「異性愛規範(トランスジェンダー)ってどう思う?」
「なあ、後輩くん、性別についてどう思うかい?」
「突然ですね。そりゃあ、先輩は女性で、僕は男性ってことですよね」
見たままに答える。今日の題材は性別らしい。
「そうだね、だけどそれは見た目の話だ。今や性別までも自由な時代だよ、後輩くん」
「ああ、トランスジェンダーというやつですよね。聞いたことあります」
確か身体とは違う性を自認している、という感じだったか。古い言い方だとおかまとか、そういうのを言うらしい。
「後輩くんはトランスジェンダーについてどう思うかい?」
「どうって、考えたことありませんでした」
「まあ、そうだね。私もあまり詳しくは知らないよ。だけどそうだね、彼らが訴えることで、他の人と同じように扱ってほしいというものがあるよね。だけど彼らを差別することに使われる思想で異性愛規範と、シスジェンダー規範という物があるんだ」
確かに僕でも彼らが差別されたり、不当な扱いを受けたり、というのは聞いたことがある。「そういえば日本では同性愛が認められてないですよね」
「あー、まあ、そうだね。だけどそれはトランスジェンダーというわけじゃないよ。確かに難しいけどね、同性愛とトランスジェンダーは別で、合わせてLGBTQに括られたりするね」
「それも何か聞いたことがある気がします」
そういえばトランスジェンダーは自身の性についてだった。同性愛だったりは、恋愛感情を抱く対象、という話か。
「そこらへんは難しいからね。今回はなんとなくで聞いておいておくれ。まあ、まとめて性の問題とでも思ってくれればいい」
「わかりました」
今回は彼らを取り巻く環境、と言ったところだろうか。確かに聞いてるだけで内情は難しそうだ。
「それで異性愛規範についてだが、その名の通り、異性愛こそが一番であり、唯一の性的指向とする考え方だ。シスジェンダー規範だが、シスジェンダーというのがトランスジェンダーの反対の意味、つまり君のような男性として生まれ、男性として生きていこう、という人たちの事だ。つまりシスジェンダー規範はそういう人たちこそが唯一で志向という考え方だね」
「……僕は今まで生きて来て、当然と思っていた、普通だと思っていたことが唯一で一番、ということですか」
これがトランスジェンダーについての話でなければ、そしてトランスジェンダーについての認識がまだまだ広まっていない時期であれば、当たり前の考え方だと思っていたことだ。実際、男として生まれて来て、当たり前に男だと思い、いつか好きになった女の子と結婚するという風に思って来た。
「だけど、今はもうそういうわけではないってことですよね。その考え方は正しくないと」
「さーて、どうだろうね。この考え方、生物的には至極全うで、当然の事だと思えるな。だって生物っていうのは根本的には自己複製をするものだよね。なら自分の生まれながらの性で、その番となる相手と子を育むのが生物としての正解だよね。なら、その考え方は間違っているとは言いがたいよね。人間も生物で、自己複製をしなければいけないからね」
確かに先輩の言うとおりだ。生物としてはその考え方は絶対で、必然である。生物によっては同性でも子を産めたり、性転換が出来るものもあるが、僕たち人間はそういうわけではない。なら生物としてそういう風な考え方は異端なものなのかもしれない。すると、異性愛規範の人が主張することは普通なことなのか?
「混乱しているようだね、後輩くん」
「結局先輩が言いたいことってどういうことなんですか? 異性愛規範が正しいということですか?」
「そうだねー、まあ、さっき言ったことは一つの考えではあると思うよ。こういう明確な根拠があるからこそ異性愛規範やシスジェンダー規範は強いし、その分トランスジェンダーの人たちは差別に曝されるっていう話だよね。」
「やっぱりそういうことですか」
先輩にしては珍しく、規定な考え方を肯定している。なんだか不自然な気がするし、どことなくむず痒く感じる。
「確かに普通の生物はそうだろう。自然界の生物はそういう風に子孫繁栄を成そうとしているからね。だけど人間はもう既定の生物、というものから逸脱しているかもしれない。増えすぎて、今更数を増やす必要は種としてはないだろうし、なんなら多すぎるくらいだ。なら、そういう生物としてはおかしいことだけど、非生産的な考え方、生き方になってしまってもおかしくない。それでなくても生物として、そういう珍しい特性を持った個体が一定以上存在するようになった。それでよく認知されるようになった、みたいにも取れるよね。……これは、完全に私の考えだけどね」
「ああ、確かに人間が唯一の例外っていうこともあり得るのか」
「そうさ。唯一だからこそ、他の比較できない。新しい見方だから、参考になるものとかもそこまでない。だけど、理解や納得は出来ると思うんだ」
トランスジェンダーの人たちが差別される要因の一つに対しての、先輩なりの解釈だろう。異性愛規範が正しいという根拠を考え、その上でそれが違うかもしれない、という意見を出す。全く別視点で物事を考える先輩は素直にすごいと思う。そしてあまり頭の良くない僕はありきたりなことしか思い当たらない。すごいな、と。
「まあ、私個人からしたら、異性愛規範は他人に強制するから嫌いだけどね。強制の部分がなければ、まあ、どっちでもいいかな。私は別に同性愛者ってわけでもないし」
「確かに人に強制するのはよくないですよね」
先輩はやっぱりフリーダムな感じがする。束縛というものは毛嫌いしていそうだ。だからこそ片方に依存せずにいろいろと話せるんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます