エピローグ
それから数カ月が経ち、巷では入試や卒業の話が報道される季節となった。去年は卒論や就活で忙しかったよなあ~。そう思いながら最寄駅から改札を出ての帰り道、俺は一台の見慣れた車が道路に止まっているのに気がついた。もしやケイ?俺の姿を見かけたのか運転手が車を降り手招きをする。俺は車に近づいた。
後部座席の窓が開き「ヒロ、久しぶり。元気だった?」とケイの声がした。
「久しぶりだね、元気だよ。どうしたのこんな所で待っているなんて?」と俺は答えた。
「パーティーの後話す機会がなかったもの。あの後父と何度も話し合って、私の可能性を引き出すために日本ではなくアメリカに留学することにしたの。来月アメリカに渡航するから色々世話になったヒロにもう一度会ってお礼が言いたくて・・・・」
とケイは言った。桧山先生からケイの卒業のお祝いの席に来ないかと誘いを受けたが断っていたからな。もう会うことはないと思っていたんだけど、と俺は思ったが黙っていた。
「それでね、これ、気に入ってもらえるかわからないけど私からの気持ち」とケイはそう言って紙袋を窓から差し出した。「形あるものをどうしてもヒロの元に残したくて、受け取ってくれる?」とケイが言う。
「俺に!ありがとう。アメリカで頑張ってね。お父様と和解できてよかったね」と俺は言った。
「うん、ヒロのおかげよ。ありがとう。ヒロ元気でね。さようならは言わないわ」とケイ。
「ケイも元気でね。体に気を付けて」と俺が答えると。ケイは窓を閉め「車を出して」と運転手に言って手を振り、何かをこらえるように前を向いた。車はゆっくり走りだした。
俺は車が見えなくなるまで手を振って見送った。車が見えなくなり、俺はケイから渡された紙袋を見た。高級アクセサリー専門店の紙袋『形あるものをどうしても残したくって』『さよならは言わない』とケイの声がよみがえる。そしてダンスに明け暮れた日々が思い出された。俺は紙袋からゆっくりとケイの乗った車が走り去った方に目を移し「君の未来に幸あれ」と呟いた。
女装したい男、男装したい女 星之瞳 @tan1kuchan
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