ユカは向かいの椅子に座った。「いろいろあったのよ。まずはね――――」
「へえ、どれくらい?」
土産話を楽しそうに話す女性と、それに相槌を打ちながら微笑みを浮かべる男性の姿がそこにはあった。
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