第20話
ヌエと合流し、ジョンヌ孤児院への侵入を画策していると、ちょうど黒いローブを羽織った人がじょんぬ孤児院へと向かっている様子がい受けられた。
そいつらはどこか気の抜けた様子で談笑しており、その様子を発見した俺はすかさずそいつらの身ぐるみを剥がすことを決意した。
「おいヌエ」
「む、なんじゃカオナ」
「そこにいる黒いローブを着た奴ら、あいつらのローブを奪って返送すれば侵入は可能だ」
「おお、それはなかなかに名案だなカオナ」
ヌエに最低限の説明をした後、いざ作戦開始と意気込んでいると、ヌエが突然黒いローブの二人組のもとへと走り出した。
そして、何か話し込む様子をいせていたかと思うと、瞬間、まぶしい閃光が視界を埋め尽くした。
かと思うと、次の瞬間には黒いローブの者達は地面に倒れこんでおり、ヌエは俺に向かってピースサインを見せつけてきていた。
わけのわからない展開であるにもかかわらず、ヌエのピースをしている姿があまりにも可愛すぎてその場で動けなくなりそうになった。
だが、目的を思い出した俺はすかさず黒いローブを奪い取り、ヌエと共に返送してジョンヌ孤児院に侵入することにした。
孤児院は思いのほかオープンであり、侵入する際には軽く会釈するだけで特にボディチェックなどがされることはなかった。
ドキドキと胸が高鳴る展開に緊張しながらも、いかにも宗教的な佇まいの孤児院へと侵入すると、中はきらびやかで温かい光で包まれていた。
「こいつは、随分とまぶしい場所だな」
「そうじゃな、わしには堪える場所じゃ」
「同意見だ、それよりもチビ達はどこに反応している?」
俺の問いかけに、ヌエはチビ達にカーラとミーコの居場所を特定しようと必死になっていた。すると、チビ達は何か見つけた様子を見せると一目散に孤児院の地下へとつながらう階段の方へと向かっていった。
俺はヌエと共にあたりの目を気にしながらチビの後を追って孤児院地下へと向かうと、ろうそくの光だけが頼りの薄暗い階段が長く続いていた。
あまりに薄気味悪い状況の中、幾度か俺にぶつかってくるヌエは、謝りながらも俺との距離を近めに保ってきた。
「おい、近いぞヌエ、歩きにくい」
「す、すまぬ、足元がおぼつかなくてだな」
「足元云々じゃないな、とにかく距離をとれ、何かあったときに共倒れするのはごめんだ」
「そういわれてもわしもこれで精いっぱい距離をとっているつもりなのじゃ」
何が精いっぱいだ、まさかこの状況に臆しているわけじゃないだろうな子の魔女っ娘は。なんてことを考えていると、徐々に薄暗い空間からどこか明るい場所につながっていく気配を感じた。
そうして階段も終わり地下にたどり着いた俺たちは目の前に広がる光景に絶句した。
そう、それは孤児院とは名ばかりの宗教的で邪悪に思える空間が広がっており、そこの一つに邪悪な祭壇と邪悪な像がセットになっておかれているのに気づいた。そして、その祭壇には見覚えのあるミーコの姿があり、そして、その近くには縄でぐるぐる巻きにされてミノムシのようになったカーラの姿があった。彼女は目隠しをされている様子であり、なんとも悲しい姿をしていた。
俺は、最低限の注意を払いながらあたりに人がいないことを確認し、後方からの人の気配も感じられない状況の中、俺はすぐさまカーラのもとへと向かった。カーラは俺の足音に恐れをなしたのか、少し驚いた様子を見せていたが俺の声に気づくと、すぐに俺の名前を呼んだ。
「カオナ、カオナだ」
「あぁ、俺だ安心しろ、今すぐ縄を解いてやる」
俺はすぐさま縄を引きちぎり目隠しを外してやるとカーラは一目散に俺に抱き着いてきた。
「おっと、大丈夫かカーラ、何かされていないか?」
「大丈夫、暗くて怖かったけど、動けないだけで何もされてないよ」
カーラの救出に成功した俺は、そのまま次はミーコの救出に向かおうとしていると、祭壇に横になっているミーコがもぞもぞと動きだし、立ち上がる様子を見せていた。どうやら彼女のこのタイミングでちょうど目を覚ました様子であり、俺はすぐさま彼女に駆け寄った。
「おぉ、大丈夫かミーコ、今すぐここを出よう」
そんな言葉を掛けながら彼女そのそばに歩み寄ると、彼女は暗い表情とどす黒い瞳を俺に向けてきた。その様子はどこか奇妙であったが、彼女の素顔を見れた事に喜びを感じていると、後方で騒がしい声を聞こえてきた。
俺はそうやらヌエによるものであり、その声に耳を澄ましてみると、彼女は「離れるのじゃっ」と叫んでいるように聞こえた。
果たして、それが一体何のことかわからない俺は「離れろ」という言葉の意味を知りつつもどうしてその言葉を行動に移さなければならないのかと悩んだ。
だが、そんな事を思ったのも束の間、目の前にいるミーコが俺に近づいてきたかと思うと、彼女はすさまじく素早い動きで俺の体を蹴り飛ばしてきた。
主に腹部に伝わる衝撃を受け止めながら自らの体が宙に浮くほどの威力を持っていることに気づいたときには、俺はすでに天井を見上げていた。そして、広がる天井の景色の端からカーラの顔がのぞき込んできた。
「カオナッ、大丈夫カオナッ?」
少女に心配されるのはなんと喜ばしい事だろう、何ならこのままカーラに看取られるっていうのも悪くない。そんなことを思っていると全身にびりびりと電流が走る感覚に見舞われた。
