第2話 状況確認は慎重に。
〈異世界時間:七月二十二日・午前八時〉
「何を言ってるの、このハゲ?」×6
私達姉妹と姪っ子の三人は目の前で行われる懇願にも似た光景に呆気にとられてしまった。
呆気にとられながらも集まって話し合う。
「えっと、この状況って、つまり、そういう事だよね? 言葉は分からなくても、雰囲気で」
「うん。魔王を討伐してくれって奴だね」
「「「魔王!?」」」
お尻が痛いから座ったまま一箇所にね。
「というか、この世界は何処の世界かな?」
「現存している並行世界で、母さんが許可を与えている唯一の世界は、私の知っている限り」
「「あっ、あれか!」」
分かってしまった私と
他の三人は知らないからきょとんだけど。
すると姉さんは思い出しながら語りだす。
「父さんは爆散の影響で廃れてしまったから何も起きないと言っていた気がするけど。何処かから拾ってきたのかな。全て複製移管だから」
複製して移管した世界。
それは父さんが管理するブツの世界。
母さんの大きなお尻を表現したとされる浮遊大陸が亜空間に浮く、魔法が主流の異世界だ。
その名は〈神層世界アスティア〉層のように世界が重なり合っている不可思議な異世界だ。
惑星の頃は私達も関わっていたから馴染みのある異世界ではある。懐かしいな、あの頃は。
爆散の直前まではそちらで仕事していたし。
私と
「確か、低層・中層・上層と存在していて低層に魔族、中層に人族、上層に精霊が居る世界だったよね? 大地形状は何処も同じで・・・」
「最上層に神族も居るけど今は不在だよね」
姉さんに語りかけると苦笑で返された。
「ここに居るもんね?」
「「「???」」」
きょとんズを放置して私達の会話は続く。
「不在というか父さんが見てるだけだからね」
「不干渉としているもん。元々が元々だから」
元々は惑星型だったが見事に大破した。
そこから古くさい芸術作品のような管理物へと同期させ、強引に管理機能を移設したのだ。
「芸術作品の域で機能なんて考えてない世界」
「そこに強引に付け足したから監視が必要と」
「それで引きこもっていては困りものだけど」
「「「どういう事?」」」
不干渉として見ているだけだから、内部の暴走には気づけないと。魔法も自動承認だしね。
「爆散前の遺跡自体は各所に存在するしね」
「ああ、そこから拾ってきて、解析したと?」
「ホント、面倒くさい事をやってのけるねぇ」
「「「なんの事?」」」
私達は視線を足下の床に向ける。
「それで・・・」
「これと・・・」
「汚い字だわ」
そこには「解析に苦労しました」とでも言うような勇者召喚陣がデカデカと存在していた。
私達は近場にある文字列だけを読み取る。
「何々? 異世界より彼の者達を下さいませ」
「対象は人族。穢れなき者達。奴らは童貞?」
「高潔者に各種力を授けよ。ここはまんまか」
「「「何で読めるの?」」」
汚い字だが何とか読めた。
読めるのは、この字が私達の主言語だから。
もちろん日本語ではないよ。神聖語だから。
それと言葉が不明な理由は私達の身体と種族にあった。三人は周囲の雑音は理解出来ないのに魔法陣の文字が読めた事にきょとんだけど。
私はなけなしの魔力を練って解析してみる。
「この魔法陣は人族のみに作用して〈自動翻訳・レベル・魔力源・魔力属性・各種ステータス・各種スキル・称号〉等の異世界人には存在しない各種属性を強制的に与えるみたいだね」
解析結果を聞いた三人だけは驚いたけど。
