ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜
白ゐ眠子
第1話 フラグが立った。
〈七月二十一日・午後八時〉
それはいつもと違う夏期休暇の帰省だった。
「おーい、
「ま、待ってよぉ! お、お釣りはいいです」
「あ、ちょっと! お客さん!?」
いつもの夏期休暇と異なり、私達は大荷物を抱え、制服ではなくお気に入りの私服に着替えたうえで、地元へと向かうバスを待っていた。
私達が居るのは学校の最寄り駅のバス停だ。
地元は高速バスで何時間も移動して、母さんが操船する船に乗って帰る、超の付くド田舎である。無人島を開拓したとか聞いているね。
「ギリギリセーフ! トイレが激混みだった」
「
「うそ! あ、一緒に挟んでた・・・」
列に並んでいる私達は三つ子の姉妹だ。
姉の
私が
私達は共に十六才の女子高生である。
「姉さん、買ってきた駅弁、開けていい?」
「せめてバスに乗るまでは、待ちなさい!」
「はーい!」
そこに
「美少女なのにこういうところが残念だよね」
「そう言う
「どう、とは?」
「いつも通り、穿き忘れてないの?」
「さ、流石に今日は穿いてるわよ」
「「短パンのパンツの線が見えないよ?」」
「あ、忘れてたぁ。寮内でのノーパン生活に慣れ過ぎていたから・・・」
「残念はそっくりそのままお返しします!」
「うぅ。
「「ほいほい」」
名字は三人共が同じなので割愛するが
その学校も、今はもう無いけれど。
「そういえば転校手続きは終わっているんだっけ? 母さんは何も言ってきてないけど?」
「まだだよ、姉さん。試験自体は中高一貫の進学校出身だったから、不問になったけど」
私達が過ごしていた学校が潰れた理由は不明だが、いつぞやの騒ぎが原因のようである。
それは修学旅行で起きた大規模失踪事件だ。
旅行先から上級生が忽然と消え去り、暢気な母さんですら大慌てだったと聞き及んでいる。
どんな理由で大慌てだったのかはさておき。
私達や下級生もそのあおりを受けて夏期休暇に併せ地元の学校へと転校を余儀なくされた。
「ああ、書類提出は自分で行えって事ね」
「そういう事だね。地元駅に着いたら母さんが送ってくれるとか言っていたし」
「提出して夏期休暇明けに再登校が確定か」
「雨が降ろうが槍が降ろうが船で登校かぁ」
するとパンツを穿き終えた
「それって小学校以来じゃない?」
「私は母さんのプレジャーボートで向かうけど!」
「ウチもウチも!」
それを眺めた姉さんは苦笑しつつ、
「うちなんて漁船だもんね〜」
「うん。少々血生臭い、ね?」
「何処で買ったんだろうね、あれ?」
私と
「中古だったとか言ってたけどね」
「母さんがレストアしたのは確かだよ」
「ホント、何でも出来るよね? あの人」
「伊達に・・・って事でしょ」
「「分かる」」
姉さんが言葉を濁して私と
今もきょとんとした表情で互いの顔を見つめ合っていた。
「「「???」」」
そんなバス待ちの列は私達の番になり、大荷物を運転手に手渡してからバスに乗り込んだ。
座席はそこそこの空きが目立っていて、
「それで、姉さん? どの席に座る?」
「手前でいいと思うよ。運転席が見える場所とか」
「姉さんはホントに好きだよねぇ。運転席」
「当然でしょ!」
「私は早く駅弁が食べたいからここにする!」
「
「酔って辛い目に遭いそうな予感がする」
私達姉妹は勝手気ままに席に着いた。
残り三人は少し距離がある奥へと向かった。
「それで
「う〜ん、トイレに近い場所がいいかな」
「
「
「それ、今は関係なくない?」
その際にクチャクチャとガムを噛んでいた、如何にもナンパな男性達が声をかけていた。
この時期になると湧くよね、あの手の男共。
一人はプリン頭な金髪の優男。
「君たち可愛いね?」
一人は黒髪長髪のサングラス。
「これから旅行なのかな?」
一人は茶髪の短髪で筋肉質な大男。
「どうせなら俺達の椅子の近くに座りなよ」
三人揃ってアロハシャツを着ていた。
これから南国に向かうのか知らないけど、このバスは北国行きだよ? そのまま向かっても飛行機に乗り換えない限り南国に行けないよ?
