パーティーが終わって
数日後俺は部長に呼び出された。なんか初めてケイに会った日みたいだなと思いながら俺は指定された応接室の前に行きノックした。「誰かね」と部長の声。「宮原です!」と俺が答えると「入りたまえ」と部長。「失礼します」と俺はドアを開け室内に入り一礼をした。「こっちに来て」と部長。俺は言われた通り応接セットの近くへと行った。ソファーに座っている人物を見て驚いた。橘社長だったから。
「橘社長、彼が
「それは間違いないのかね」と橘社長が言った。
「はい、お嬢様から指名されましたので」と部長は答えた。
「解った、彼と二人で話がしたい。しばらく席を外していてくれ」と橘社長は言った。部長はそれを聞いて立ち上がり部屋を出て行った。俺はどうしたものかと戸惑っていた。
「座りなさい、頬はもういいのかね」と橘社長は俺に聞いた。
「はい、もう大丈夫です」と俺は答えた。
「あれから慧の話を聞いたよ。私は慧には苦労させまいと思っていたが、あんなことをするほど思い詰めていたとは。君が言った通りお互いの気持ちがすれ違っていたということだね。今後のことを話し合ったんだが、慧が経営に向いているか解らない。そこで、アメリカに留学させようと思う。そこで経営学を学び、国際資格などを取って、適性が経営なのか経理なのか他にあるのか見極めようと思っている、その後、慧の気のすむ方法で私の役に立ってもらおうと決めた。日本の大学院と言う選択もあったんだが、私がそうだったように固定観念に縛られ、自由な発想や最新の情報を受け入れる度量がない。そこで、思い切って海外を経験させることにしたんだ」と橘社長は話した。
俺はうなずくのが精一杯。でもケイの思いが伝わったことを知って安堵した。
「ところで、宮原君うちに来る気はないかね?」と突然橘社長が言い出した。
「え!橘商事に来いということですか?」と俺が答えると、橘社長はうなずいた。
「お話は嬉しいですが、お断りします」と俺は答えた。
「なぜかね、君は気骨のある青年だし、待遇はよくするつもりだよ」と橘社長。
「私は今年入社した若輩者です。仕事のこともまだよくわかっていません。私のようなものが途中入社したとあっては橘社長に迷惑がかかる恐れがあります。ですからお受けできません」と俺は答えた。
「そうか…益々君のことが気に入った。それなら引き抜きはあきらめよう。それではもう一つ別の話。君は慧に恋愛感情はあるのかね?」と橘社長は聞いた。
「ありません!」俺は即答した。「慧様とって、私はダンスのパートナーでしかありえません。私が女性役として慧様のパートナーを引き受けたのは慧様の考えに共感したのと、わが社の部長に頼まれたためです」と俺は言った。
「そうか~。解った!時間を取らせて悪かったね、慧が世話になったから報告だけはしたかったし、君に直接会いたかったんだ。私の君への話は終わりだ。部長を呼んでくれないか?」と橘社長は言った。「ハイ」と俺は答えて「失礼します」と言い一礼して部屋を出て部長を呼びに行った。
部長に橘社長が呼んでいると伝え俺は仕事に戻った。
パーティーが終わって俺の日常が戻ってきた。変わったことと言えば、俺はあまり女装して出歩かなくなった。女装が嫌いになったわけではなく、あれだけ完璧な舞台メイクをした自分の顔を見せられると、女装するときの俺のメイクが自己満足なものに思え物足りなくなったから。それで近頃の休日は舞台メイクについて勉強することが多くなった。
仕事が忙しくてそれどころじゃなかったということもあるけれど・・・・。
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