増税円舞

奈那美

第一話

A国の情報広報機器は、連日のように「国防予算が、不足しています。いつなんどき起こるかわからない有事を想定して、今のうちから国防に使える予算を確保しておくべきです」と放送していた。

 

***

 

そりゃ、そうだ。

今でこそ大人しいけれど、虎視眈々すきあらばと舌なめずりをしているくにが周囲には控えている。

国外に限らず、国内も災害だなんだとお金はいくらあっても足りるということがない。

いつ起こるかわからない有事に備えるのは、分別あるオトナの考えとしては至極当然のことだ。


考えてもみたらいい。

“なにかあってから議論すべき”って言ってるそこのアンタ

アンタは、じぶんちに泥棒が入ってから捕まえるための縄を買いに行くのか?

泥棒に侵入されないように、あらかじめバリッバリのセキュリティ対策しているんだろ?

災害にあってから、避難所に持っていくための水や食料を買いに行くのか?

『もしものために日頃から準備しておきましょう』って告知に乗っかって防災グッズ買って準備してるじゃないか。

前以ての大事さが、妙なところでは軽く扱われるというのは考えものだ。

でも、なあ。

確かに消費税だとか住民税をガンガン上げられるのは困るよな。

燃料の値上げも困るし。

 

***

 

そんな中、贅沢な嗜好品とされる『たばこ』と『酒』の増税で国防費を一定程度の額、賄うことになった。

どうもいにしえのどこかの国が、そういう方法をとったとかとらなかったとか。

知識だけは豊富な人たちの誰かが、古い文献に記載があったことを思い出したらしい。

嗜好品を買うことができるなら、懐に余裕があるということで。

少しくらいの増税に文句は言わないでしょう?とでも言いたそうだ。

その増税のおかげで予算対策の件は一旦は、落ち着いたかのように見えた。

しかし、嗜好品は日常生活にはなきゃなくていい“贅沢品”。

庶民は懐具合が悪くなってくると、消費を控えるようになった。

また健康に及ぼす問題から消費を控えようという社会的な動きも出てきだし、税収が伸び悩んできた。

 

数年が経ち周囲りんごくとの関係が悪化してくると、国防に対する予算要求の額が増加し財政がひっ迫したため、さらに酒とたばこの税額を増やすことにした。

今度は、全国民が生まれたときに強制的に支給される“オウンカード”にプリペイドとポイントの機能を追加した。

カードを使って酒やたばこを購入すると、商品本体の金額の5%分をポイントとして還元し、次回以降の酒・タバコの購入に充てることができるという仕組みだ。

さらにカードでたばこや酒を購入した場合,医療費の補助をするというサービスも追加した。

ポイントと医療補助を目当てに、カードを使っての購入は増加した。

たばこと酒の購入が増えた分の税収は増加したが、ポイントに充てる分と医療費が増額した分で税収のマイナスがさらに増加した。

そして一部の国民しか優遇しない仕組みによる軋轢は、国民の間に広がっていった。

 

たばこ税・酒税の利用先を国防予算に限定したせいで、飲酒や喫煙をする者たちは『俺は愛国者だ!』と主張し、大きな顔をするようになった。

それどころか、体調その他で禁煙・断酒せざるをえなかった人たちのみならず、体質の関係で飲酒・喫煙できない人たちを『非国民』扱いしだしたのだ。

ある限られた者だけが優遇されるという現状が続くことは、国民感情的によくないのではないかと考えた政府は、酒・たばこを使用・利用できない国民のために、菓子などの嗜好品や高級食材、装飾品にも『国家安泰税』という名目で税金をかけることにした。

国家安泰税は国の安泰のためなら、福祉だろうと医療だろうと何に使用しても構わないことにした。

愛国者だったら、国の安泰ために使うお金を税金として納めるのは苦にならないはずだという考えだった。

そして酒・たばこと同じメリットをカードに付与した。

買えば買うほど、安く買える。

病気になっても、医療費の補助がある。

酒もたばこも、高カロリーな菓子や高級食材もどんどん売れた。 


平等感が出たからか、国民同士の諍いはくなった。

争う代わりに、自分の欲求を満たすことにエネルギーを費やした。

その結果、生活習慣病を発症する国民が激増した。

 

 

 

A国は財政難で破綻し、隣国に統合されてしまった。

 

 

 

『古文書に偽の文書を紛れ込ませたり、スパイを紛れ込ませて国民同士争わせたりと面倒な手間はかかったが。これでA国地下の希少鉱物は我々のものだ』

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増税円舞 奈那美 @mike7691

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