第一章 四幕 5.旭日昇天
「まずはどうする?」
囲まれた状況でジンは尋ねる。「あんまり建物からは離れられないよ」
「なんでだ?」
「屋上に機関砲がある。迂闊に出るとすぐ撃たれる」
「うーん、暴れられないのは少々窮屈」
「それらから破壊して行ってもいいんじゃ無い?」
「……だな、ちょっと飛ぶか」
「オッケー。行くよ!」
そうしてジンは駆け出し、カイはそれを追った。
――
カイは再び武器を交換し、あの仕込み銃がついたナイフを取り出す。ここからは近接戦闘が予想されるためだ。俺たちの動きに合わせて、アジュシェニュの奴らも動き始めた。銃を乱射し、進路を阻んでは確実に狙いに来る。
「大丈夫」
――
ジンが青いバリアを展開する。弾丸は全てが見事に跳ね返される。青いバリアは大きく、そして目立つ。ジンが敵を惹きつけている間にカイは裏に回っては集団の中に紛れ、目にも留まらぬ速さで敵の身体を切り裂き回っていく。痛みに耐えきれない兵士はすぐさまその銃を落とした。カイはそれを逃さずに奪い取り、くるりと回転しながら連射する。殲滅よりも、相手を遠ざけるために。
「近接兵ェー!」
怒鳴り声と共に、拠点からさらに人がわらわらと出てくる。棍棒、剣、刀、なんか変な武器。いろいろ持っており、直接俺たちを止める気なのだと確信する。
しかしその直後に重たい銃撃音。他の援護に向かっていた機関砲が一基、こちらに向いて射撃を始める。もちろん二人はそれを避け、死角に隠れようとした。
しかし、そこに先ほど出てきた人たちの一部が阻みにかかる。マジかこいつら、撃たれていい覚悟で俺たちを殺しにきてる。どんな執念だよ。
銃弾の雨を掻い潜りながらの戦闘が始まる。しかし所詮は一般人に武器を持たせただけであり、動きは遅い。カイが的確に押し寄せる相手を始末する横で、ジンは複数を同時に相手取る。
突き出された槍を寸前で回避する。この時代に槍? とは疑問に思うが、気にしている暇は無い。ジンは右手に魔力を集める。
――
槍の使い手に向けて撃つ。腹部にめり込み、一発でダウンした。まだだ。まだ一人。後何人いる?
ジンは目を回してざっと数える。僕に向かってきているのは六人くらい。全てリーチで勝てるけど、そんな真似したら周りの人たちが撃ってくる。こうやって混戦にしているからこそ、他の人たちは手出しができない状況になっているんだ。近接戦闘でやりくりしなくと。
――
一番近くに居た、大剣を持つ男に投げる。二秒だけ動きが止まった間に迫り、顎目掛けて逆立ちをするようにして足を突き上げる。ぐらりと揺れて男を倒れる。続いて両手に短刀を持ち、露出の多い格好をした女が首を取ろうとしてくる。暗殺者のような手捌きだ。屈んで横切る短刀をやり過ごし、刺そうと向かってきた左手の短刀は後ろに跳んで避ける。
――
ジンが真っ白に輝く気弾を放り投げる。それは空中で眩い閃光を放ち、視界を染め上げる。
目を瞑った中で後ろに下がろうとするも、引き寄せられる感覚があった。ジンは女の服の裾を掴み。十分に近づけてから首を手刀を落とす。目が虚になって女も倒れた。
更に多くの人たちがジンに襲いかかる。全方位からほぼ同時に向かわれると対応できない。しょうがないからナリタさんと作った新しい技を試してみよう。
――
ジンの周りにまた青いバリアが展開された。その表面には黄色いエネルギーのようなものが蠢いており、それに触れた人たちは一斉に痺れ、弾かれたように飛ばされていった。
※
カイも善戦していた。近接兵の登場により、倒した奴の剣を奪っては戦うことができるようになった。状況に応じて短刀、長剣、拳銃、ナイフを使い分けることができ、逆に相手はコロコロ変わる武器に翻弄される。天賦の戦闘スキルと、多彩な武器構成による戦法のバリエーションが、彼らとの経験の差を埋めては追い越そうとしていた。
