ダンスの先生

10時半ごろになってケイは「そろそろ先生のところに行きましょうか、払ってきますね」と言って伝票を持って立ちあがり、支払いを済ませるとどこかに電話を掛けた。

「この先の道路に車で迎えに来るように言ってあります。移動しましょう」とケイは言い、立ち上がった俺と歩き始めた。

歩行者天国を抜けしばらく歩くと後ろから来た1台の車が止まった。後部座席のドアが開き「お嬢様お待たせしました」と運転手の声がした。

ケイが先に乗り、俺は後から乗った。俺が乗り込むと車は走り出した。

桧山ヒヤマ先生のご自宅で行先は間違いないでしょうか?」運転手はケイに聞いた。

「そうよ」ケイが答えた。「かしこまりました」運転手は答えそのあとは運転に集中したようで、無言になった。

俺は高級車の座席は初めてで、座り心地はいいのだが、なんだか場違いのようでそわそわしてしまった。それにケイって本当にお嬢様なんだな。お付きの車と運転手がいるようだし。使用人に話しているケイは上に立つ者の口ぶり。俺には普通に話してくれてるが。もし怒らせたら・・・。そうならないようにしないと。取引先のお嬢様だし、俺の将来にもかかわってくる。窓の外を見ながら俺は考えていた。

車は郊外へ、確かこの先は高級住宅街だが・・・。と俺は思った。住宅街に入って、ある大きな家の門のところで車は止まった。

ケイは窓を開けインターフォンのボタンを押した。「どちらさま?」と声がして、「ケイです」とケイが答えると、「今開けるわ、離れのダンススタジオまで来て頂戴」と声がした。

門が開き車は中へと入る。途中で母屋へ行く道を離れ、ダンススタジオの前で止まり。運転手が降りてきて後部座席のドアを開けた。「ケイ様どうぞ」ケイが降りると、運転手は俺の座席の方に回りドアを開け「ヒロ様どうぞ」と言った。俺は開けられたドアから車を降りた。運転手が後部座席のドアを閉め運転席に戻ると、ケイは運転手に「レッスンが終わったら連絡するから迎えに来て!」と言った。「承知いたしました」と運転手は言い車は走り去った。

「こっちよ」ケイが先立って案内する。入口のところに、50代ぐらいだろうか?一人の女性が待っていた。

ケイは「桧山先生お久しぶりです」と女性に話しかけ、一礼をした。「ケイさんお久しぶり、元気だった?ご家族もご健勝かしら?」と話しかけた。ケイは「ハイ」と明るく答えた。そして俺の方を向き「この方が桧山先生。私のダンスの先生なの。桧山先生こちらがヒロです」と二人を紹介した。「ヒロさんよくいらっしゃいました」と先生が言ったので、「初めまして。お世話になります」と俺は挨拶し、お辞儀をした。

「さ、詳しい話は中でしましょう」と桧山先生が言いダンススタジオの中に俺たちを案内した。


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