それは、おそらくカーラという美少女に心配されているから、興奮のあまりに電流が走ったとかいう詩的な表現ではなく、明らかに物理的に電流を感じていた。
そして、その電流は小刻みにリズミカルに俺の体を突き抜けてきていた。このおかしな状況の中周囲を見渡していると、何やらヌエが俺に向かって電撃を飛ばしてきているのに気づいた。
しかも、ヌエは俺に向かって「喰らえ心臓マッサージ」などと言いながら電流を放ってきていた。
なんとも便利な魔法だと思いながらも、俺は自らが生きていることをヌエに伝えるべく大声を上げた。
「ふざけるな小娘、俺は死んでいないぞっ」
「・・・・・・ふぇ」
素っ頓狂な声を上げながら、ようやく電流を止めてくれたヌエは涙目になりながら俺のもとへとやってきた。
「おぉ、大丈夫だったのかカオナ、死んでしまったかと思ったのじゃ」
「お前の電流で殺されそうだったがな」
「む、あの電流はわしの復活の魔法じゃ」
「冗談はよせ、今はそんな状況じゃないだろう」
「あ、そうだった」
なんとも間抜けな状況の中、再び緊迫した世界に戻ろうとしていると、目の前にはいつの間にか数人の人だかりができていた。そいつらはすべて黒いローブを身にまとっており、手には物騒な鈍器が握られていた。そして、どういう訳かミーコは黒いローブの者達と揃って立っていた。
この状況、どうにか説明役の誰かが出てきてほしいものだ、そう思っていると一人の黒ローブがフードを脱いで顔を見せてきた。
その顔は、幾度か目にした勧誘ババアもといお姉さんであり、彼女は嬉しそうに笑いながら俺たちのもとへと歩み寄ってきた。
「これはこれは、パパさんではありませんか。まさかこんなところで会う事になるとは思っていませんでしたわ」
まるで悪役のような口調と登場に、ちょっとしたワクワクがこみあがってきたが、状況が状況なだけに、そうもしていられない、第一目標はミーコの奪還だ。
「おい、そんなご挨拶はいらないぞ、そんな事よりも俺はミーコについて問いただしたいのだ」
「ミーコ?あぁ、この子の事ですね」
勧誘ババアはミーコに近づくと、彼女の頬にキスをして見せた。
「なっ」
「うーん、なんとも美しい少女、そして柔らかい頬っぺた。もちもちのすべすべの頬っぺたは実に素晴らしい」
なんとうらやましい・・・・・・ではなくて、薄気味悪い光景だ、しかもミーコは何ら気にしていない様子でボーっと突っ立っている。
「くそったれ、いたいけな少女にキスするとはとんだロリコンババアだなこの野郎」
「な、なんですってっ」
俺の言葉に怒った様子を見せる勧誘ババアに、俺はさらなる追い打ちを仕掛けるために近くにいるカーラとヌエに応援を要請することにした。
「なぁお前たち、お前たちもそう思わないか?」
ふたりに目を向けると、カーラはきょとんとした様子で、そしてヌエは険しい顔で俺を見つめてきていた。
「なんだその目はヌエ」
「いえ、カオナがそれを言うのはどこか不思議というか、同じ穴の狢というか、私は今カオナが二人いるような感覚を覚えて仕方がありません」
どうやら応援を頼む相手を間違えてしまったらしい。もういい、こうなったら自分一人の力で何とかするしかない。
「まぁいい、それよりもお前らミーコに何しやがった」
「あら、聞きたいの?」
「あぁ」
「じゃあ、そっちにいる可愛い娘さんを私にくださるかしら、そうすればこの子がどうなったのかを再現してあげましてよ」
どうやら話し合いで解決できる相手じゃないらしい、ならば力づくでいきたいところだったが、向こうには様子のおかしいミーコがいる。あれを何とかしないことには事態は良い方向へと進まない。だが、この状況をどうやって好転させればよいのかを俺には考えがつかなかった。
そんなことを考えていると、ふと頭上に重みを感じた。そして、それが悪魔図鑑であることに気づいた俺は、すかさず悪魔図鑑を手に取った。
「いやん、乱暴はよしてください主様」
「何を言う、そんな事よりも出番だぞ」
「出番、あぁ、ミーコさんのキャプチャーですね主様」
「そうだ、そうだぞ悪魔図鑑今こそお前の本領発揮する時だ」
「わかりました」
「できるだけこっちに引き寄せる感じで頼むぞ、多分向こうは突然の出来事にあっけにとられるはずだからな」
「かしこまりました」
俺は悪魔図鑑に合図をすると、悪魔図鑑から勢いよく触手が飛び出した。そして、その矛先はミーコであり、数多の触手たちはあっという間にミーコをからめとった。
この突拍子もない出来事に周囲は時が止まったかのように見とれており、そして、周囲が我に帰るころにはミーコは俺たちのもとで触手に埋もれながらもがいていた。
「よぉし、よくやったぞ悪魔図鑑」
「解析中・・・・・・解析中」
この時ばかりはまるでデジタルな機械の様になってしまうアナログな悪魔図鑑をよそに相手の様子を伺っていると、勧誘ババアは何が起こったのかわからない様子であたふたし始めた。
「ちょ、ちょっとぉ、一体何が起こっているのよ」
「うはははは、どうだ愚か者どもよ、これが我々の真の力よ」
「くっ、ただものではないと思っていたが、これほどまでとは」
悔しそうな勧誘ババアは唇をかみながら俺をにらみつけてきた。形勢は逆転し事態が好転するかに思われた。
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