ただ一つ、懸念点があるとすれば、この程度の実力でメイジャーを抑えていた訳では無いだろうということだ。流石にここまで一般人のみで構成されていることはあり得ない。メイジャークラスの魔術師、あるいは元メイジャーが手を貸している。そうでなければここまで大規模にメイジャーを拉致することはできなかっただろう。
集中して。もしかしたら魔術師が紛れているかもしれない。プリムラさんから教わったことを思い出す。魔術師と非魔術師の見分け方。
――目に魔力を集中させることで、基礎的な視力はもちろん、普段視えないものまでを認識することが可能になる。平常時の魔力の流れとか。これを使えば、誰が魔術師かも簡単に分かる。そうで無い人との違いが丸わかりだからね――
集中。目に魔力を少し集める。手に集める感覚とまるで同じなので簡単だ。ただし手に集めるのと同様に慣れが必要らしい。視界が少しだけ揺らぐ。安定していない証拠だ。早く探さないと。
こいつも違う。あいつも違う。今倒したやつはどうだ? 当然違うか。巧妙に隠れているのか、そもそもここにはいないのか――
「後ろー!」
ジンの危機迫った叫び声により、反射的に後ろを振り向く。まさに今、男がカイの胴を両断しようと剣を振るったところだった。
――
いや、間に合わない。今から左腹に魔力を集中させて、絶対に防御しないと……
「『止まって!』」
誰かの声と共に、男の動きが何かに押さえられるようにして動かなくなった。男の方はなんとか動かそうと躍起になり、その腕は震えている。何かを唱えるつもりなのか、口をぱくぱくさせても言葉は出ない。
そこに、女性が殴り込みにかかる。生憎寸前のところで男を縛っていた何かは解けてしまったようで、攻撃はガードされる。だがさらにジンが駆けつけては気弾をぶつける。衝撃で男は後ずさる。
「良かった、間に合って」
先程の叫び声と同じ声色。長いツインテールの女性はカイの方を向く。「怪我、無いですね。あとはジンと頑張ってください」
そう言って、彼女は別の方へと駆け出して行った。まだお互い名前も聞いてないというのに。いや、ここは戦場だからこれが普通なのか。ひとまずあの人のおかげで窮地を脱することはできた。終わったらお礼を言おう。
さて、現れたこの男。俺に気づかれないような身のこなし、そしてジンの攻撃を耐えた。間違いなく魔術師だ。目の前に集中していたとはいえ、ゴーストに優れていると言われた俺の探知能力でさえ気づけなかったとは。これが長年の差とでもいうかのようだ。カイは距離を取り、相手と睨み合う。
「救われたな」
男は皮肉混じりに言い放つ。「貴様といい誰ともいい……なぜメイジャーは強運な奴が多いのだろうか」
「日頃の行いじゃねえの? お前たちは地球によく無いことばかりしているらしいからな。それは恨まれて当然だ」
「そんな子供のような煽りに乗るとでも思っているのか」
「乗ってくれたら勝手に鈍くなってくれて楽なんだが」
「生憎その手の戦いは幾度も経験しているからな。今となっては愚かとしか思えん」
「そうか。なら、すでに足が凍りついていても怒らないよな?」
「なっ……」
慌てた様子で男は足元を見る。「いつの間に!」
男がカイと会話している間に、ジンはこっそり魔術で足元ごと凍らせていたのだ。
「悪いな」
カイがナイフを手に取り、男の心臓めがけて刺しに行く。
「悪いのはこっちだ」
男が剣を前に出す。この状態でもやり合おうとするのか。そう考えたカイだったが、次の瞬間には反射的に転がっていた。
視界に映ったもの。男の剣が突然伸びて、俺の目を突き刺さんとばかりに狙ってきていた。幻覚か?
