第12話
4人席に座り、俺の隣にはカーラ対面にはヌエが贅沢にも二人分の席を一人で占領する形で座ることになった。
ほどなくして注文を取りに来た店員にヌエは熟考の末「ハンバーグセット」を注文した。
俺たちは朝食を取ったばかりということもありカーラはメロンクリームソーダ、俺はアイスティーフロートを頼んだ。注文を終えるとカーラが嬉しそうに俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇカオナ」
「なんだ」
「このメリークロームダーソンってなになに?」
「もうわざとだろお前」
「よくわかんないけど、このメロリンソーダはどんなの?」
「メロンクリームソーダはとてもおいしい飲み物だ、お前のような小さなお子様に大人気の素敵な飲み物だ覚えておけ」
「すごいっ、早く飲みたくなってきたカオナ」
「あぁ、もう少ししたらお姉さんが持ってきてくれるからそれまでおとなしくしてるんだ、俺はヌエと話をしなきゃいけない」
そうたしなめるとカーラは悪魔図鑑を抱きしめながら嬉しそうに待ち始めた。
こういう姿だけならいいのだが、こいつが人を操るほどの能力を秘めた悪魔だということをこの店にいる俺以外の奴は知らないというのは、とてつもない恐怖だろう。
そして目の前でカーラと同じように注文した品が届くのを待ちわびているヌエは、何かを思い出したかのように唐突に口を開いた。
「そうじゃ、カオナも同じ魔の者として伝えておかねばならないことがあるのじゃ」
「なんだ唐突に?」
「いいかカオナ、この場所でよくないことが起きようとしているのじゃ、わしはそのためにここに来たといっても過言ではない」
「良くないこと、なんだそれは」
「うむ単刀直入に、この場所から子どもが消えることになるのじゃ」
「どういうことだ?」
「言葉の通りじゃ」
何やら不穏な空気が流れたが、こいつののんきな喋りのせいでどうも緊迫感が伝わってこない。
「そうか、しかしどうしてそんな話を俺にする、この都には最高の兵士たちがそろっているんだ、そいつらにその話をしたらどうだ」
「それは・・・・・・」
そういうとヌエはすごく悲しい顔をした。あぁそうか、もしもそんなことを話そうものならその瞬間に補導されるか笑いものにされて、笑い話にされるかのどちらかだったのだろう。だが、俺は知らないふりをしてこいつの反応を楽しみたい。
「どうしてそんな顔をするんだ、兵士に言ってくればいいだろう、あいつらなら力になってくれると思うぞ」
「い、言ったのじゃ、だが信じてもらえなかったのじゃ」
残念そうな顔をするヌエ、こいつもこいつで相当無理をしたようだ。ぜひともその光景とやらを見てみたかったものだ。
「そりゃそうだろうなぁ、俺だって今の話を聞いても信じていないからな」
「ど、どうしてじゃ、そなたはわしと同じ魔の者ではないか信じてはくれないのか?」
「信じるも何も、この都から子どもが消えるなんてこといくら少子高齢化が進んだとしてもあり得ないからな。
そもそもこの世の中はどうあがいても子どもが生まれるようになっている。それくらい人間の性欲ってのは半端じゃないんだぞ、知らないのか?」
「し、知らなかったのじゃ、ではなくてそういう意味じゃないのじゃ、わしが言っているのは闇の勢力によって子どもたちが生贄になってしまうといっているのじゃ、セーヨクとかショーシコーレーカとか意味の分からないことを言わないでほしいのじゃっ」
いい加減「じゃ」という語尾がうっとおしくなってきたが、そこを指摘すると本格的にメンタルがやばそうなヌエは真面目な顔をしていた。
果たしてこれは中二病の妄想なのか、事実に基づく話なのか、俺にはどっちが本当でそうでないかがわからなりそうだ。だが、頭がないこと以外は普通な俺は、この発言を単純に妄想だと信じることにした。
「じゃあお前は闇の勢力がこの都に災厄をもたらすとでもいいたいのか?」
「そうじゃ」
「そうか」
「そうなのじゃ、だからそなたとわしでその闇の勢力をだな」
「いやはや参ったなこりゃ」
「ふぇ?」
「これはもうあれだな、ここにいる魔女っ子は完全に手が付けられないほど深刻なわけだ、なぁどう思う悪魔図鑑?」
「突然そんなことを聞かれましても、私は闇の勢力の事については詳しくありませんのでお答えすることはできません」
悪魔図鑑は至極当然な返答を返してきた。そう、この反応が普通そして目の前で驚いた様子の魔女っ子は異常だ。