「「「ゲームみたい!?」」」
「いや、ゲームみたいなものではあるけど」
「一応、肉体的には魔法が使えるのね」
「なら、軽く練って、うぉう頭痛がきたぁ」
「この状態で風魔法を発しなくても」
「「「今の旋風はどうやったの?」」」
ちょっとした騒ぎになったが、自身の状態も念のため把握する。私と
「今はレベル1。ちょっとした事で頭痛がきたよ。MP上限値は10、魔力は1、スキルはすっからかんと。一分間に1だけ魔力が回復と」
「「「レベル1!?」」」
「わ、私のレベル低すぎぃ!」
「
一応、肉体的には人族だから、付与自体はされているのね。魔力膜を表出させるだけの魔力は無いから視界に映したけど、後で解除だな。
「はーい。ていうかさ、ステータス見て思ったけど、私達って弾いてない?」
「あー、うん。弾いているね、見事に」
「上位存在には効かないってやつね」
「「「上位存在?」」」
姉さんが言葉がまさに問題の原因である。
きょとんズは姉さんにオウム返ししたので私が苦笑する姉さんに代わって答えてあげた。
「うん。魔法陣は人族指定だから、肉体的には強制付与が行われたけど・・・」
「「「けど?」」」
私は困り顔できょとんズに答えた。
「実は私達って人族には含まれないんだよね」
「「「は?」」」
本当なら母親達が教えないといけない話なのだけど、巻き込まれた以上は伝えるしかないよね。私は姉さんに目配せすると、姉さんは項垂れながら口を開いた。
「分類上は神族だよ。人族の身体の影響で巻き込まれてしまっていても種族が噛み合わずに魔法陣の影響下に置かれないんだよ。与えられたステータスが初期値より下にあるのも・・・」
困り顔の
「言葉が理解出来ないのも、それが原因だね」
「「「あ!」」」
教える立場ではないのに教えてしまったから
すると私達の元に、
「gw0jtあlbyえwいpwrvb:(」
「fえgtpbc6fl:)」
ハゲ頭と黒いローブを着た女魔導士が歩いてきて何やら語りかけてきた。
私達はきょとんと座ったままハゲ頭だけを見上げた。眩しい眩しいハゲ頭。さぞ昔はフサフサだったであろう名残が、左右に残っていた。
すると女魔導士が呪文を呟いて杖を向ける。
「これは鑑定魔法か何かかな?」
「そんな感じだと思う。今はステータスを?」
「ん? ステータス。あ、鼻で笑ったね、今」
「「「レベル1だから?」」」
「使いものになりませんなぁって感じか」
「両手を左右に拡げて首を左右に振ったね?」
「その嘆息だけは十分に分かるよ!?」
ハゲ頭と女魔導士は何かを呟いて私達から離れていった。役立たずとでも思ったのかな?
私達は言い知れぬ不愉快に見舞われたが、
「お前ら、奴隷以下なんだってな?」
「何なら俺達が買ってやってもいいぞ?」
「俺達の性奴隷には丁度いいな!」
不愉快を倍増させる男共が声をかけてきた。
その一言で頭にきた私は切れてしまった。
「せ、性奴隷ですって?」
「ああ、
「レベルが高いなら無事に生きてね。南無」
「「「あー、稀に見る激怒だぁ」」」
私は内なる力を練り上げて呪文を口にする。
「【
セミロングの髪が逆立ったけど仕方ない。
「
「それしか手が無いからじゃない? 姉さん」
目に見えない現象で紫炎が周囲に立つ。
「な、なんだ!? 急に立ち上がって?」
「そんなにイヤなのか? 性奴隷が?」
「別にいいじゃねーか、使えないなら」
また言った。そんなに死にたいと?