起き上がって確かめると、ジンまでもが引き下がっている。男は先程とは比べ物にならない長さの大剣を携えていた。幻覚じゃない。これが奴の魔術だ。
「剣を自在に操るのか?」
「まあ、正解ということにしよう。正しくは使い込んだ剣だがな。どう伸ばそうとどう曲げようと俺の自由だ」
「なるほど」
頷くカイの目の前で男は構え直す。氷はすでに溶けてしまっていた。
そこに機関砲が照準を合わせてくる。カイとジンはいち早く気づき、防衛体制に入った。男はその目線に気づいて、機関砲の砲座にいる奴を睨んだ。
――戦いに、横槍を刺すな――
その強い意志を全面に押し出し、殺気で圧倒させる。砲手は仕方なく砲座を回転させた。
「分からん……」
そう首を傾げて他の方向を向く。
照準器の視界が遮られる。
「ん?」
目を外して前方を確かめる。金髪の青年がこちらを見て手を振った。
「やっほー。お疲れ様」
ニコリとした顔に恐怖を覚え、砲手は急いで引き金を引いた。
「遅いよ」
――
その行動は叶うこともなく、電気を込めた雷拳を叩き込まれて失神する。それで気づいた他の砲手が一斉に回転し、エレンに弾丸を浴びせる。
――
押し寄せる弾丸の波を軽々と避ける。銃身がどんどん熱くなっては赤くなる。
「アオイさん! お願いします」
「任せて」
アオイの放った手裏剣は、熱で柔らかくなった銃身を粘土のように切り裂いた。弾の出所を失ったそれらは容易く暴発し、屋上の機関銃は全て沈黙した。
「一応、さっきのも動かないようにしといてね」
「分かりました」
エレンは軽く雷の槍を放ち、機関砲の電子機器をショートさせた。直後に爆発し、大きな火柱が上がる。
「そこまでやれとは……」
と、アオイも苦笑いした。
「お前らがメイジャーか!」
後ろから声がし、二人は振り向く。堅牢な鎧を着用した兵士が、よっこらとミニガンを構える。
――
瞬きの間にその兵士の背後を取る。
――霊拳!――
エレンは渾身の打撃を与えたはずだった。しかし悲鳴を上げたのはエレンの方であった。
「いってえええー!」
行きよりも遥かに速く戻り、赤くなった拳をフーフーする。「硬すぎんだろ!」
「そうさ! 重たいがこれはメイジャーの攻撃に耐えうる強度を誇る! お前らの攻撃など簡単に耐えて、その後に蜂の巣にしてやる!」
「へえ、それは俺の攻撃にも耐えれるのか?」
背後からの言葉に鳥肌が立つ。兵士が恐る恐る後ろを見た。屈強で強面の男が、そこに仁王立ちしていた。
「ちょっと試させてくれよ……」
「あ、いや、そのちょっと考え――」
「拒否権なんていつ与えたァ!」
――
兵士は無意識にミニガンをも盾にした。しかしエンジの渾身の一撃はミニガンを貫通し、鎧を砕いて肋をへし折りながら兵士を吹き飛ばした。
「二度とその程度の装甲でいばんじゃねえ」
エンジが唾を吐き捨てた。
「いたのかエンジ!」
エレンが目をキラキラさせて近寄る。
「お前の叫び声が聞こえたからこれ何事かと思ってな。確かに二人はそこまで打撃力は無いだろうし」
「やーごもっともだ」
エレンが頭を掻き、後ろのアオイはそれを微笑ましく見守る。
「私はそういうのに長けた能力じゃ無いですから。仕方ないですね」
「アオイさんはそうですね。でもエレンは修行不足だ。これ終わったら技の威力を鍛えろ」
「へーい……じゃあこれ長引かせようかな」
「縁起でも無いことを言うな!」
エンジがゲンコツをした。
「ってぇ〜」
「二人ともそのあたりにしてくださいね。まだ何も終わっていないですよ」
「分かってますよ……エレン、行くぞ」
「はいよー……」
やや傷心気味のエレンを無理矢理引き連れ、エンジは屋上から飛び降りた。アオイはそれを見送った後、屋上から戦場を見渡す。
コノハがプリムラの援護に回っていますね……いや、あの虎を一緒にサポートしている……? 誰でしたっけあれ……
答えが出る前に他を見る。単騎で戦うフレッドが視界に入る。紙を丸めただけの物で、周りの兵を薙ぎ倒している。フレッドは自分の魔術を上手く使えますからね。当分大丈夫でしょう。
そしてジンとカイ、あと対峙している男。魔術師ですね。援護は……必要でしょうか? アオイは手裏剣を三枚構える。
いや、よく見ると思ったより善戦してますね。動き的に向こうとは二十年ほどの経験の差がありそうですけど。ジンが上手く相手を牽制してますね。そしてカイから意識が逸れたところを刺す。あれなら向こうが先に倒れるでしょうね。
ユカとカナタ、すぐに復帰して欲しいですが、あの傷は大丈夫でしょうか。まあカナさんが待機しているなら安心ですけどね、うん。アオイは一人で頷いた。
「さて……」
と呟き、アオイはダミーがあった場所を眺める。「コタローさん、遅くないですか……?」
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