7.星々に想いを乗せて
サラの部屋の鍵は開いていた。ノックもせずに中に入ると、サラだけが座ってテレビを見ていた。相変わらずのバラエティー番組で、俳優や元アスリートなどがアスレチックをしながらクイズに答えて行っている。いろいろ詰め合わせたような番組だった。
「サクラは?」
ルギオが尋ねる。
「もう部屋に戻ったよ。なんでも試験についていろいろ考えたいんだって。真面目だよね」
「そっか。じゃあ、もうみんな部屋に戻ったんだな」
ルギオがテレビを隠すように、サラの正面に立った。
「ルギオ、テレビ見えない」
「大事な話があるからな」
テレビの前から退くことなく、ルギオは続けた。「やっぱり、ダンさんの息子だったよ」
サラがすぐにテレビを消し、真剣な顔つきになる。「……マジで?」
「ジン本人がそう言った。間違いない」
「それは……またすごい逸材ね」
サラが勝負師の笑みを見せる。「クロスの一族。私の知っている限りでは、例外なく化け物級の強さを持つもの」
「あのおじいさんだって、まだ僕たちより強いかもしれないんだからな。もういくつなんだろうな」
「でもクロスの名を知ってる人なんてゴマンといる。ひょっとしたら、いろんな存在から命を狙われる可能性もある」
「だからこそ僕たちが導くんだ。だからカイたちもジンたちも捨てられない。二組まとめていくことになるが、大丈夫か?」
「なんとかなるでしょう」
サラが軽く受け流す。「女子たちの引率なら任せて。同年代でもあるから」
「引率って、遠足じゃないから」
ルギオが笑った。「とにかくこれを言いたかった。明後日の試験は気を引き締めろ」
「分かった」
サラがうなずくのを見て、ルギオは部屋を去った。最後までジンが怪物であることを、背中で語りながら。
※
翌日、二人は早速行動に移っていた。それぞれ食事を共にし、話題を絞り出しては、仲を深めていった。こんな急な作戦にも関わらず、何か怪しいと疑った者はカイだけだった。しかも、それもすぐを忘れる程度の、小さなわだかまりだった。
トーク力の高さで着実に仲を深めていったルギオ。持ち前の明るさで女子陣を一気に和ませたサラ。二人の性格はこの作戦において存分に発揮された。そのおかげか、六人の距離はたった一日で一気に縮まり、夕食時に集まったときには、お互いが特に気兼ねすることなく会話できるようになっていた。二人の作戦は大成功を収めたと言っていいだろう。
※
その日の夜、サクラはラウンジで星空を眺めていた。
「星が好きなの?」
そう尋ねたのはサラだった。
「いや……星を見てると、なんか落ち着くんです」
「分かるそれ。心が落ち着く。星って神秘的だよね」
今度はレナが隣に座って言った。
三人で星を眺めてると、「知ってる?」とサラが口を開いた。二人はサラに注目した。
「星の中で一番明るいのはなんだと思う?」
「太陽!」
レナが即答する。
「合ってるけど、今回は夜の星に絞ってみようか」
「一番明るいのは、確かタビュラス……冬の星だから、今は見えづらいけど……あそこにある」
サクラが地平線のそばにある、一際白く、明るく光る星を指差した。
「そう、正解……今の時代はね」
サラが含みのある言い方をした。レナがちゃんと釣られて尋ねる。
「今はって、昔はどうなんですか?」
ここぞとばかりにサラが話し始めた。
「昔はね、月っていう星……まあ恒星ではないんだけど、月が一番明るかったんだよ」
「月……?」
その天体の名前は、二人にとって初耳だった。
「そう、月。地球の周りを回っていて、太陽の光を反射して、夜の空では一番明るく輝くんだ。月の形は、光の反射によって日々変わってて、丸くなったり半分にもなったり、時には見えなくなることもあるんだ。昼間にも見えたりすることがあったんだって。大きさは……」
サラの解説を聞いて、二人は夜空に想像を巡らせた。二人の視界には、空に浮かび、まんまるに光る月が見えていそうだ。
「――そして、月は二十年ほど前に消滅してしまってんだ」
「消滅ですか⁉︎」
サクラが目を丸くする。ひとつの天体が消えるなんて、何をすればいいのだろうかと言いたげな表情をしている。「一体原因は、なんなんですか?」
「……分からないんだ」
サラが力虚しく答えた。「原因は今もわかっていない。天体が突然消えるなんて、前例も何もない話だった。あまり観測もしてなかったから、解明は難しいらしい」
「そうなんですか……」
レナは肩を落とした。
「でも、私はその原因を突き止めたい。そして、できるなら元にも戻したい。だから私はメイジャーになったんだ」
サラが星を見ながら決意を語った。そして視線を二人に戻す。「二人は、何かメイジャーになりたい理由とかある?」
「……いやあんまり」
レナが頭を悩ませる横で、サクラが平然と答える。
「一人で生き残っていく力が欲しいからです」
「なるほどね。……別にしょげなくてもいいんだよ、レナ。レナもいつかは目標が決まる。メイジャーになればね。サクラだって、これから目標が変わってもおかしくないよ。二人共、新しい生き方を、メイジャーを通して見つければいいさ」
励ましでもあり、アドバイスでもあるサラの言葉は、二人の心に少なくとも刺さったようだった。
「私も……月の真相を明らかにしてみたい!」
レナが元気に言う。
「おいおい、私の話を聞いたからって目標をもう定めてしまうのか? もっと自分の目で見たり、人に聞いたりして見つけないと楽しくないぞ〜」
「分かってますよ。今のところだもん」
レナの膨れっ面を見て、サラが笑った。
「私は、メイジャーになった後に、記憶と感情を取り戻してみたい。そして、普通の、ごくありふれた生活をしてみたい」
その横で、サクラが強く空を見据えながら言った。そこに未来でも見えているようだった。サラが二人を微笑ましく見守る。
「二人共、その意気だね」
見上げれば、星は満天に散らばっていた。
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