終いには
「い、いや! やめて!」
「いやよ、いやよも、ってな!」
私は苛立ちを浮かべながら纏った力だけで結界を敷いた。
「うぉ!? か、壁だと?」
それは空間を隔てる見えない壁だ。
一時的に安全な空間が出来たので、
「【
最後の鍵言を発した私だった。
直後、肉体へと付与されていた諸々が一瞬で書き換わる。スキルの全てが完全に有効化されてレベルと魔力はそのままだが周囲の言葉が一瞬で理解できた。
「奴隷商はまだか!? 早く呼び出せ!」
ハゲ頭や衛兵達の言葉も理解出来たのだが、
(要らないから売り払って資金にする、か)
解除と同時に種族的な自意識も目覚めてしまい、怒りから冷静になってしまった。
まぁ使えない女共はそれしか手が無いよね。
とはいえ身の危険は変わりないので、
「姉さん達もやった方がいいよ。相当不味い」
「「ふぇ?」」
「あのハゲ、面倒な輩を呼び込む、みたい」
「面倒な輩?」×5
背後で佇む姉さん達にも解除を勧めた。
「
「あ、ああ、そうだね、うん」
「
「私達を奴隷商に売るってさ」
「は?」×5
それを聞いた姉さんと
「【リ・メインス・ユーラ・エナミーア】」
白炎と緑炎が周囲に立ちこめる。
姉さんのロングヘアと
その間の私は三人に向き直り、
「「「え?」」」
「【
私の力を用いて強引に封印解除を行った。
三人の周囲では空炎と金炎と灰炎が立つ。
少々強引過ぎたからか恍惚な表情だったが。
「「「感じちゃったよぉ」」」
「三人は何を言ってるのよ?」
まぁ強引に引き出したようなものだしね。
これらの現象も見える者しか見えないが。
あとは野郎共を滅するだけと思い私は振り返りながら神力を練った。暴言は駆逐しないと。
だが、私達の封印解除の後、
「奴隷商が来られました!」
来なくていい者が宮殿内へと訪れた。
姉さんは扉を視認して溜息交じりに呟いた。
「奴隷商は、お帰り下さい」
室内へと入ってきていた恰幅の良い大男が突然消え失せた。
「なっ!?」×3
「奴隷商は何処だ!? 今すぐ探せ!」
「はっ!」
「と、突然消えた?」
「何がどうなっているんだ?」
「はて?」
「貴方達も一緒にどうぞ」
私が落雷を見舞おうと神力を練っていたら、姉さんが先んじて処していた。
「勇者様!? 今度は勇者様達が居ないぞ!」
「探せ! 何としてでも探すんだ!!」
「はっ!」
姉さんは〈空間転移〉スキルでログアウトもとい奴隷商の檻へと男共を送っていた。
飛んだ先を〈遠視〉したらそこだったから。
「ね、姉さん?」
「ここで落雷は不味いよ、
「で、でも」
「どちらが勇者か分からなくなるよ?」
「あっ」
姉さんは姉さんで冷静だったらしい。
(惑星の頃は手当たり次第、消滅させていたのに姉さんも学習したんだね・・・)
私も冷静になり神力を拡散させた。
まぁ闇精霊共が周囲に群がったけど。
姉さんはイヤそうな顔で逆立った髪を撫でつける。
「学習って。これ以上の巻き込まれがイヤなだけだよ」
私はバツの悪い顔で周囲を見回す。
「思考を読まなくても。でもさ? いくら巻き込まれがイヤでも、追い出しは無いんじゃ?」
「それに得体の知れない何かをしたって事で」
苦笑しつつ現実を示した。
姉さんはポカーンと右頬を掻く。
「あっ。衛兵達が周囲に勢揃いっと」
怒りに震えるハゲ頭と衛兵達に睨まれた。
幸いなのは、私が敷いた結界で刃が通らない事だろう。叩きつけても刃こぼれが起きるだけで傷一つ付いていないから。魔法を撃っても跳ね返ってしまい術者が大怪我するだけである。
魔力製と違って結界密度も高いしね。
私達は中心部に固まって話し合う。
「これが魔法だったなら可能性は微レ?」
「でもレベル1で使える魔法ではないしね」
「調べられる前に解放すれば良かった?」
「それをしたら御一行入り確定だったね」
「状況を打開する術ってなんだと思う?」
呆然と座ったままの
「「「というか理由を教えてよぉ!」」」
「「「あっ、忘れてた!」」」
状況が読めていないのはこの子達もだよね。
自分の存在が一体何なのか、とか。
何故こんな事になっているのか、とか。
すると
どういう意味で長期戦かって?
「時間加速したから、ここで語ろうか?」
「いきなり最大加速って、
「久しぶりだもん! 仕方ないじゃん!」
「このままだと十年は過ごしそうだね?」
「「「十年?」」」
「一秒経過する毎に一日が過ぎるんだよ」
「「「ふぇ?」」」
衛兵達を無視して理由語りするためだった。
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