私から見ても反応に困るような態度だった。
「あれって定型文なのかな? 服装といい色々と不一致が過ぎるよね」
「もぐもぐもぐ。気にするだけ損じゃない?」
その間の姉さんは我関せずで運転席を眺めて隣の
唯一、私だけは背後を注視して可能とあらば割り込むつもりでいた。
しかし、
「
「どれどれ。あ、凄い美味しい! 何処の?」
「新作だって。母さんから送られてきたの」
「へぇ。
「私にも頂戴! ん〜! 美味しい!」
「
私の隣で駅弁を頬張る誰かさんのように。
男達は無視された事で気持ち悪い笑顔から苛立った表情へと改める。
「チッ。無視かよ」
「興が醒めた」
「花より団子か」
妙に合っているようで合っていない言葉を口走り、中ほどにある自分の席に戻っていった。
私はそんな言葉を発したプリンを眺めつつ、
「花、ねぇ? 例えるならラフレシアかな。あれは。香水が臭くて堪らないし」
ボソッと毒づいた。
なお、隣の妹は早々に駅弁を食べ終えて、コンビニで買ってきた、みたらし団子をもぐもぐと咀嚼していたのは言うまでもない。
「私は、普通に、団子が、いいかも」
「
「
「もういいの?」
「運転手さんが戻ってきたから」
「そう」
そうして私達の乗る高速バスは四十五人もの乗客と運転手を乗せて、目的地へと静かに走り始めたのだった。
◇ ◇ ◇
〈七月二十一日・午後十一時〉
バスが高速道路を走り始めて直ぐの事。
「この都市もこれで見納めだねぇ」
「そうだね〜。さらば、海無し県!」
「姉さん、それは言ったらダメ!」
「えーっ!」
私達は車窓を眺めながら離れ行く地方都市に別れを告げた。まぁ姉さんだけが行ったけど。
すると姉さんは補助席に移って注意する。
「それよりも
隣の女性に詫びを入れながらね。
既に寝ていたみたいだけど。
「分かってるよ。ちゃんと最後まで食べたし」
「分かってるならいいけどさ」
私は呟く姉さんに対し、
「姉さん、大丈夫だよ。米粒一つ残さず食べて、最後まで
頬を引きつらせながら教えてあげた。
食後の
隣で見てて私としても引いたよね、これは。
「それはそれでどうなのよ? 女子高生?」
「もったいないからいいもん!」
「「もんって」」
私と姉さんは
本当に食い意地だけは半端ないよね。
私と姉さんはプイッと外を眺める
「一体誰に似たんだか? 母さんかな?」
「それとも、引きニートの父さんかな?」
「引きニートって言うなって怒られるよ?」
「でもさ、例の件からずっとあのままじゃん」
「まぁ、言いたい事は、分かるけどね?」
例の件、それは父さんの管理物が自壊した件である。どう自壊したのか私は詳細を知らないのだけど、寝静まる時間に爆散したとの事だ。
あの時は昼行灯な父さんも大慌てだった。
大慌てで昔の管理物と総交換していたし。
「あれは母さんと出会って創ったブツだっけ」
「思い出の品だとか言っていたね。母さんの大きなお尻を大陸で表現したとか、酒の席で」
「何を言ってるんだろうね、あの引きニート」
「姉さん、また言ってる」
今では管理物の耐用年数の関係で付かず離れずで引きこもっているのだ。また壊れては堪らないって感じだね。それなら新しい物を創ればいいのに愛着があるから二度目は無いらしい。
私は管理物が壊れた理由を知らないので、
「それで、それが壊れた理由は分かったの?」
当時、手伝っていた姉さんに聞いてみた。
「母さんが調査したら低層の主が、勢い余って表層に向かって消し飛ばしてしまったってさ」
「表層に向かって? 勢い余って消し飛ばすようなゴミが入り込んでいたの?」
「丁度、あれがあったでしょ?」
あれかぁ。私の嫌いなあれがあったと。
今はバスの中なので固有名詞は使えないが、
「ああ、なら、その時の戦闘でゴミが?」
私達だけが分かる単語に変換して会話した。
「主軸に激突して表層に向かって弾けたって」
「一体何処で戦闘してるのよ、何処で?」
「ゴミがそこから侵入したんだって。大きな大穴で入りやすいって理由で。本当なら迷宮を通り抜けていく規定ルートなのに、迷宮前に強すぎる女冒険者が居たせいで入れなかったとか」
「ああ、予定外の行動で主が出張ったか」
これだから、あれは選んで欲しくないんだよねぇ。私の将来では確実にその手段が選ばれる未来しか来ないからこそ、大嫌いなのだ。
「それで結果的に?」
「引きニートも張り付く羽目になったと」
「時々でいいから焼き芋でも焼けばいいのに」
「焼いてはいるらしいよ。卓上コンロで」
そんなに離れたくないか。
ボトラーみたいな真似までしているしね。
まるでゲームに没頭する
私は呆れながら舟を漕ぐ
「一体何処で芋を焼いてるのよ?」
「さぁてね。私達には関係の無い話だけど」
「そうだね。例の件も数年先の予定だしね」
「お、お芋! あれ? 焼き芋は何処?」
「「おいおい」」
そうして私と姉さんが苦笑した直後、
「「「!!?」」」
フロントガラスが輝き、衝撃と慣性のまま、地面へとお尻をぶつけて転がった私達だった。
「いったーい!」×6
「ギャー!」×40
その後、何とか起き上がって周囲を見回すと何処となく見覚えのある場所が拡がっていた。
(ど、何処かの宮殿? 何処で見たっけ?)
一緒に転げたはずの乗客達も、きょとんとした顔で周囲を見回す。怪我してもおかしくないのに誰もが怪我していないね? なんで?
例外はお尻を押さえて蹲る姉さんだけだ。
「ね、姉さん? 大丈夫?」
一人だけ補助席に居た事が災いしたのかな?
「痛たたたた。お尻が真っ二つに割れたよ〜」
「一つに繋げてあげるからこっちに貸して!」
「け、結構です!」
「それよりも、周囲見て」
「周囲? あら?」
「ここ何処?」×4
周囲には中世ヨーロッパ風の服装を着た男女が私達と同じ困惑の表情で見つめていた。
「これって、もしかすると、もしかする?」
「もしかしなくても、もしかするか、も?」
「姉さん達の言ってる意味が分からないよ!」
すると一人のハゲ頭がプリン頭に話しかけていた。
「qあwせdrftgyふじこlp;」
「分かりました! 御助力致します!」
そして私達だけ言葉が分からなかった。
「何を言ってるの、このハゲ?」×6
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。