「そりゃそうだ、俺だって闇の勢力については詳しくない、むしろ闇の勢力についてよく知っていたりしたらそれはすでに闇の勢力とかじゃなくて普通に悪いやつらに違いないし闇でも何でもない、そう思わないかヌエ」
「し、真剣に聞くのじゃ、あととてもいい声をいているのだな悪魔図鑑さん、わしとお話でもどうじゃ」
ヌエは随分と悪魔図鑑にほれ込んでいるようだった。
「あのなヌエ、こっちは真剣に聞いているんだ、それにここがいくらぶっ飛んだ世界だったとしても普通に考えて闇の勢力だとか子どもがいなくなってしまうだなんて非日常を誰が信じると思う」
「し、信じるのじゃ」
「そりゃあ、子どもがいなくなる事があったり闇の勢力が現れて悪さをしたりするのが当たり前なら信じてやらんこともないが、この都では俺に知る限りこの半年中にそんな非日常は起きていない。
これはつまりお前の言うことを信じてやれる人はこの都にはいないってことなんだ」
「で、でも本当なのじゃ」
「何か確信でもあるのか?」
「ある」
「ほぉ、聞かせてくれないかその確信とやらを」
「ふふん、何を隠そうこの場所に闇の勢力の一員が潜り込んだのをわしのこの素晴らしき魔眼が見たのじゃ」
「魔眼ってのはお前のその美しく赤い瞳の事か?」
「うむ」
「人違いとは思わなかったのか?」
「人違いではない、わしはしっかりとこの魔眼で見たのじゃ」
口調は相変わらずだが俺の事をじっと見つめてくるその目はさっきまでのヌエとは様子が違った。なんだか真剣な様子になんだか信じたくなってきてしまった。
「な、なんだその目はそんなに信じてほしければちゃんと説明するんだな魔女っ子ヌエ」
「言われなくてもするのじゃ」
「あぁ」
「うむ、わしはもともとここから離れたところにある街に住んでいたのじゃ」
「へぇ、なんて街だ?」
「リーベルという街じゃ、とてもいいところなのじゃ」
「ほぉ」
「そんな平和で安全な街で、ある日突然子どもたちがいなくなる事件が起こったのじゃ。子どもがいなくなったとあれば町中が大騒ぎであらゆるところに捜索がかかったのじゃ、だが、誘拐された子どもは見つかることはなかった」
「なるほど」
「そしてそれから数日が経った頃、なんと子どもがいなくなる事件が次から次へと起こり始めたのじゃ、それも一人二人の騒ぎではなく何十という子どもが一斉に消え始めたのじゃっ」
と言ったところでヌエは一息ついた。子どものとっては恐ろしく聞こえる話に隣にいたカーラは俺の袖をキュッと握ってきた。
「ねぇカオナ、なんか怖い話」
「そうだな、子どもが知らない誰かに連れされられるそうだ」
「ふ、ふーん、まぁ私は強いから連れ去られることなんてないけどさ、だから私のところには来ないかな」
「分からないぞ、俺のように顔のないやつがお前を連れ去りに来たらどうするんだ」
「それはだめっ」
「ダメだといっても来るかもしれないぞ」
「いやっ」
そういってカーラはさらに俺の袖を握る力を強めた。なんてかわいい姿だ、こんな姿を見せられたら毎日でも怖い話を読み聞かせたくなるじゃないか。
そうだな、今日は古本屋にでも行って怪談全集のようなものを買って帰るのもいいかもしれない。
それから蝋燭やドライアイスなんかも買ってきて、雰囲気作ったりなんかしたらカーラはどんな顔して俺のもとへとやってくるだろうか?
なんて思っていると、話の続きを語りたいのかヌエが不満そうな顔で俺を見つめてきた。
「おいカオナ、話をつづけてもよいか?」
「あ、あぁ」
表情がわからないはずなのにまるで心の中を見透かされたかのような態度は気に入らない。だが、信用することは難しいがそれなりに興味の持てる話に再び耳を傾けた。
そう思っていると突然グルグルと何かがうなるような声が聞こえてきた。
はて、野良犬でもやってきたのだろうかとあたりを見渡すもそこに野良犬のようなものはおらず、カーラの腹の虫が騒いだのかもしれない。
そうして彼女を見るも、彼女は俺の服の裾をつまんでいた。ならばと思い、ヌエへと目を向けると、少し顔を赤らめたヌエの姿があった。彼女はなんだか苦笑いした様子で目を背けていた。犯人はこいつらしい。
「あ、あははハンバーグセットはいつになったら来るのじゃ」
「あぁ、それならお前の腹の音に合わせてお姉さんが来てくれたぞ、それを食いながら話の続きをしてくれ」
まるでベル替わりの腹の音を聞いていたのか、ちょうど到着したハンバーグセットを嬉しそうに眺めたヌエは「いただきます」と行儀良く挨拶した後、貪るように食事を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます