第3話 周辺確認は行おう。


 事の経緯を三人に語り始めるのは小ぶりな胸を張って偉そうに語った姉さんだ。


「率直に言うと、私達は神族です!」

「「「はぁ?」」」


 どちらの姉さんって一番上の姉さんね。

 体型だけは私も姉さん達も大差ないけど。

 今回は結依ユイが展開した、薄い空間を何層にも重ねた積層結界の中に、私が時間加速結界を展開して話す時間を与えたのだけど、


「姉さん、それだけ語るってどうなの?」


 私も結依ユイも、姉さんのあんまりな態度に呆れが溢れ出てきてしまった。


「結論だけ語られても困るだけだよ?」

「結論から理由を語るのは必要な事だよ?」


 胸を張っていた姉さんはその場にイスを創りだして、大変大きなお尻をドカッと乗せた。

 百センチもの大きなお尻だけどね、うん。

 お尻の痛みは解除と同時に治まったもんね。

 結依ユイも床に座りっぱなしはあれなのか、ソファーを創って床に置いた。私はテーブルを創って茶器と紅茶・持ち込めなかったチョコレート菓子を創ってテーブルに並べた。

 そしてきょとんズへと手振りで座るよう促した私達は姉さんの論調に応じるつもりもなく、


「必要って。大事なのは種族ではなくて若結モユ達が私達の妹だって事を話さないと」

「そうそう。芽依メイ達の娘として生まれてはいても中身は大事な妹なんだからね?」

芽依メイ達も大事な妹なんだけどね」

「私達が最後に地上へ降りたようなものだし」

若結モユ達が生まれて揃うまで待ってね」

「慣れない子供の憑依体を使って育ったけど」


 捲し立てるように一気に語ってあげた。

 捲し立てる話し方は母さん譲りだけども。


「「「わ、わ、私達が三人の妹ぉ!?」」」

「そうそう。新神かつ年齢イコールな妹達」

「但し、私達の実年齢は聞かないでね?」


 実年齢を聞くと『十六才? 嘘でしょ!』

 ってなるので止めて欲しいです、はい。


「兄さんが三千百十七才で次に姉さんがくるからね」

「自分でバラしてるよ、実依マイちゃん」

「姉さん、ガーベラ、要る?」

実依マイちゃん、顔が恐い! あとその右手に持つ花の茎を、私に向けないで!?」


 向けて欲しくなかったら、この件へのツッコミを入れないで欲しいな。私は右手に持つガーベラを外に向かって〈空間転移〉させた。

 何か頭に刺さったとか聞こえたけど。

 そして三人にチョコレート菓子を手渡して、


「簡単な紹介はともかく、次はこの世界についての説明だね」


 お尻を押さえて怯える姉さんと、紅茶を淹れていた苦笑中の結依ユイに目配せした。


「姉さん?」

「は、はい。属性説明のメモ帳を用意して」

結依ユイも」

「りょーかい。レベルとスキルでいいね」

「それだけでいいと思う。私達は国の思惑とか各種事案には基本不干渉だし」


 若結モユ風結フユは真剣に、


「こ、この世界について?」

「三人は何か知っているの?」


 私達姉妹へと問いかける。

 若結モユはゲーマーの血が騒ぎ、風結フユは生き延びる事に必死のようだ。

 私達は簡単な事では死なないけどね。

 チョコを持つ怪訝けげん知結チユは呟いた。


「というか不釣り合い感がパない」


 落ち着かせようと用意した代物なのに。

 不慣れな異世界より慣れてる元世界のね。


「素材神が一番恐ろしい事だけは理解してね」

「姉さん?」

「な、何でもないです!」


 まったく、失礼しちゃうよね?

 それに、その呼称を呼ぶのは早すぎるし。

 説明前に呼ぶってどうなの、この知識神は。

 ともあれ、先ずは知識神からの説明である。


「この世界の魔力には属性があってね・・・」


 魔力属性。この世界の属性は世界を統べる属性神と眷属である精霊が居る事で魔法を行使出来る。属性神からの神力が精霊に与えられ精霊が魔力に変換して人族や魔族へと与えるのだ。

 その属性は全部で十種存在する。

 上から順に以下のように並べられ、


〈聖・闇・風・水・無・火・土・氷・雷・鉱〉


 聖と闇は互いに反発しあい、無と風はどの属性にも影響を与える。残り六つの属性は互いに影響したり、三竦みで反発したりしている。

 それぞれの属性には魔力色が存在し、


〈白・紫・緑・青・銀・赤・茶・空・金・灰〉


 魔族や〈魔力感知〉スキルを有する者には、その者の主属性が何か簡単に判明するのだ。


「その属性神とは私達の事だけど、この世界の現状では管理物が代替している関係で基本居ても居なくても問題ない事になっているの」


 問題ないのに呼び出される不思議。

 この召喚は完璧に不具合に類するよね?


(引きニート早く気づいて仕事して!)


 私の慟哭はともかく、質疑応答が始まる。


「はい、質問!」

若結モユちゃん、どうぞ」

「それって私達も含まれるの?」

「もちろん。三人が対応するのは〈氷・雷・鉱〉の三つの内の一つ。私達三人は〈聖・闇・風〉だけどね」


 若結モユが氷属性・空色の神力。

 風結フユが雷属性・金色の神力。

 知結チユが鉱属性・灰色の神力。

 若結モユの母親が水属性で青色。

 風結フユの母親が無属性で銀色。

 知結チユの母親が火属性で赤色。

 残りが土属性の茶色で三人が生まれる前までは末妹だった居眠りババアである。


「は、反発してるはずなのに」

「なんで二人は仲がいいの?」

「属性はあくまで属性だからね」

「う、うん。別の意味で三竦みはあるけど」


 そうなんだよね。別の意味で三竦みはある。

 姉さんが怯えるようにお尻を隠すのは、ね。

 私も結依ユイが相手だと弱いけど。


「分かった! 実依マイがお尻に敷いて」

「今、何か言った? 知結チユちゃん?」

「な、何でもないです!!」


 失礼しちゃうよね?

 こんな可愛い女の子を相手にさ。


「それと個々に神名もあるけど、ここでは言わないよ。外で呼ばれる名前だけは教えるけど」

「「「名前?」」」


 それは姉さんが先ほど呟いた件である。

 姉さんこと実菜ミナから順に、


 実菜ミナは知識神/付与神。

 結依ユイは魔導神/託宣神。

 実依マイは素材神/迷宮神。

 芽依メイは予見神/商業神。

 吹有フウは伝達神/流通神。

 結凪ユナは調停神/医術神。

 果菜カナは促進神/鍛冶神。

 若結モユは結界神/氷結神。

 風結フユは時間神/雷鳴神。

 知結チユは空間神/鉱石神。


 被る分野もあるがそう呼称される。

 まだ未定な部分が三人にはあるけどね。


「か、母さん達も?」

「神様だったんだ?」

「私達もだよね、それ?」

「二人が動揺するのは仕方ないよ。知結チユ

「ああ、若結モユ達はべったりだから」

「親離れの早い知結チユならではの反応か」

「早いっていうか家に居なかった事が多いし」

「まぁ迷医である以上はどうしようもない」

「名医では? 実菜ミナ叔母さん」

「うっ」


 そして次は結依ユイによるレベルとスキルの説明である。


「先ずは【ステータス】と発すると、こんな感じで魔力の膜が出るの。私のは紫色ね」

「私は白色ね」

「私は緑色ね」


 といっても、私達が使えるスキルは生まれながらに所持しているので、新たに取得しなくてもいいから使い方だけを教える事になるけど。

 上位だから下位を取っても意味が無いしね。


「へ? 言葉を発しただけで出た!?」

「じゅ、呪文は?」

「必要ないよ。私達は基本、無詠唱でもいけるから。神聖語での魔法行使だけは必要だけど」


 私と姉さんだけは陰詠唱で行使したけど。

 わざわざ言葉に出さなくても、それを思い浮かべるだけで魔法を行使する事も可能である。

 魔力の代わりに神力行使すれば〈魔力感知〉スキルで見える事は無い。だがそれは自分が神だとバラす事になるので回避したい私だった。


(この世界に神が降りた話を知らない者が多いことが唯一の救いだったけど)


 短命な人族は知らない。魔族は知っているが今は気配すら感じない。亜人達も居るには居るが、遠方にてひっそりと暮らしているようだ。

 最後に闇の大精霊と精霊王が結依ユイの存在に気づいて近くに来ているのは黙っとこ。


(安易に神力の魔法行使すればそうなるよね)


 これが姉さんみたいにスキルによる行使なら精霊達は影響外なんだけどね。魔法を使う時だけは、どうあっても精霊の力を借りないといけないから。まぁ私も使ったから、無属性の精霊達が大騒ぎしているけどね、うん。

 その間の結依ユイは魔力膜を展開して自身のレベルを弄る〈水準昇格〉スキルの使い方を説明していた。ゲーマーの若結モユからは信じられないって声が響いてきたが。


「一先ずはレベル1だから一気に49引き上げて50に変更しようか。低すぎても面倒だし」

「え? そんなに上げられるの? 経験値は」

「必要無いよ。表記を見たら分かるけど」

「あ!? 数値化不可って出てるぅ!」

「間違ってもチートとか言わないでね」

「うぐぅ」

若結モユが沈黙したね」

「やっぱり思ってはいたんだね」


 一方の私と姉さんは結依ユイの説明を聞き流しながら、有効化していたスキル群を見つめて、話し合っていた。


「レベルもそうだけど、いくらかは偽装しておいた方がよくない?」


 耐性欄の隷属無効・状態異常無効も含めて。


「そうだね。見られて不味い代物が増えてる」

「え? あ、ホントだ。四字熟語かってレベルのスキル群が増えてるよぉ。いつの間に?」

「さぁ、寝てる隙に母さんが足したとか?」

「あ、あり得る。それはあり得るよ・・・」


 娘の許可なくスキルを創っては増やす母親。

 使い道のあるスキルならいいけどさぁ。

 そこで私はスキル群の真下の何かに気づく。


「というか〈権能操作〉の数値が消えて、有効だけになってるけど?」

「数値化出来ない機能が増えたとか?」

「ああ、上限を取っ払ったんだね」

「多分ね」


 私は姉さんと話しながら試しに〈権能操作〉スキルの〈宝物創造〉を使ってみた。


「わぁお! 使っただけで、ほら?」


 使ってみたら派手な長剣が出てきた。

 鑑定すると〈勇者の聖剣〉とあった。


「迷宮に設置するドロップ品が出来ちゃった」


 指定は100からだから頑張らないと持てないね。創造者は例外なく持てるし振れるけど。

 姉さんもそれには目が点だ。


「あらら、迷宮神の力が与えられてる?」


 一覧を見たら〈魔物創造〉とかもあった。

 ここで選ぶと地獄に変わるから止めたが。


「た、多分? これどうする?」

「外の者達に差し上げたら?」

「それがいいか」

「外には勇者も居るし、丁度良いでしょ」


 一先ずの聖剣は目立ち過ぎるので結界外へと投擲して床に突き刺しておいた。誰かの股間が切れたような絶叫が聞こえたような気がする。


(時空すら一時的に斬れる聖剣かぁ。所持者の属性次第では最高の部類じゃない?)


 聖剣を放り出した私は楽しみながら使った。


「他には何があるかな。あ、こんなのとか」

「今度は白パンが出来てるし。素材神の権能も素で使えるのね」

「うん。味は・・・懐かしい風味になってる!」

「どれどれ、おぉ! 美味い! 駅前のパン屋の白パンだね、これ?」

「入学前に食べ納めしてて良かったかも」

「これならいつでも?」

「食べられると思うよ?」


 予想外に私の権能は使えるようだ。

 まぁ自分達のために使う物ではないけど。

 すると説明を終えた結依ユイが、


「姉さんと実依マイだけズルい!」

「「「私達にも頂戴!」」」


 三人と共に涎を垂らしていた。


「仕方ない四人だねぇ?」

「仕方ないかもね。時間はズレているけど」

「朝食時だったね。時間はズレているけど」


 私は姉さんと顔を見合わせ、全員分のロールパンを作って、遅い朝食を始めたのだった。


(夕方に食べた駅弁も作ることが出来るかな? あ、出来た! 姉さんに見つかると面倒だから今後は〈空間収納〉の中で作っておこうっと)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る